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6年の愛は憎しみに変わった

6年の愛は憎しみに変わった

Por:  べつにCompleto
Idioma: Japanese
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夫の一ノ瀬航平(いちのせ こうへい)は、妻の私、一ノ瀬紗和(いちのせ さわ)と息子の一ノ瀬悠真(いちのせ ゆうま)を何より大切にする人だと、周囲でもよく知られていた。 私が星を見たいと言えば、大金をかけて流星群を再現し、息子がメリーゴーラウンドを気に入れば、息子の名をつけた最大規模の遊園地を造る。私たちのためなら、何も惜しまない夫だった。 息子と私が交通事故に遭った日も、航平は名だたる医師たちを呼び集め、私を助けようとしてくれた。かろうじて意識をつなぎとめながら、私より先に息子を助けてほしいと頼むと、夫は声を詰まらせ、病院へ運ばれる途中、失血多量で亡くなったのだと告げた。 あまりの悲しみに、それ以上は意識を保っていられなかった。 次に目を覚ましたとき、扉の向こうから航平と医師の話し声が聞こえてきた。 「悠真くんはまだ助けられたんですよ。それなのに、どうして……ご自分のお子さんを見捨てたのですか」 航平は何でもないことのように、葉山美緒(はやま みお)と、その息子の葉山律(はやま りつ)の名を口にした。 「悠真が生まれてきたのは、俺と美緒の子を助けるためだ。死ななければ、心臓を取り出して律に移植できないだろう。紗和と息子には十分よくしてきた。今度は返してもらう番だ」 夫が私たち母子に注いできた愛情は、息子の心臓を手に入れるためのものだった。私も息子も、その優しさを信じたまま、ほかならぬ夫の手で苦しめられていたのだ。 それなら、お望み通りにしてあげるわ。

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Capítulo 1

第1話

扉の向こうの救命処置室の外で、航平が笑いながら言うのが聞こえた。

「妻は息子を庇って子宮に致命的な損傷を負った。一命を取り留めるため、やむを得ず子宮を全摘出した……そういうことにしておけ」

「一ノ瀬様、それはさすがに……奥様はお子さんを亡くしたばかりなんです。そのうえ、二度と子どもを産めなくするなんて、あんまりじゃありませんか」と、医師のおびえた声が続いたが、航平は態度を変えずに答えた。

「俺の子は、生涯律ひとりだけでいい。その代わり、紗和とは一生別れない。

早く手術を始めてくれ。俺は律のところへ行く。あの子も美緒も、今は俺にいてほしいだろうから……。

ああ、手術は慎重にやれよ。妻は痛がりだからな」

遠のく意識の中、廊下を行く航平の足音が次第に遠ざかっていく。体の脇で握りしめた手には爪が深く食い込み、血がにじんでいた。こらえきれず、涙があふれた。

私と息子が誇りに思っていた優しい夫、優しい父親はすべて偽りだった。彼が注いでくれた愛情も嘘だった。唯一の真実は、彼が6年間も周到に私たちを欺き、あの事故さえも仕組んで息子の心臓を奪ったということだけ。

麻酔薬が全身へと巡り、意識が深い闇へと沈んでいく。無機質な医療器具が容赦なく体内へ差し込まれる冷たさに、私は何度も悪夢に苛まれた。

果てしない暗闇の中、心臓をもぎ取られて胸を空っぽにした息子が立ち尽くしている。息子は私に向かって小さな手を伸ばし、泣き叫んでいた。

「ママ、痛いよ……ママ……」

「悠真!」

悲鳴とともにはっと目を覚ますと、心配そうに見つめる航平の瞳が間近にあった。

「紗和、やっと目が覚めたのか。意識を失っていたこの2日間、お前までいなくなってしまうんじゃないかと、どれほど生きた心地がしなかったか……」

彼は震える腕で私を強く抱きしめた。

「悠真を失った今、お前まで失うわけにはいかない」

抱きしめられたまま航平の胸に耳を当てると、速い鼓動が伝わってきた。その言葉が本心だと信じてしまいそうなほどだった。

「先生から聞いたよ。事故で子宮を傷めてしまい、もう子どもは望めないかもしれないって。でも大丈夫だ、俺にはお前さえいればそれでいい」

何の迷いもなく告げるその姿に、以前の私なら、これほど素晴らしい夫に恵まれた幸せを噛みしめていただろう。けれど、全身に刻まれた傷跡と、母となる体を奪われた現実を前にして、彼の完璧な演技には吐き気しか覚えなかった。

私はさりげなくその体を押し返し、「悠真はどこ?あの子に会わせて」と尋ねた。

航平は一瞬言葉を詰まらせ、私の頭をそっと撫でながら声を落とした。

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kogorou21
kogorou21
クズ男はなぜクズ女が妊娠した時点で結婚しなかったのだろう?せっかく子どもが生まれるのだから、妊娠した時点で結婚していればこんな悲劇にはならなかったのに。結婚を選ばなかった時点で、クズ男の本性が分かるよ。あの2人が極刑になってほっとした。そしてその子どもも自分がどのような親たちによって生かされたか、記憶しながら生きていかねばならない。クズ男の実家でさえ切り捨てたのだからね。
2026-10-01 12:30:16
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松坂 美枝
松坂 美枝
あの子引き取るのかと思ったけどそうはならんか… 鬼畜男女が鬼畜すぎて閻魔様にしばいてもらいたい 恐ろしい奴らだった
2026-10-01 09:20:35
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第1話
扉の向こうの救命処置室の外で、航平が笑いながら言うのが聞こえた。「妻は息子を庇って子宮に致命的な損傷を負った。一命を取り留めるため、やむを得ず子宮を全摘出した……そういうことにしておけ」「一ノ瀬様、それはさすがに……奥様はお子さんを亡くしたばかりなんです。そのうえ、二度と子どもを産めなくするなんて、あんまりじゃありませんか」と、医師のおびえた声が続いたが、航平は態度を変えずに答えた。「俺の子は、生涯律ひとりだけでいい。その代わり、紗和とは一生別れない。早く手術を始めてくれ。俺は律のところへ行く。あの子も美緒も、今は俺にいてほしいだろうから……。ああ、手術は慎重にやれよ。妻は痛がりだからな」遠のく意識の中、廊下を行く航平の足音が次第に遠ざかっていく。体の脇で握りしめた手には爪が深く食い込み、血がにじんでいた。こらえきれず、涙があふれた。私と息子が誇りに思っていた優しい夫、優しい父親はすべて偽りだった。彼が注いでくれた愛情も嘘だった。唯一の真実は、彼が6年間も周到に私たちを欺き、あの事故さえも仕組んで息子の心臓を奪ったということだけ。麻酔薬が全身へと巡り、意識が深い闇へと沈んでいく。無機質な医療器具が容赦なく体内へ差し込まれる冷たさに、私は何度も悪夢に苛まれた。果てしない暗闇の中、心臓をもぎ取られて胸を空っぽにした息子が立ち尽くしている。息子は私に向かって小さな手を伸ばし、泣き叫んでいた。「ママ、痛いよ……ママ……」「悠真!」悲鳴とともにはっと目を覚ますと、心配そうに見つめる航平の瞳が間近にあった。「紗和、やっと目が覚めたのか。意識を失っていたこの2日間、お前までいなくなってしまうんじゃないかと、どれほど生きた心地がしなかったか……」彼は震える腕で私を強く抱きしめた。「悠真を失った今、お前まで失うわけにはいかない」抱きしめられたまま航平の胸に耳を当てると、速い鼓動が伝わってきた。その言葉が本心だと信じてしまいそうなほどだった。「先生から聞いたよ。事故で子宮を傷めてしまい、もう子どもは望めないかもしれないって。でも大丈夫だ、俺にはお前さえいればそれでいい」何の迷いもなく告げるその姿に、以前の私なら、これほど素晴らしい夫に恵まれた幸せを噛みしめていただろう。けれど、全身に刻まれた傷跡と、母となる体を奪わ
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第2話
「すまない、紗和。あの子の亡骸を見たら余計に傷つくだろうと思って、昨日すでに火葬の手配を済ませてしまったんだ」私を悲しませたくなかったのではない。心臓をえぐり取られた息子の胸を、見られるのが怖かっただけだ。瞳に渦巻く憎悪を必死で押し殺し、私は航平の手首に目を落とした。そこには不揃いな編み目の赤いブレスレットが巻かれていた。息子が生前、航平に贈ったお守りだった。事故の前、航平は夜な夜な不眠に悩まされていた。そんな父親を心配した息子は、学校の先生に編み方を教わり、赤いひもで作ったブレスレットを、安眠のお守りとして贈ったのだ。その時、航平は不格好なそのブレスレットを驚いたように見つめ、何か言いかけたまま、長い間言葉を発しなかった。息子に「パパ」と呼ばれてようやく受け取ると、大事に手首にはめ、息子を抱きしめた。「悠真、ありがとう。すごく嬉しいよ」今になって思えば、息子が父親の不眠を心配していた時、彼が眠れなかったのは、この偶然を装った事故を計画していたからだ。私の視線に気づいた航平の瞳に複雑な色が過り、咄嗟にスーツの袖で手首を覆い隠した。「約束するよ、紗和。俺も生涯をかけて、お前と一緒に悠真を偲び続ける」私はうつむいたまま、答えなかった。せめてもの救いは、息子が最後まで、父親に愛されていると信じていたことだった。だが、だからといって彼が息子を殺した事実を忘れるわけにはいかない。悠真、ママが必ず仇を取るから。そして、私たちを傷つけたこの裏表のある人殺しのもとから必ず去るから。病院の消毒薬のにおいを嫌がる私を、翌日、航平は家へ連れ帰った。その本性を知らなければ、航平は非の打ち所のない理想の夫だった。食べてはいけないものも覚えて自ら料理をし、事故のトラウマが残っているのを心配して、毎晩、足を湯につけてマッサージまでしてくれた。自宅に戻って3日目の朝、航平は会社に急用ができたと言い残し、足早に出かけていった。暗転しかけたスマートフォンの画面に、美緒からの通知が表示されたのを私は見逃さなかった。【航平、律がパパに会いたいって泣き叫んで手がつけられないの】美緒の息子の呼び出しには、二つ返事で駆けつけるのだ。私の息子は、父親に会いに向かう途中で命を落としたというのに。黙って航平を見送った後、私は3階へ上がり、書斎
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第3話
私との結婚は、そこまで自分を押し殺して耐え忍ばねばならない苦行だったのか。どうりで5年前、喜びに胸を膨らませて妊娠検査の結果を見せた時、航平が長いこと沈黙していたわけだ。そして義務を果たしたかのように、「ありがとう」と言った。悠真が生まれたときも、航平は抱こうとしなかった。初めてわが子を見たというのに、冷静に医師へ全身検査を命じ、なかでも心臓は念入りに調べるよう命じた。新婚の夜、明かりをつけなかった部屋で、私は窓から差す月明かりを頼りに夫の顔を見ていた。照れているのだと思っていたけれど、今思えば、彼が結婚したかった相手は私ではなく、見つめたかった相手も私ではなかったのだ。日記には取り留めもなく美緒と律のことばかりがつづられ、いちばん新しい日付は7日前だった。【久しぶりによく眠れた。あのお守りのおかげだろうか。夢を見た……】そこで文章は途切れていた。私もそれ以上読む気にはなれず、日記を写真に撮って、調査を頼んだ探偵に送った。元の場所に戻して書斎を出ると、ちょうど航平が帰ってきた。私が3階から下りてくるのを見て、平静な顔にわずかな焦りが走った。「どうして急に上の階へ?まだ傷が治ってないんだから、寝てないと」私は彼が無意識に差し出した手を拒んだ。「ずっと横になっているのも息が詰まるの」航平は探るように私の表情を見つめていたが、普段と変わらない様子に安堵のため息を漏らした。背中に隠していた紙袋を差し出してくる。「紗和の好きなお店のお菓子、買ってきたよ」確かに私の好物だった。だが5分前、美緒がインスタグラムに同じお菓子の写真を載せていた。【律が食べたいっておねだりしたら、車を2時間も飛ばして買ってきてくれた】彼女は以前から、こういう曖昧な投稿をよくしていたが、彼女の言う相手が自分の夫だなんて思いもしなかった。私は航平に気づかれないよう、その美緒の投稿に静かに「いいね」をつけた。もう少しだけ待とう。十分な証拠がそろったら、私と航平の関係も終わる。探偵に残りの報酬を支払った時、美緒から連絡が来た。郊外の別荘で会いたいという。暖色系でまとめられた室内は居心地がよく、私と航平の家とはまるで違っていた。彼はシンプルなものが好きだと言って、家中の家具や装飾はすべてモノトーンで統一されていた。リビングの
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第4話
渾身の力で美緒を突き飛ばすと、彼女は私の手を強引に引き寄せ、自らの頬を激しく叩いた。そして床へ大げさに倒れ込むと、怯えたような瞳で私を見上げてきた。「紗和さん、悠真くんのことは私も本当に胸を痛めているんです。でも、私が一体何をしたというのですか……どうしてこんな酷いことを……」事態を把握する間もなく、背後から強烈な力で突き飛ばされた。額がガラステーブルの角に激突し、鮮血が床に滴り落ちた。だが航平は私の傷口など一瞥もせず、血相を変えて美緒を抱き起こした。「美緒、大丈夫か?怪我はないか!」美緒はか細く首を横に振りながら、大粒の涙をこぼした。「航平、頭がすごく痛い」航平は眉を吊り上げ、鬼のような形相で私を怒鳴りつけた。「紗和、子どもを亡くしたからといって、ここで当たり散らしていい理由になると思うのか!今すぐ美緒に謝れ!」怒りと悲哀が頂点に達し、涙がとめどなく溢れ出た。「私の子は、あなたの実の息子でもあるのよ。4年間、あなたをパパって呼んでたのに!」航平の表情が凍りつき、手首のブレスレットを見つめた。その重みが急に耐えがたいものになったかのように腕が震え、私と目を合わせられなくなった。逃げるように背を向けても、胸を締めつける痛みで息さえままならないようだった。美緒のすすり泣きが聞こえると、航平はまるで救いの藁を掴んだかのように彼女を抱き上げ、「美緒、病院へ行こう」と足早に出ていった。ただ、私のそばを通り過ぎる時、その足取りはひどく重そうだった。スマホの中には、先ほど録音した音声と、探偵から送られてきた調査済みのすべての証拠があった。その中の一つの動画は、悠真が血だまりに倒れ、航平に向かって小さな手を伸ばしているものだった。「パパ、助けて。ぼく、痛いよ。パパ……」だが男は冷たい顔のまま、子どもの手が少しずつ、少しずつ地面に落ちていくのを黙って見ていた。私は画面の中の悠真の顔を見つめ、彼がパパを求める目を見た。その目に浮かんでいた期待は、やがて困惑に変わり、最後には絶望へと沈んでいった。私の子どもは、死ぬ前にパパが自分を愛していなかったという真実を知ってしまったのだ。あの子はその時、何を考えていたのだろう?自分が何か間違ったことをしたのか、それともなぜパパが自分にこんなことをするのか?あ
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第5話
航平と美緒が青ざめて駆け込んできた時、私はリビングの床に正座し、息子の遺影を静かに拭っていた。少しでも力を込めればあの子が痛がるのではないかと恐れるように、そっと、慎重に。遺影の中の悠真は満面の笑みを浮かべ、目を細めていた。この笑顔を生涯守り抜き、世界中の悪意から息子を遠ざけてみせると誓ったはずだった。誰よりも深く息子を害そうとしていたのが、息子が何より慕い、愛されていると信じ切っていた実の父親だったとは知らずに。「紗和、律はどこ!?あの子をどこへやったの!」私は顔も上げず、遺影を拭く手を止めなかった。「早く律を返して!でないと警察を呼ぶわよ。誘拐犯になったら、航平と離婚することになるのよ。世間に顔向けできなくなってもいいの?」我が子を手にかけた元凶の男の妻など、未練があると思っているのだろうか。私はゆっくりと顔を上げ、冷たい瞳で美緒を見据えた。「自分の子どもがいなくなったら私に返せと喚くのに、私の悠真がいなくなった時、私は誰に返せと言えばよかったの?」後ろめたさがある美緒は、私の言葉の棘に気づいて息を呑んだ。航平も内心では慌てていたが、自分の計画に抜かりはなく、隠し通せるはずだと、信じて疑わなかった。私が律に何かするのを恐れたのだろう。眉をひそめた航平は、怒りを必死に抑えながら言った。「紗和、律は何も悪くないだろう。美緒と折り合いが悪いからといって、罪のない子どもに八つ当たりをするな。悠真を失った悲しみは俺だって同じだ。だからといって、律を連れ去って美緒にも同じ地獄を味わわせようとするなんて筋が通らない。あの子をどこに隠したんだ。命に関わる問題なんだぞ!」その言葉に、私まで胸をえぐられたような気がした。悠真の遺影を強く抱いても、いくら力を込めても、胸に空いた穴を埋めることはできなかった。「命に関わる?」続く私の言葉は冷えきっていた。「あなたたちの息子が数時間いなくなっただけで?私の悠真は、何もしていないのに事故に遭わされて、心臓まで奪われたのよ。これについてなんていうの?」航平は顔つきを変え、私と目を合わせようともせずに言い返した。「何を言っているんだ!悠真は搬送途中の失血死だったと、死亡診断書にも明確に記載されていたはずだ。根拠のない妄想で……死んだあの子をこれ以上冒涜するな!」「失血死……
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第6話
「私の被害妄想だとでも言いたいの?航平、この期に及んでまだ私を欺き通せると思っているの!事故を起こして、主治医と結託して私を騙し、あの子の心臓を奪って美緒の息子に移植した。私が何も気づいていないとでも思っていたの!?」調べ上げた証拠を、私は残らず航平に叩きつけた。航平の顔から瞬時に血の気が引いた。美緒もすべてが露見したことを悟り、口元を手で覆ったまま恐怖に震える目で彼を見つめた。信じられない様子で次々と証拠を確かめる航平の手元には、美緒とのやり取り、律の診療記録、事故現場にいた航平を捉えた防犯カメラの映像があった。私の子宮を摘出するよう手配した、病院の記録さえそろっていた。何年もの間、張り巡らされてきた嘘のすべてを、私がすでに完全に把握していることを証明する決定打を前に、航平は息を荒くし、うろたえたまま低く怒鳴った。「こんなもの……全部デタラメだ!」航平は私の肩をつかむと、「俺たちの間を引き裂こうとする何者かが、悪意を持って偽造した罠だ!紗和、俺を信じてくれ。お前と悠真にあれほど尽くしてきた俺が、2人を裏切るような真似をするはずがないだろう!」と訴えた。私は笑った。「そうね。あなたはずっと私たちによくしてくれたわ。だから私と悠真も、世界で一番の夫であり、一番の父親だと信じ込んでいたのよ。でもね、あなたが救命室の前で医師と交わしていた会話のすべてを、私はこの耳ではっきりと聞いたの」航平の腕から力が抜け、だらりと垂れ下がった。「事故はあなたが仕組んだもの。悠真の心臓を奪って律に移植し、心臓病を治すためのね。最初から私たちの子どもを犠牲にする計画だった。これまで悠真を可愛がってきたのも、すべては自分のやましい罪悪感を誤魔化すためだったんでしょう?医師に命じて私の子宮を奪わせたのもあなたよ。愛する息子を奪っただけでなく、私から母親になる未来まで永遠に奪い去った!」航平は何かを弁解しようと口を開けたが、喉がつかえたように声は出なかった。「子どもは律ひとりだけでいい、それでも私とは一生別れないって言ってたわね」私は鼻で笑い、「こっちだって、あなたの妻でなんかいたくない!」と言い捨てた。私は全身の憎悪を込め、目の前の2人を睨みつけた。「悠真にしたことは絶対に許さない。世間にどう思われようと、何もかも失おうと、あの
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第7話
「もう、あなたの言葉は何ひとつ信じない。警察に証拠を渡して、あなたにも、大切なあの人にも……」航平の告白に驚き、言い逃れるすべを失った美緒を指さして、私は続けた。「犯した罪の報いを受けてもらう」「警察はだめ!」美緒は航平の腕をつかみ、激しく揺さぶった。「証拠を警察に渡されたら、私たち2人とも実刑は免れないのよ!航平、しっかりして!死ぬならひとりで死になさいよ、私を巻き込まないで!」私が証拠をまとめ、玄関へ向かって歩き出すと、航平は美緒の手を冷たく振り払い、私の手首を強く掴み止めた。「紗和、俺が悪かった。お前にも、息子にも……」すがるような声が途切れると同時に、サイレンが響き、玄関から警察官が入ってきた。航平がとっさに手を離すと、私は足早に警察官の背後へと身を隠し、警察官たちは瞬く間に航平と美緒を包囲した。「一ノ瀬さん、葉山さん。殺人と違法な臓器移植に関わった疑いで通報がありました。署までご同行ください」「ち、違うんです!」美緒は叫んで私を指さした。「何かの間違いです!この女です、この女を逮捕してください!私の息子を誘拐したんです!捕まえるべき相手はこの女でしょう!」上の階から足音がして顔を上げると、律が目をこすりながら書斎から出てきた。寝起きの様子で、「パパ、ママ、迎えに来てくれたの?」と声をかけた。美緒は真っ青になった。「あなた……最初から通報していたのね。律を使って私たちを呼び出して……騙したわね!」私は冷ややかに美緒を見返し、証拠をすべて警察官に渡した。「この2人がしたことの証拠です。法に従って処罰してください」それでも美緒は、なりふり構わず悪あがきを続けた。「この人、一ノ瀬家の跡取りで、一ノ瀬グループの社長なのよ!お偉いさんとのコネがあるのよ?逮捕なんかして、ただで済むと思わないで!私は捕まえないで!何もしてないわ!全部、航平が仕組んだの、私は何も知らなかったのよ!」すべての罪を自分ひとりに擦り付けようとする美緒を、航平は信じられない思いで見つめた。毒づき、見境なく人を責める姿は、まるで知らない女のようだった。パトカーに乗せられる直前、航平がこちらを振り返った。悔やんでいるのも、すまないと思っているのも分かった。けれど、その目には、かつて私に向けていた愛情まであるように見えた
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第8話
航平の整った横顔を見ながら、この人が何年もかけて、私と悠真に見せてきた幸せな夢を思い返していた。その夢が破れて初めて、自分たちが逃げ場のない網に絡め取られていたと知ったのだ。航平は美緒の嘘を糾弾しなかったものの、自ら罪を被るほど愚かでもなく、そのため、第1審は思うような結果にはならなかった。第2審の開廷を前に、私は悠真に会いに行った。白い菊を墓前に供え、墓石に深く刻まれた息子の名前をそっと指先でなぞった。ほんの少し前まで、あの子は私の前で元気に跳びはね、次の休みに海へ連れて行ってほしいと無邪気にねだっていた。その約束を果たすため、私と航平は浮き輪や水着、ゴーグルを買い揃えたのだ。夏休みはあっという間に訪れ、本来なら思い切り太陽の下を駆け回っているはずだった。それなのに、あんなに活発で賑やかな場所が好きだった私の悠真は、今、冷たい土の下で永遠の沈黙に沈んでいる。ショッピングモールの賑わいに目を輝かせ、はしゃぎ回る息子を見つめていたあの日の航平の瞳を思い出す。時折見せた戸惑い、哀れみ、そして躊躇い。当時の私は不思議に思いながらも、何年にもわたって注がれた偽りの優しさに毒され、警戒心を抱くことすらできなかったのだ。買ってもらったおもちゃを持って父親の胸に飛び込み、首に腕を回して「パパ大好き」と言っていた悠真。だけどそのとき航平は、あの子の命を奪う事故と心臓を奪い去る手術を計画していたのだ。その時、長く骨ばった手が伸び、白い菊の隣に黄色い菊の花束を供えた。航平だった。一ノ瀬家の力を考えれば、彼がここに現れても不思議ではなかった。悠真の墓を見つめていた航平の顔は苦痛に歪み、固く閉じた目尻から涙が零れ落ちた。「悠真……パパが悪かった」それを聞いて、私は冷ややかに笑った。「あの子が血だまりの中であなたに助けを求めた時、自分が父親だって忘れてたの?」「お前たちにしたことは、一生かかっても償いきれない」航平は言い訳しなかったが、私は取り合わなかった。「だったら、早く帰って。私も悠真も、来てほしくないの」航平は顔をそむけ、手の甲で涙を拭った。その拍子に袖口からのぞいた赤いブレスレットが見えた瞬間、私はとうとう感情を抑えきれなくなった。「航平、あなたに人の心はあるの!?そのブレスレットはね、悠真が宿題を終えた後のわずかな
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第9話
航平は苦しみに満ちた眼差しを私に向け、話し始めた。「分かっている。今さら何を言おうと、何をしようと、お前と悠真が俺を許してくれるはずがないことは。俺がすべてを誤った。自業自得だ。どんな報いも受け入れる。離婚届には必ず判を押す。だが、今すぐというわけにはいかないんだ。頼むから、あと数日だけ時間をくれ。最後にもう一度だけ、お前と悠真のためにできることをさせてほしい。信じられないだろうが……今度こそ、絶対に2人を裏切らない」息子の墓前に向かって深々と頭を垂れた。こぼれ落ちた涙が、足元の乾いた土を黒く濡らしていく。やがて身を起こした航平は背を向けて立ち去ろうとしたが、数歩進んだところで足を止め、振り返った。「紗和。最初は確かに、お前たちを欺くための優しさだった。けれど、いつの間にか本気で大切に思うようになっていた。悠真を犠牲にするなんてできない、お前が悲しむところも見たくないと思うようになっていた。けれど、律の心臓は悪くなる一方で、美緒からも『自分の家庭ができたら、私たちのことはどうでもいいのか』と責められた。あのとき、判断を誤ったんだと思う。2人との約束を果たそうと、心を鬼にして事故と手術を仕組んだ。悠真が息絶えていく姿を目の当たりにした時、心臓が握り潰されるほど痛かった。声も出せず、指一本すら動かせなかった。次の瞬間には泣き崩れてしまいそうで、必死で無表情を装った。これでいいんだ、すべて計画どおりなんだって自分に言い聞かせた。律に心臓を移植するために、あの子をもうけたんだからって。それでも涙は止まらなかった。律の手術中、俺は病院のトイレに籠もり、午後ずっと煙草を吸いながら声を殺して泣き続けた。美緒もずっと俺を探していたが、俺を見つけられるはずもなかった。お前と別れたくなかったのは、埋め合わせのためだけじゃない。俺の妻はお前しかいないと思ってた。今になって美緒の醜い本性に気づいたが、すべては手遅れだった……紗和、俺は知らず知らずのうちに、お前を心から愛していたんだ。今さらこんなことを伝えても、何の救いにもならないだろうが……」私は、かつて航平が大金を注ぎ込んで私に見せてくれた、あの流星群を思い出していた。空いっぱいに星が流れる中、両手を合わせ、家族3人、いつまでも愛し合って、離れずにいられますようにと願った。けれど、あの流れ
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第10話
死刑が執行された日、私はその場へは行かず、息子の墓を訪れた。「悠真、ママやったよ。あなたを傷つけた人はみんな、相応の報いを受けたわ。航平とは離婚したの。でも、ママがこの先ずっとひとりぼっちになるんじゃないかって心配しなくていいからね。あの人が全財産をママに譲渡してくれたから、その資金で財団を立ち上げることにしたの。あなたのように違法に臓器を摘出された子どもたちや、そのせいで我が子を失った家族を支援するための財団よ。悠真、ママはあなたに会いたい……」……1年後、私は児童養護施設でボランティアとして子どもたちの世話をしていた。無邪気に遊ぶ子どもたちの輪から少し離れた場所に、見覚えのある小さな背中を見つけた。部屋の隅にぽつんと座り、うつむいて古びた飛行機の模型で遊んでいたのは、律だった。私は静かに歩み寄り、その前にしゃがみ込んで優しく声をかけた。「律くん?」男の子は顔を上げ、大きな瞳でじっと私を見つめた。「お姉ちゃんのこと、覚えてるよ」か細い声でそう呟かれた瞬間、胸に複雑な思いが込み上げた。あの日、美緒の家から律を連れ出したとき、私の頭は復讐のことでいっぱいだった。けれど、この子は少しも私を疑わず、悠真が好きだったお菓子を食べ、飲み物を飲んで、あの子のおもちゃで楽しそうに遊んでいた。笑うと三日月のように細くなるその目元は、悠真を思い出させた。涙が溢れそうになり、思わず背を向けた私に、律は不安そうな声をかけてきたのだ。「お姉ちゃん、どうしたの?ぼく、何か怒らせることしちゃった?」この子は私の悠真と同じように、他人の痛みに寄り添える優しい子どもだった。私は首を横に振り、声を詰まらせながら答えた。「ううん。自分の子どものことを思い出していただけよ」「その子は今、どこにいるの?」私が律の頭を撫でながら「お空の星になったの」と教えると、律は何かを察したようだった。「お姉ちゃん、泣かないで。お姉ちゃんは律にすごく優しくしてくれたから、律が寂しくないようにしてあげるね」やがて遊び疲れた律は、子猫のように私の膝元で丸まり、すやすやと寝息を立て始めた。薄いシャツ越しに胸へ耳を当てると、かつて私の息子の胸にあった健やかな心臓が、力強くトクトクと脈打っていた。その瞬間、胸の中で渦巻いていた昏い復讐の
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