私が自ら取り立てに行かないからといって、すべてが帳消しになったわけではない。しかし、凌太にとって最大の壁は浩介ではなく、彼自身だった。後で聞いた話によると、春奈は凌太に「もっと会社に目を向けるように、海外がダメでも国内にはまだチャンスがあるはずだ」と幾度となく忠告したらしい。けれど彼は聞く耳を持たなかった。ただ来る日も来る日も浴びるように酒を飲み、泥酔し、酔いが覚めると私の姿を探し回った。私と浩介が住むマンションをなんとかして調べ上げ、入り口で日がな一日張り込んでいることもあった。警備員に追い払われても、場所を変えてまた張り込みを続ける。ある夜、残業で遅くに帰宅し、マンションのエントランスに向かうと、彼が待ち伏せしていた。疲れ果てていた私の目に飛び込んできたのは、壁にもたれかかる彼の姿だった。無精髭を伸ばし、目はくぼみ、まるで別人のように痩せこけている。私を見た瞬間、彼の目にパッと光が宿った。その輝きは、付き合い始めた頃、彼がデートの待ち合わせ場所で私を待っていた時の様子を思い出させた。けれど、それはもう、遠い昔の話だ。「七海」彼は掠れた声で私を呼んだ。「少しだけ話を聞いてくれ。話し終わったら、すぐに帰るから」私はその場に立ち止まったまま、動かなかった。「俺が悪かった」彼は目を赤くして言った。「あの5年間、俺は本当に最低だった。お前がいるのが当たり前だと思って、どうせ出て行かないだろうって甘えてた。サイズを間違えて、誕生日を忘れて、電話にも出なかった……全部俺のせいだ。七海、頼むからもう一度だけチャンスをくれないか、一度だけでいい、俺は――」「凌太、分かってる?」私はその言葉を遮った。「あなたがそういう言葉を口にするのは、いつだって私を失った後なのよ」彼は息を呑んで固まった。「5年間、あなたは一度だってそんなこと言ってくれなかったじゃない。私が結婚して、他人のものになって初めて、惜しくなったんでしょう?」私は決して目を逸らさず、彼を真っ直ぐに見据えた。「それは愛じゃないわ。ただの負け惜しみよ」彼の顔からサッと血の気が引いた。私は彼の横をすり抜けてオートロックのドアを抜け、エレベーターに乗り込んだ。背後から私の名前を呼ぶ声がしたが、振り返りはしなかった。
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