全身ずぶ濡れになって家に帰ると、ようやく悠人からメッセージが届いた。【暁音、今会社の下に着いた。どこにいる?】【タクシーで帰ってきた】そう返してから、スマホの電源を切り、もう気にしないことにした。熱いシャワーを浴びて出てくると、ちょうど彼が帰ってきた。少し疲れた顔をしている。「急に予定を変えるなら、どうして一言言ってくれなかったんだ?」私は答えず、ドライヤーを手に取って、すべての音をかき消すように髪を乾かし始めた。彼はため息をつくと、何気なくドライヤーを受け取った。「俺がやるよ」いつものように、優しく私の髪先を撫でる。けれど、その手がさっき真理の肩に置かれていたことを思い出した瞬間、吐き気が込み上げてきた。私は反射的に身を避けた。彼は眉をひそめ、顔にわずかな苛立ちを浮かべる。「今夜どうしたんだ?俺が時間通りに迎えに行かなかったからって、そんなに怒ることないだろ。前はこんなに機嫌悪くならなかったじゃないか」以前、夜勤帰りに痴漢に襲われかけたことがある。そのとき彼は、これからは一生俺が守ると誓ってくれた。それ以来、毎晩私を迎えに来てくれた。どんな天気の日も、一度も欠かさずに。私の会社が、家からほんの数分の距離にあることを彼は知っている。それなのに今夜、彼が優先して送り届けたのは、赤の他人だった。「これからは、迎えに来なくていい」喉が詰まった。その続き――「私たち、離婚しましょう」は、まだ口にできなかった。そのとき、インターホンが鳴った。真理が顔を覗かせ、私の横を通り越して、後ろにいる悠人へ視線を向ける。「先輩、今夜はありがとうございました。暁音さんが、先輩が私のことを心配してくれたことでヤキモチを焼くかもと思って……いろいろ考えたんですけど、やっぱり届けに来ました。急にお邪魔して、怒ってませんよね?」彼女はスーツを抱えながら、ぺろりと舌を出した。そのとき、私は襟元の刺繍に気づき、呆然とした。それは私が悠人の誕生日に贈ったものだった。そこには、私が自分の手で刺繍したジャスミンの花がある。私たちの愛の証だった。きれいに仕上げるために、何度も手を針で刺したこともある。彼はそんな私の手を見て心を痛め、定期的にこのスーツをアイロンがけしていた。それは、大切な
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