月日は流れ、盛沢市での暮らしにもすっかり自分なりのリズムができていた。朝起きたら市場へ食材を買いに行き、家に戻って朝食を作る。それから花屋へ行って、店を手伝う。午後は庭で陽射しを浴びながら本を読み、夜になれば海辺を散歩した。小さな街の夜は静かで、潮の匂いを含んだ海風が、ひんやりと頬を撫でていく。ある日の夜、海辺を散歩していると携帯が鳴った。見知らぬ番号からの電話。電話に出ると、聞き覚えのある声がした。「澄香」それは、駿介だった。私は立ち止まり、遠くの水平線を眺めた。すっかり夜に包まれた海と空は、どこが境目か分からないほど溶け合っている。「何?」「今、どこにいるんだ?」「あなたに関係ある?」電話越しに数秒の沈黙があったあと、彼は言った。「澄香、一度会えないか?」「会わない」「俺が悪かったのは分かってる」以前のような尊大さはなく、声は少し掠れていた。「結愛とはもう別れた。子供のことはまだ裁判中だけど……澄香、俺……」「駿介」私は話を遮った。「私にはもう関係のないことだから」「関係ないのは分かってる。でも謝りたかったんだ」駿介の声が沈んでいく。「あの日、廊下でお前がストレッチャーに乗せられてるのを見た。血まみれで……俺……」そこで駿介の言葉が途切れた。どうやら、その先が続かないらしい。「俺が悪かった。でもあの時は……結愛がお腹が痛いって言ったから、もう産まれるのかと思って、それで……」「駿介」私はもう一度遮った。「言い訳も謝罪もいらない。私たちはもう終わって、それぞれ自分の生活があるんだから、もう連絡しないで」「待ってくれ」焦った声が返ってくる。「会ってちゃんと謝りたい。今どこにいる?俺が行くから」「来なくていいから」「澄香――」私は電話を切り、携帯を握りしめたまましばらくその場に立ち尽くした。海風が通り抜け、少し体が冷える。私は目をつむり、大きく息を吸い込んだ。潮の香りが鼻を満たし、耳には波が砂浜へ打ち寄せる音が届いた。駿介の顔が浮かんだ。ランプを叩き割ったあの姿、私を追い払った時の冷たい表情、そして病院の廊下で、結愛を支えながら私に背を向けた後ろ姿。そんな記憶も今は古い写真のように、どこかぼやけている。私は目を開け、背を向けて家路についた。翌
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