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第4話

Author: 月明かり
しかし、その結婚式が行われる前に、晴也は激しい怒りを露わにして、私のもとへやって来た。

「美海、やりすぎだ。なぜ優子のウェディングドレスを切り裂いたんだ?ドレスを傷つければ、俺たちが結婚をやめるとでも思ったのか?」

私は慌てて弁解した。

「私じゃない!」

けれど、彼は聞く耳を持たなかった。

「使用人たちはみんな口を揃えて言っている。お前がこっそり抜け出して、ドレスを切り裂いたと。

証言も証拠も揃っているのに、まだ言い逃れをするつもりなのか。お前に本当にがっかりした」

そう言うと、彼は背後から短剣を取り出した。

「今まで俺がお前をきちんと躾けてこなかった。これからは俺が、人としてどう振る舞うべきかを教えてやる」

次の瞬間、彼は私の右手の甲を目がけて、短剣を振り上げた。

「この手でやったのか?これで、二度と同じことをしないよう覚えておけ」

冷たい光を放つ刃が振り下ろされた。

右手の甲に鋭い冷たさを感じた直後、えぐられるような激痛が襲ってきた。

血がどくどくと溢れ出し、あっという間に袖口を赤く染める。

真っ赤な血が、晴也の目にも焼きついたようだった。

彼は短剣を握る手をわずかに震わせていた。

まるで、自分が本当に手を下すことになるとは思っていなかったかのように。

「痛いか?」

彼の声はかすれていた。そこには、本人ですら気づかないほど小さな後悔が滲んでいた。

けれど、それもすぐに冷たい声へと変わった。

「痛い目を見なければ、していいことと悪いことの区別もつかないだろう 」

そう言うと、彼は手下へ命じた。

「彼女を島へ送れ。そこでよく反省させろ」

……

私は二人の手下に乱暴に船へ引きずり込まれ、そのまま孤島へ連れて行かれた。

右手の甲の傷に海水の塩分が染み、焼けるように痛んでいる。けれど、それは心が死んでいく痛みに比べれば、ほんの一万分の一にも満たなかった。

船室の外では、護送を任された二人の手下の会話が、海風に乗って途切れ途切れに聞こえてきた。

「晴兄貴、今回は本当に怒っているな。お嬢様のためとはいえ、まさか水原さんに手を上げるなんて」

「何も分かってないな。晴兄貴はずっと前から、あいつを追い出したかったんだ。お嬢様からも、あいつが目障りだから追い出してくれと強く迫られている。

それに、今の晴兄貴の立場を考えてみろ。びっこをそばに置いていたら、笑いものにされるだろう」

「でも、水原さんは10年も晴兄貴のそばにいたんだぞ……」

「10年がどうした?晴兄貴は前に言っていたじゃないか。昔、彼女に助けてもらった恩は、とっくに返したって。

びっこに一生足を引っ張られるわけにはいかないんだ。ドレスを切ったことだって、ただあいつを追い出すための口実にすぎない。

晴兄貴が本気で、あいつがやったと思っているとでも?」

その一言一言が、毒針のように私の心に突き刺さり、残っていた最後の希望まで打ち砕いた。

そうだったのだ。

私が宝物のように大切にしていた10年間の絆は、とうの昔に彼にとって、早く捨て去りたい「足手まとい」でしかなくなっていた。

徐々に近づいてくる孤島は、まるで私の心そのもののように荒れ果てていた。

手下たちは私を冷たい浜辺へ放り出すと、未練ひとつ見せず船を引き返した。

果てしない海を眺めながら、私は力なく右手を砂の上へ垂らした。

血は砂にまみれ、右手の甲は暗い赤色に染まっていた。

――もういい。晴也、これがあなたの望みだったのでしょう。

船が水平線の彼方へ消えて間もなく、空模様が急に変わった。

黒い雲が一気に押し寄せ、巨大な波が何の前触れもなく起こった。

まるで凶暴な獣のように、海岸全体を飲み込んでいった。

私は荒れ狂う波に一瞬でさらわれ、塩辛い水が肺へ流れ込んだ。

意識が遠のいていく中で、私は不思議なほどの解放感を覚えていた。

同じ頃、港市の中心街では教会の鐘が鳴り響いていた。

晴也は白いスーツに身を包み、今まさに優子へ結婚指輪をはめようとしていた。

その時、一人の手下が転がるように駆け込んできた。

そして、その悲痛な声が、華やかな祝福の雰囲気を一瞬で凍りつかせた。

「晴兄貴!大変です!島に……津波が来ました!水原さんが……亡くなりました!」

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