「紗和さん、お願い!助けて!」莉奈は慶悟の手を振りほどいた。よろめきながら駆け寄り、私の前にひざまずいた。「弟はわざと事故を起こしたわけじゃないの。落ち込んで、つい飲みすぎただけなの。警察が捜査を始めて、弟はもう送検されてるの……紗和さんはいちばん腕のいい弁護士でしょう?見捨てたりしないよね?」泣きじゃくる莉奈の肩は震え、涙と鼻水で顔はぐしゃぐしゃだ。その姿は、5年前、なぜ私の婚約者と寝たのかと問い詰めたときの莉奈とは、まるで別人に見える。「まず立って」私は慶悟から渡された事故関係の資料に目を通した。「裁判所は証拠に基づいて判断するの。誰かがひざまずいて泣いたからといって、裁判所の判断が変わるわけじゃない。さっき伝えたものを、一つ残らずそろえて持ってきて。私が見るのも証拠だけ。涙じゃない」5年前のことを思えば、慶悟が私の返事に驚いたのも無理はない。当時、敏腕弁護士だった慶悟は、莉奈のために私との婚約を破棄し、昇進まで断った。しかも、長く支えてきた婚約者の私まで、あっさり捨てた。その騒動は法曹界に知れ渡った。私まで噂の的になり、2年間まともに依頼を受けられなかった。あれだけのことをされたのだから、二人を追い返しても誰にも責められない。慶悟はしばらく呆然と立ち尽くし、ようやく口を開いた。「紗和、ありがとう」「弟さんの処分が少しでも軽くなるよう、できる限りのことはする。ただし、裁判で有利な結果を得られるかどうかは、事故の状況次第よ。刑が軽くなるかどうかは、被害者との示談が成立するかにもかかっている。慶悟も弁護士だったんだから、飲酒運転で人に重傷を負わせれば、どうなるかは分かるでしょう。私にできるのは、必要な資料を整理して提出し、少しでも刑が軽くなるよう、弟さんに有利な事情を主張することだけよ」私は今後の手続や考えられるリスクを、一つずつ説明した。十分はっきり伝えたつもりだったし、二人も理解したと思っていた。ところが莉奈は突然駆け寄り、勢いよく私を突き飛ばした。「紗和さん、何をそんなに偉そうにしてるの?!慶悟が私を選んで、あなたとは結婚しなかったから、恨んで仕返ししたいだけでしょう?!私が頭を下げたのをいいことに、わざと困らせてるの?慶悟が愛してるのは、初めからずっと私よ!これから先だって、
Read more