助産師が赤ちゃんのへその緒を切った。私は痛みをこらえながら、生まれたばかりの、まだ見慣れない小さな顔を見つめた。そこにいるはずの郁真の姿はなかった。胸の中は、ただ空っぽだった。郁真とは6年付き合い、そのうち3年を夫婦として過ごした。それでも、郁真が知り合ってまだ半年の女の子にはかなわなかった。分娩室を出ると、待っていた母が心配そうに駆け寄ってきた。「澄花、大丈夫?気分は悪くない?」私の様子をひと通り確かめると、今度は腹立たしそうに眉を寄せた。「それにしても郁真くん、普段はしっかりしてるのに、どうしたのよ。澄花が出産してる最中に、電話一本かかってきただけで出ていくなんて。どんなに大事な用があったって、妻が子どもを産むときくらい、そばにいられないの?」私はかすかに口元をゆるめた。「お母さん。郁真、ほかの女に気持ちが移ってるの。離婚する」母の顔から怒りが消えた。しばらく言葉もなく私を見つめたあと、目に涙を浮かべながら、額の汗をそっと拭ってくれた。「澄花がそうしたいなら、お母さんは味方だから」その一言で、張り詰めていたものが一気にほどけた。もう平気なふりはできなかった。母の胸に顔を埋め、私は思いきり泣いた。18歳のころの郁真は、私のためなら、相手が何人いても迷わず前に出るような人だった。力尽きそうになっても、最後には私を抱き寄せて安心させてくれた。私のためなら何だってする。あのころは、本気でそう思っていた。そんな人が、今はほかの女を見ている。郁真の気持ちが離れたと気づいたときに、離婚するべきだった。それでも踏み切れなかった。お腹にはもう、この子がいたから。妊娠3か月を過ぎたころには、エコーでも小さな顔の輪郭がわかるようになっていた。だからある夜、洗面所から出てきた郁真に、私ははっきりと話を切り出した。その晩、郁真は書斎にこもった。私も眠れず、何度もベランダに出て夜風に当たった。最後に、郁真は私を選んだ。私の目の前で大学に指導教員の変更を申し出て、乃々香を同僚の教員に引き継いだ。あの夜、別々の部屋で眠ったことさえ、今では夢だったように思える。けれど、あの夜から、私たちの関係が少しずつ変わったことだけはわかっていた。いつか終わるのかもしれな
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