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第4話

Author: 江藤薫
再び目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。下腹部がひどく痙攣し、痛みだけがやけに生々しかった。

――子どもは、もういない。

私はしばらく静かに座ってから、母に電話をかけた。

「お母さん、会いたくなった。明日の7時の飛行機で帰るね」

母はすぐに応えた。

「そう。私も久しぶりに悠人くんに会いたかったのよ。ちょうどいいわ。一緒にご飯を食べましょう」

私が長いこと黙っていると、何かを察したのだろう。

しばらくして、母が優しく口を開いた。

「暁音、何があったとしても、私はあなたが決めたことを全部応援するからね」

かつて私は、悠人の仕事を支えるため、迷うことなく故郷を離れ、千キロ以上も離れた土地へついていった。

口に合わない料理を食べ、ぎこちない方言まで一生懸命覚えた。

あの頃、彼は母の前に跪き、涙を浮かべながら誓った。

一生、私を大切にすると。

7年もの時間をかけて、私はあの土地に馴染もうとした。

それでも最後まで気づけなかった。私は、結局ずっと異邦人だったのだ。

悠人が病室に入ってきたとき、私はすでに点滴の針を抜いていた。

「昨日、何も言わずに帰っただろ。真理ちゃんが、君が少し風邪を引いてたって言ってた」

彼は保温容器を手にしていた。

「お粥、持ってきた」

――真理ちゃん。

今となっては、彼は呼び方さえ取り繕う気がないらしい。

私は唇を吊り上げ、皮肉な笑みを浮かべた。

そして、受け取らなかった。

彼は私のベッド脇に腰を下ろした。

「昨日は俺も頭に血が上って、言い過ぎた。気にするなよ」

「分かってる」

分かっている。

彼が真理を宝物のように大切にしていることも。昨日の言葉が、どれも彼の本心だったことも。

長年寄り添ってきた二人だからこそ、どこを刺せば一番痛いのかを知っている。

彼は明らかにほっとしたようだ。

「ああ、そうだ。昨日、君、俺に何か話したいことがあったんじゃないのか?」

「何でもない」

私は妊娠検査の結果をバッグにしまい、立ち上がった。

「そうか」

彼はそう言うと、また真理の話を始めた。

「真理ちゃんがどれだけ心が広いか、君だって分かってるだろ。君に怪我をさせられても、一言だって悪く言わなかった。

それどころか、先に俺を病院へ来させたんだ。暁音、君も少しはあの子と仲良くできないのか?」

私は勢いよく顔を上げた。

「出て行って」

彼が何か言い返そうとした、そのとき、電話が鳴った。

次の瞬間、彼の顔色がみるみる変わった。

そして突然、私の手首を強く掴んだ。

「俺と来い。今すぐ誤解を解くんだ!」

あまりの力に、骨が砕けそうなほど手首に食い込む。

電話の向こうからは、ますます大きくなる泣き声が聞こえてきた。

「先輩、暁音さんを責めないでください。私たちに不適切な男女関係があるって書き込んだのも、きっとわざとじゃないんです。

うっ……私がちゃんとしてなかったから、誤解させちゃったんです」

悠人が私を振り返った。その目に、嫌悪が浮かんでいた。

「暁音、君がここまで性根の腐った人間だとは思わなかった。

彼女はまだ学生なんだぞ。こんな根も葉もない噂を流して、これから学校でどうやって生きていけっていうんだ!」

「私じゃない」私は彼の目をまっすぐ見つめ、一言ずつ言った。

「昔のことを根に持って、彼女をわざと狙ってるのは、君以外に誰がいる?」

そこまで言われた瞬間、言葉が喉で止まった。

もういい。何を言ったところで、彼は私を信じない。

病室に、束の間の沈黙が落ちた。

電話の向こうから聞こえる真理の声が、絶望に染まり、次第に遠く霞んでいく。

「先輩……みんな、私が先輩を誘惑したって……

もう生きていけない……

ごめんなさい。もし生まれ変われるなら、私たち、出会わなければよかったですね」

電話越しに、風が激しく吹き抜ける音が聞こえた。

次の瞬間――

ツーツーツー……

通話が切れた。

私は慌てている悠人の腕を掴んだ。

「これにサインしてから行って」

彼は書類を見ようともしなかった。離婚協議書に、素早くペンを走らせる。

そして振り返り、冷たい目で私を一瞥した。

「彼女に何かあったら、君とは絶対に終わらせないからな」

翌日、私は悠人の連絡先をすべて削除し、城山市へ戻る飛行機に乗った。

……

その頃、悠人は夜中までかかって、屋上から飛び降りようとしていた真理をようやく宥め終えていた。

だが帰宅する途中、頭の中には何度も暁音の青ざめた顔が浮かんだ。

ふと、同僚たちが話していた「転倒による大量出血」のことを思い出す。

胸の奥に、理由の分からない不安がじわじわと広がっていった。

何度も寝返りを打った末、朝になると、悠人は真っ先に病院へ向かった。

だが、病室のベッドは空っぽだった。

理由もなく、激しい焦燥感に襲われる。

彼は通りかかった看護師を呼び止めた。

「風邪を引いていた患者、西坂暁音はどこですか?」

「ああ、流産した方ですか?昨日もう退院しましたよ」

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