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第2話

Autor: 七時になったらおきましょう
だが、その驚きはすぐに激しい怒りへ変わった。

「彼の子どもだと?」

颯人は歯を食いしばり、冷たく吐き捨てた。

「希、よくもやってくれたな。死んでまで、俺に恥をかかせるつもりか!」

ああ、なんてばかばかしいのだろう。

颯人は、私が不倫をしたと思い込んでいた。

無理もない。颯人の目に映る私は、恥知らずで、腹黒い女でしかなかったのだから。

あの「彼」が自分を指しているなど、考えもしなかったのだろう。

私と颯人の結婚は、家同士の利害を結ぶだけのものだった。そこに愛情はなかった。

それでも私は、5年も一緒にいれば、いつかは振り向いてくれる。怜奈のせいでこじれた誤解だって、いつかは解ける。

そんなふうに、馬鹿みたいに信じていた。

だが颯人は、私を見るだけでも目が汚れると言わんばかりに、心の底から嫌っていた。

数えるほどしかなかった夫婦の営みでも、颯人は目を閉じ、わざと怜奈の名を呼んだ。

その声を聞くたび、胸をえぐられるようだった。

そのたび、さらし者にされ、逃げ場もないまま傷つけられているようだった。

颯人は画面の文字をにらみつけていた。顔は怒りで青ざめ、目には炎が燃えているかのようだった。

本人さえ気づかない焦りが、激しい怒りと共に胸の内で渦巻いていた。私の書いた「彼」が誰なのか、突き止めずにはいられなかったのだ。

この女は、自分に隠れてほかにどれほど卑しい真似をしてきたのか、と。

颯人は汚れのついた画面を乱暴になぞり、ほとんど無意識に自分の誕生日を入力した。

画面のロックが解除された。

颯人は一瞬、呆然とした。

まだ私が榊原家へ戻ったばかりの頃、私はおずおずと颯人の誕生日を尋ねたことがあった。誕生日プレゼントを用意したいと伝えて。

颯人はうっとうしそうに私を一瞥し、適当に日にちを答えただけだった。私がそれを何年も大切に覚えているとは、思いもしなかったのだろう。

颯人の目に、一瞬だけ言葉にできない感情が浮かんだ。

何をしても離れない私に慣れきり、どこかで、私を思いどおりにできると思っていたのかもしれない。

だがそれも、すぐにより激しい怒りにのみ込まれた。

「ほかの男を作っても、まだ俺に未練があるのか。どこまで卑しい女なんだ」

低く吐き捨て、未公開の記事を開いた。

全文が画面に映し出された。

【結婚記念日に、このことを彼に伝えよう。きっと喜んでくれる。私たちにとって、何よりの記念日のプレゼントになるはず】

結婚記念日。

私の魂は、記憶の中をさまよった。

妊娠が分かった日は、ちょうど5回目の結婚記念日だった。

私は胸を躍らせながらキャンドルを灯し、颯人の好きな夕食を用意した。妊娠を伝えれば、少しでも驚きや、父親になる喜びを見せてくれるのではないかと期待していた。

だが待っていたのは、一度は帰宅したものの、すぐにまた出ていく颯人の後ろ姿だった。

怜奈から電話があり、独りでいるのに外では雷が鳴っていて、暗い部屋が怖いと言ったのだ。

颯人は私も、心を込めて作った料理も残し、そのまま朝まで帰らなかった。

あの夜、ろうそくは燃え尽き、私の心も冷え切った。

宙に浮かんだまま、複雑に歪む颯人の顔を見つめた。そこに復讐を遂げた喜びなどなく、果てしない悲しみだけが残っていた。

この人は、どこまで鈍いのだろう。どうして、ここまで私の気持ちを踏みにじれるのだろう。

そして私は、そんな男を愚かにも愛していた。

颯人は険しい表情のまま、ブログをさらに遡った。

やがて眉を強くひそめた。心を揺さぶられたような戸惑いが、その目に浮かんだ。

私が榊原家へ戻って間もない頃に書いた記事だった。

【彼は、私のことを忘れてしまったみたい。

昔、黒岩山で会った、全身傷だらけの男の子。私を一生守ると、確かに約束してくれた。

名前は黒川颯人だと言っていた。

なのに今は、どうしてあんなに冷たい目で私を見るの?

決して許せない敵を見るような目で】

黒岩山。

颯人の瞳孔が大きく見開かれた。

記憶の奥底へ無理やり封じ込めていた幼い日の恐怖と、その中に残る、かすかで温かな断片が一気によみがえった。

ぼんやりと浮かぶ少女の姿。澄んだ意志の強い瞳。自分も傷だらけなのに、小さく痩せた体で颯人を背負い、ふらつくことなく山を下りていった。

わずかな期待が胸に灯った。だが、それ以上に苦い思いがこみ上げた。

ようやく真実の一端に気づいてくれるのだろうか。

それが、ほんの小さな始まりにすぎなくても。

颯人の顔には疑念が広がり、何か大切なことを思い出しかけていた。息さえ荒くなった、そのときだった。

オフィスのドアがノックされた。

返事を待たずに扉が開いた。

怜奈がハンドドリップで淹れたコーヒーを手に、にこやかに入ってきた。甘えるような声を響かせた。

「颯人くん、お仕事お疲れさま。大好きなブルーマウンテンを淹れてきたの」

怜奈は軽やかな足取りでデスクに近づき、さりげない素振りで颯人の持つタブレットに目を向けた。

画面にある「黒岩山」の文字を見た瞬間、カップを持つ手がかすかに震えた。笑みも一瞬こわばったが、すぐに怯えたような表情を作り、小さく声を上げた。

「えっ……希お姉ちゃんのブログ、どうして……昔なくした私の日記と、まったく同じことが書いてあるの?」

怜奈は口元を手で覆った。大きな目には涙があふれ、ひどく傷ついたような顔をしていた。

「引っ越したときに、あの日記をなくしてしまったの。ずっと悲しかった。まさか……希お姉ちゃんが……」

怜奈は今にも泣きだしそうに颯人を見つめ、頃合いを見計らったように声を詰まらせた。

「きっと私の日記を拾って、そっくりそのままブログに書き写したのよ。

前にも脅されたの。黒岩山で颯人くんを助けたのはお姉ちゃんだと認めなければ、私が榊原家の本当の娘ではないと、みんなに言いふらすって……」

颯人は、「彼の子どもを授かった」という一文を目にした瞬間から、怒りを抑えきれずにいた。

しかも、黒岩山で命を救われたあの日の記憶は、彼にとって今も特別なものだった。

怜奈が事実を都合よくすり替え、涙ながらに訴えたことで、私に対して芽生えかけていた違和感も、まだ形にならない感情も、すべてかき消された。

残ったのは、私への嫌悪と、怜奈への同情だけだった。

颯人の目には、私は死んでもなお怜奈を陥れようとする、救いようのない女にしか映らなかった。

死んだあとまで、卑劣なやり方で怜奈を陥れようとしている――そう思っていた。

鋭い音が響いた。

颯人はタブレットを床へ叩きつけた。画面はたちまちひび割れ、耳障りな破砕音を立てた。

「どこまで腐った女なんだ!」

怒鳴る颯人の額には、青筋が浮かんでいた。

砕けた画面を見つめていると、胸が痛んだ。二度と元へ戻らないほど壊れた、私の心そのものを見ているようだった。

違うと叫びたかった。怜奈の偽善の仮面を剥ぎ取りたかった。

けれど、今の私は実体のない魂にすぎない。何もできず、颯人がまた騙される様子を見ているしかなかった。

怜奈の瞳に、得意げで意地の悪い光がひそかに浮かんだ。だが、すぐに悲しげで思いやりに満ちた表情を作った。

颯人のそばに歩み寄り、そっと手を握って優しくなだめた。

「颯人くん、もう怒らないで。そんな人のために腹を立てて、体を壊したら大変よ」

一度言葉を切ると、弱々しさと焦りをにじませた声で続けた。

「先生には、もう長くないかもしれないと言われたの。私の願いは一つだけ。颯人くんと結婚して、本当の花嫁になることよ。最後の願いを、かなえてくれる?」

青白く、か弱く見える怜奈の顔を見つめるうちに、颯人の怒りは次第に静まった。代わりに、憐れみと罪悪感が湧き上がった。

颯人は深く息を吸い、低い声で答えた。

「分かった。怜奈、結婚しよう」

そばで聞いていた私は、怒りで形のない体まで大きく揺らいだ。今にも姿を保てなくなりそうだった。

なんてばかばかしい。どこまで愚かなのだろう。

この男は、いつまで怜奈に騙され続けるつもりなのか。

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