扉の向こうの救命処置室の外で、航平が笑いながら言うのが聞こえた。「妻は息子を庇って子宮に致命的な損傷を負った。一命を取り留めるため、やむを得ず子宮を全摘出した……そういうことにしておけ」「一ノ瀬様、それはさすがに……奥様はお子さんを亡くしたばかりなんです。そのうえ、二度と子どもを産めなくするなんて、あんまりじゃありませんか」と、医師のおびえた声が続いたが、航平は態度を変えずに答えた。「俺の子は、生涯律ひとりだけでいい。その代わり、紗和とは一生別れない。早く手術を始めてくれ。俺は律のところへ行く。あの子も美緒も、今は俺にいてほしいだろうから……。ああ、手術は慎重にやれよ。妻は痛がりだからな」遠のく意識の中、廊下を行く航平の足音が次第に遠ざかっていく。体の脇で握りしめた手には爪が深く食い込み、血がにじんでいた。こらえきれず、涙があふれた。私と息子が誇りに思っていた優しい夫、優しい父親はすべて偽りだった。彼が注いでくれた愛情も嘘だった。唯一の真実は、彼が6年間も周到に私たちを欺き、あの事故さえも仕組んで息子の心臓を奪ったということだけ。麻酔薬が全身へと巡り、意識が深い闇へと沈んでいく。無機質な医療器具が容赦なく体内へ差し込まれる冷たさに、私は何度も悪夢に苛まれた。果てしない暗闇の中、心臓をもぎ取られて胸を空っぽにした息子が立ち尽くしている。息子は私に向かって小さな手を伸ばし、泣き叫んでいた。「ママ、痛いよ……ママ……」「悠真!」悲鳴とともにはっと目を覚ますと、心配そうに見つめる航平の瞳が間近にあった。「紗和、やっと目が覚めたのか。意識を失っていたこの2日間、お前までいなくなってしまうんじゃないかと、どれほど生きた心地がしなかったか……」彼は震える腕で私を強く抱きしめた。「悠真を失った今、お前まで失うわけにはいかない」抱きしめられたまま航平の胸に耳を当てると、速い鼓動が伝わってきた。その言葉が本心だと信じてしまいそうなほどだった。「先生から聞いたよ。事故で子宮を傷めてしまい、もう子どもは望めないかもしれないって。でも大丈夫だ、俺にはお前さえいればそれでいい」何の迷いもなく告げるその姿に、以前の私なら、これほど素晴らしい夫に恵まれた幸せを噛みしめていただろう。けれど、全身に刻まれた傷跡と、母となる体を奪わ
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