「晴兄貴がお嬢様を妻に迎えるんだって。3日後には結婚式を挙げるらしいぞ!」「だから言っただろ。晴兄貴が水原さんを選ぶなんて、ありえないって。彼女は……とにかく、晴兄貴とは釣り合わないよ」「びっこ」という言葉を誰も口にはしなかったが、みんな何を言いたいのかは分かっていた。その部下がその言葉を口にしなかったのも、ほかでもない晴也がそこにいたからだった。以前、ある部下が晴也の目の前で私を「びっこ」と呼んだことがある。その瞬間、彼は何も言わずに刀を取り出し、その男の脚を切り落とした。そして、冷たい目で言った。「これでお前もびっこだ」けれど、振り返った彼は、優しい眼差しで私を見つめた。「俺がいる限り、誰にもお前を傷つけさせない」その一件で、宗組の親分は彼の非情さを知り、彼を重用するようになった。それから間もなく、彼の名は港市中に知れ渡った。そして私も、当然のように彼が誰にも触れさせやしない逆鱗となり、もう誰も私を「びっこ」なんて呼ばなくなった。みんなが私を「水原さん」と敬意を込めて呼ぶだけだった。なのに今、晴也は別の女を妻に迎えようとしている。そう思った瞬間、胸を強くえぐられるような痛みが走り、息すらできなくなった。いつの間にか、車椅子がゆっくりと後ろへ滑っていた。海へ落ちそうになって初めて車椅子が後ろへ滑っていたことに気づき、私は反射的に目を閉じた。一瞬だけ、このまま死んでもいいと思った。そうすれば、もう晴也の重荷になることもない。けれど、どれだけ待っても、覚悟していた死は訪れなかった。誰かに車椅子から抱き上げられたからだ。目を開けると、そこには晴也がいた。その瞳には、いつもと変わらない優しさが宿っていた。「美海、怖がらなくていい。俺がいる」だが次の瞬間、宗組のお嬢様・宗優子(むね ゆうこ)が慌てた様子でこちらへ歩いてきた。彼女は私を見ると、一瞬だけ表情を曇らせた。けれど、すぐに心配そうな声で尋ねた。「美海ちゃん、大丈夫?」私は小さく首を横に振った。「大丈夫です」優子はようやく安心したように、ほっと息をついた。「よかった。私と晴也はちょうどウェディングドレスを選び終えたところよ。その帰りに、ここを通りかかったの。まさか、こんな場面に出くわすなんて思
Read more