家に戻ると、家の中は灯りもついておらず、ひっそりとしていた。研はまだ帰ってきていなかった。ダイニングテーブルの上には、朝出かける前に飾った花があった。花はもう、すっかり元気を失い、うなだれている。本来なら、記念日を彩るためのものだった。けれど今見ると、枯れゆくその花は、私たちの結婚の行き着く先を映しているようだった。私は玄関で灯りをつけ、うつむいたまま靴を脱いだ。昔、研はよく言っていた。私が家にいるかどうかは、すぐに分かる、と。どんなに遅い時間に帰ってきても、家の中から聞こえる生活音と、灯りがついているのを見れば、家には自分を待っている人がいると分かるのだと。けれど今になって、ようやく気づいた。彼が好きだったのは、私じゃない。いつも明かりが灯っていて、いつまでも自分を待ってくれる誰かがいる「家」が好きだっただけだ。私はキッチンには向かわず、そのまま書斎へ入った。書斎の一番奥の棚には、私の書類ケースが置いてある。パスポート、銀行のカード、父がこの数年で受けた手術の診療記録、それから祖母が私に残してくれた小さな家の権利書……どれも研とは関係のない、私だけのものだった。そして、ここを離れる私が何より先に持っていくべきものでもあった。書類をバッグにしまい終えたその時、玄関の鍵が回る音がした。研が帰ってきた。彼は靴を履き替えながら、うつむいたままスマホを見ていた。眉間には、面倒ごとを片付けたあとの疲れが浮かんでいる。車のキーを玄関の棚に置き、そこでようやく私の存在に気づいたように口を開いた。「もう帰ってたのか。寧々さんのところ、荷物の片付けが終わった」私は短く「うん」とだけ答えた。彼はダイニングのほうへ視線を向け、テーブルの上の萎れた花に気づくと、一瞬だけ動きを止めた。ネクタイを緩めながら、少し困ったような声で言う。「まだ怒ってるのか?今度埋め合わせるって言っただろ。寧々さんは一人で引っ越しだし、荷物も多かったんだ。それに、師匠が亡くなる前に寧々さんのことを頼むって言ってた。放っておくわけにはいかないだろ」私はバッグのファスナーを閉めた。「ええ。放っておかなくていいのよ」研が顔を上げ、私を見る。たぶん、私の声があまりにも静かだったからこそ、逆に落ち着かな
Baca selengkapnya