All Chapters of 出生の秘密を知った日、私の命はもう尽きかけていた: Chapter 11 - Chapter 14

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第11話

それから数日、久留島家は完全に混乱していた。父は仕事をすべてキャンセルし、使える人脈を総動員して、勝治と久美子を刑務所へ送ろうとした。 それでも気が済まず、父は弁護士を通じてできる限り厳しい処分を求め、検察にも強く訴えた。けれど、そんなことをしても、父の罪悪感が少しでも軽くなることはなかった。夜になると眠れなくなり、私が死ぬ直前にかけた電話を、何度も何度も思い返していた。「俺がいいと言わない限り、あの2人だって勝手にお前を帰したりしない」「私……もう……死ぬ……」思い出すたび、胸の奥をえぐられるようだった。父は、私が使用人部屋に残していったものを全部引っ張り出した。とはいっても、大したものはない。古い本が数冊と、使い古した家計簿が1冊だけ。そこには、これまで家事と引き換えに受け取ったわずかな小遣いがびっしり書き込まれ、その中からこっそり140万円を貯めた記録も残っていた。最後のページには、たった1行だけ書いてあった。【お墓を買えたら、やっと自由になれる】父はその言葉を見つめたまま、両手で顔を覆った。やがて、押し殺したような苦しいうめき声が漏れた。紗月のほうも、以前のようにはいかなかった。私という比べる相手がいなくなると、これまで通用していたあざとい振る舞いは、心が壊れかけた父と母の前で、かえって目につくようになった。ある夜。紗月がピアノの練習中に、何度か音を外した。母が突然ピアノ室へ飛び込み、譜面を床へ払い落とした。「何、その弾き方!聞いてられない!」紗月は不満そうに立ち上がった。「お母さん、ちょっと間違えただけで……」「黙って!あなたは私の娘じゃない!私の娘は朝葉よ!」母は目を血走らせ、紗月の腕を強くつかんだ。「朝葉はあなたのために、命までなくしたのよ!どうして死んだのがあなたじゃなかったの?あなたが代わりに死ねばよかったのに!」紗月は怯え、力いっぱい母を突き放した。「お母さん、頭おかしいよ!」母は床に倒れた。けれど、乾いた笑い声を漏らした。「そうね……おかしくなったのよ。私たち、みんなおかしくなったの……」紗月は完全に変わった。もう、この壊れかけた養父母から以前のように愛情を得られないと分かると、聞き分けのいい娘を演じるのをやめた
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第12話

紗月はひどい言葉を吐きながら自分の部屋へ駆け戻り、高価なジュエリーをいくつかバッグに詰めると、その日の夜のうちに久留島邸を逃げるように出ていった。家の中には、また死んだような静けさが戻った。私は窓辺に浮かび、逃げていく紗月の背中を見ていた。少しも同情はしなかった。紗月は、根っからの悪人だったわけじゃない。ただ、欲深かった。本来なら私に与えられるはずだったものまで当然のように受け取り、そのくせ何ひとつ責任は負おうとしなかった。今、その代償を払っているだけだ。翌日。父のもとに、青嶺移植医療支援センターから電話が入った。「久留島隆成さんですね。娘さんの朝葉さんから提供された角膜について、ご連絡しました。移植を受けた方は、現在順調に回復されています。先方のご家族が、どうしても直接お礼を伝えたいと希望されています。お会いになりますか?」父はスマホを握る手に力を込めた。「会います」その日の午後。父は、すっかり正気を失いかけた母を車椅子に乗せ、病院の庭へ連れていった。よく晴れた日だった。しばらくすると、両親に付き添われた15、6歳くらいの少女が歩いてきた。大きく澄んだ目には、初めて見る世界をもっと見たいという思いがあふれていた。その目に移植された角膜は、かつて私のものだった。少女の母親は父の前まで来ると、その場に膝をつき、泣きながら何度も頭を下げた。「本当に……ありがとうございます。こんなにもやさしい娘さんを育ててくださって、ありがとうございます。朝葉さんがいてくださらなかったら、この子は一生、光を見ることができませんでした。朝葉さんは、本当に天使のような方です」父は少女の目をじっと見つめていた。まるで、幼いころの私を見ているようだった。父に褒めてもらいたくて、期待に満ちた目で見上げていた、あのころの私。「……天使、ですか」父は苦しそうに笑った。涙が、深くしわの刻まれた頬を伝っていく。「あの子は天使なんかじゃない。俺たちに見捨てられた、かわいそうな娘です」その瞬間、母が車椅子から立ち上がった。足元をふらつかせながら、少女へ駆け寄る。「朝葉!私の朝葉!」両手で少女の頬を包み、その目を食い入るように見つめた。「ママを許してくれたのね?戻ってきてくれた
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第13話

母はもう、完全に正気を失っていた。腕の中には、薄汚れたぬいぐるみをしっかり抱えている。6歳のころ、紗月が抱いていたのを少し見ただけで、私が一晩中立たされた、あのぬいぐるみだった。あのとき母は、紗月をかばって私を壁際に立たせた。今では毎日のように、そのぬいぐるみに向かって「朝葉」と呼びかけている。強く抱きしめていれば、私がもうどこにも行かないと、本気で信じているようだった。「あなた……朝葉がお腹すいたって。どこでご飯を作ってあげればいいの?」母は顔を上げ、虚ろな目で雨の向こうを見た。父は傘も差さず、冷たい雨に打たれていた。もう自分たちのものではなくなった久留島邸の門を見つめ、苦く口元を歪める。「行こう。新しい家に連れていく」2人が移ったのは、榎森市郊外にある古いアパートの、12帖にも満たない半地下の1DKだった。ほとんど日が差さず、壁には緑色のカビが広がっている。雨の日になると排水があふれ、吐き気がするような悪臭が部屋にこもった。かつては高級ブランドの服ばかり身につけ、上質なウールのカーペットでなければ嫌がった母も、今では湿った硬いベッドで眠るしかない。生活費を稼ぐため、父は近くの建設現場で資材運びを始めた。以前は何千万円もの契約書に署名していたその手も、今では血豆と硬いタコだらけだった。ある日の夕方。疲れきった父が部屋へ戻ると、母の姿がなかった。土砂降りの雨の中を3時間探し回り、ようやく近所のごみ集積所の片隅で見つけた。母は全身ずぶ濡れになりながら、誰かが捨てた古い制服を両手で握りしめていた。昔、私が着ていたものと同じような制服だった。「朝葉……朝葉、着るものがないと寒いでしょう……」ごみ袋のそばにしゃがみ込み、すえたにおいのする制服を抱えて、泣いたり笑ったりしている。父は何も言わず近づくと、母を強く抱きしめた。2人合わせれば100歳近い大人が、ごみ置き場のそばで、世界から置き去りにされた子どもみたいに泣いていた。私は2人の頭上の軒下に浮かび、その姿を見ていた。けれど、心は少しも動かなかった。今さらだった。今流している涙は、かつて私に与えた痛みの分だけ返ってきているにすぎない。紗月も、2人よりましな結末を迎えたわけではなかった。持ち出したジュエ
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第14話

そこには、自分たちの手で死なせた実の娘が眠っている。2人はこれからも、その事実から逃れることはできない。3年後の晩秋。冷たい風が枯れ葉を巻き上げ、榎森市郊外の樹木葬霊園の石畳をくるくると舞っていた。父は車椅子を押しながら、おぼつかない足取りで小さな墓標の前まで歩いてきた。車椅子の母は骨ばるほど痩せ、白髪もぼさぼさに乱れている。腕の中には、何度も洗われて色の抜けた、あのぬいぐるみを今もしっかり抱えていた。「朝葉。父さんと母さん、会いに来たぞ」父は安い白菊の束を墓前に供えた。声はひどくかすれていた。墓標に写真はなかった。2人が久留島邸の隅々まで探して、初めて気づいたのだ。19年間、私1人で写った写真を、1枚も残していなかったことに。唯一あった家族写真にも、私は端のほうに、ぼやけた横顔が半分写っているだけだった。父は墓標の前にしゃがみ込み、震える手で表面の汚れを少しずつ拭った。「朝葉。ここ、冬は寒くないか?今年は日雇いを少し多く入れたから、今度は暖かい服も持ってくる。家にいたころみたいに、もったいないなんて思わなくていいからな」「服」という言葉を聞いた途端、母が急に身を乗り出した。細く枯れた指で、冷たい墓標を何度も撫でる。「朝葉、いい子ね。もうママ、ひいきなんてしないから……今度は朝葉に新しいワンピースを買ってあげる。紗月には買わない。朝葉だけよ……」言葉を重ねるたび、深いしわの刻まれた頬を涙が伝った。墓標に落ちた雫は、冷たい風にすぐ乾いていく。私は墓標の上に静かに浮かび、2人を見下ろしていた。3年も経つと、生きていたころの痛みを思い出すことも、ずいぶん減っていた。目の前にいるのは、すっかり老い、みすぼらしくなり、この3年間ずっと後悔に苦しみ続けてきた2人だった。自分の胸にそっと手を当てる。鼓動はない。ぬくもりもない。そして、許す気持ちもなかった。昔は何度も夢に見た。いつか2人が、今みたいに私だけを見てくれたら、と。その目に、私しか映らなくなればいい、と。けれど今となっては、もう何の意味もなかった。2人が今苦しんでいるのは、自分たちがしたことの結果だ。私のほうは、あの冷たい物置で死んだ日に、もうすべて終わっていた。「冴子、寒くなっ
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