私は死んだ。魂はつかみどころのない煙のようにふわふわと漂い、意思に反して颯人のそばから離れられなかった。執着が深すぎたのかもしれない。肉体を失ってなお、10年愛し、同じだけ恨んだこの男から遠ざかることができなかった。私の訃報を知らせる電話を受けても、颯人の顔には何の変化もなかった。それどころか、すぐに押し隠されたごくわずかな嫌悪と安堵を、私は見逃さなかった。「死んだなら、それでいい。葬儀社に任せて、そのまま火葬しろ」颯人が電話の相手に冷たく命じる声には、何の感情もなかった。まるで、どうでもいいごみの処分について話しているかのようだった。「遺骨?取りに行く暇なんかない。森下に処分させればいい」もう心臓など残っていないはずなのに、それでも鋭い痛みが走った。魂そのものを引き裂かれたようだった。5年も夫婦として暮らしていれば、どれだけ冷たい人でも、少しくらいは情が移ると思っていた。だが颯人の心は、決して解けない氷よりも冷たかった。次に私の死を知ったのは、実の両親である榊原隆之(さかきばら たかゆき)と佳代子(かよこ)だった。二人は私の最期の姿を見に来ることもなく、怜奈を固く抱き締めて泣き崩れていた。「怜奈……これから榊原家の娘は、あなただけよ」佳代子は声を詰まらせた。隆之は怜奈の背中を撫で、痛ましげに見つめていた。私のために涙を流す者は、一人もいなかった。二人にとって私の死は重荷からの解放であり、怜奈に対する「負い目」をようやく清算できる出来事だったらしい。【私は、取り違えられた榊原家の実の娘。15歳のとき、寂れた田舎から連れ戻された。15年間、私の代わりに榊原家の娘として育った怜奈は、私が屋敷へ足を踏み入れた途端、泣きながら飛び出していった。私がすべてを奪ったのだと、声を枯らして訴えながら。あのとき、怜奈の隣にいた颯人は、仇でも見るような目で私を射抜き、一言ずつ噛みしめるように言った。「榊原希、お前みたいな性悪女のせいで、怜奈は家を失ったんだ」けれど、本当は私のほうが、怜奈に15年分の恵まれた人生を奪われ、養父母に虐げられてきた。どうして、誰もが私を責めるの?】眠れない夜が来るたび、私はこの言葉を非公開のブログに書き込んでいた。そこだけが、苦しみを打ち明けられる唯一の場
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