薔薇の花でいっぱいに飾られた新しい舟が水面に浮かぶと、周囲から囃し立てる声が上がる中、俺は背中を押された。「晃平さん、早く乗って!」「晃平、7年だぞ!やっとお前らも結ばれるんだな!」親友の倉田慎吾(くらた しんご)は興奮した声を上げていた。心から俺のことを喜んでくれているのが分かる。皆が見守る中、未桜が舟を降り、こちらへ歩いてきた。だが、俺のそばで足を止めたのはほんの一瞬だった。そのまま俺の横を通り過ぎ、最後に立ち止まったのは相沢直樹(あいざわ なおき)の前だった。「誕生日プレゼント。気に入った?」その声は軽やかで、どこか彼を甘やかすような響きを帯びていた。辺りは不自然なほど静まり返った。直樹の目には、隠しきれない喜びが浮かんでいた。二人は手をつなぎ、そのまま舟へ向かって歩いていく。再び俺の前を通り過ぎようとしたとき、未桜は足を止め、何でもないことのように言った。「晃平、この舟はひとまず直樹にあげることにしたの。次の舟はもう造り始めてるから、焦らないで」面白がるように二人を見る者もいれば、俺の顔を窺う者もいた。水郷でも有名な短気者の俺が、今にも大暴れするのを待っているようだった。けれど、俺はただ静かに彼女を見つめた。「もういらないよ、未桜」彼女はわずかに目を見開いた。俺がそんな反応をするとは思ってもいなかったらしい。妙な空気になったのを察し、未桜の親友たちが慌てて彼女をかばい始めた。「晃平さん、変に考えないで。未桜はただ、直樹の誕生日のお願いを聞いてあげただけだから!」「そうそう。未桜のお婿さんになるのは絶対に晃平さんなんだから」あまりにも苦しい言い訳を聞いていると、かえって笑いたくなった。隣にいた慎吾は悔しそうに歯を食いしばった。「未桜のやつ、よくこんなことができるな!この水郷じゃ、女が一生に一艘しか婚礼の舟を造れないことくらい、あいつだって分かってるだろ!」胸の奥に、じわりと苦いものが込み上げた。そうだ。この水郷では、3歳の子供でさえ知っている。女性が自ら造った最初の舟で愛する人のもとへ嫁いで初めて、夫婦が仲睦まじく添い遂げられると言われているのだ。隣で、慎吾が怒りを滲ませた声で吐き捨てた。「晃平、俺まで悔しくなってくる……人の恋人にちょっかい出し
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