「同じお部屋にお住まいのお二人は、こちらへどうぞ」相談会の受付で言われ、紗良は名札を受け取る手を止めた。間違ってはいない。302号室で、もう4か月近く暮らしている。けれど周りの人までこちらを見たので、つい言葉が出た。「私たち、そういう関係じゃないので」受付の女性が慌てて手元を見た。「あ、すみません。同じ住所とあったので……」「同じ部屋で被害に遭っています」遼が二人分の名札を受け取った。声は普通だった。ただ、紗良の顔は見なかった。高木名義の物件で、確認できた入居者は十三人になっていた。保証協会への相談と認証の申出、行政の窓口への情報提供、民事の請求。説明を聞きながら、紗良は期限の横へ星をつけた。遼も質問を二つした。休憩では自分の分だけ水を買い、席へ戻った。紗良は鞄の中のペットボトルを探した。持ってきていなかった。外は小雨だった。傘は一本。来る時には、何も考えずに寄り添っていた。遼が、その傘を紗良へ渡した。「使って」「遼さんは?」「駅、近いから」「一緒に入ればいいじゃん」「そういう関係じゃないんでしょ」紗良は足を止めた。「その話、今する?」「今じゃなかったら、いつするの」「被害者の集まりで、恋愛してるみたいに見られたくなかっただけ」遼は一度、傘の下から離れた。雨が肩に点々と落ちた。「見られたくないのと、俺と付き合いたくないのは、同じ?」「私たち、いつ付き合ったの?」言ってから、しまったと思った。台所で、玄関で、キスをした。遼の部屋で朝方まで眠った。帰宅を気にし、食べ物を残し、電話が来ればすぐ出た。でも、付き合おうとは言っていない。言わないで、と頼んだのは紗良だった。「そうだな」遼は濡れた髪を払った。「いつまで、このままでいる?」「家のことも片づいてないのに、今決めないとだめ?」「家が片づいたら、俺たちも片づく?」「そういう意味じゃない」「この家じゃなかったら、って聞いたのは紗良だよ」紗良は傘を彼の上へ戻した。柄を持つ手が濡れた。「怖いんだよ」遼が黙った。「お金も家も駄目になって、今度はここで会った人まで生活の全部になったら。部屋を出た日に、そっちまでなくなったら嫌なの」雨が傘をたたいた。遼は柄へ手を添えた。「俺は、紗良の金でも家でもないよ」「分かってる」「じゃあ、一緒に
Terakhir Diperbarui : 2026-09-16 Baca selengkapnya