それから数日、久留島家は完全に混乱していた。父は仕事をすべてキャンセルし、使える人脈を総動員して、勝治と久美子を刑務所へ送ろうとした。 それでも気が済まず、父は弁護士を通じてできる限り厳しい処分を求め、検察にも強く訴えた。けれど、そんなことをしても、父の罪悪感が少しでも軽くなることはなかった。夜になると眠れなくなり、私が死ぬ直前にかけた電話を、何度も何度も思い返していた。「俺がいいと言わない限り、あの2人だって勝手にお前を帰したりしない」「私……もう……死ぬ……」思い出すたび、胸の奥をえぐられるようだった。父は、私が使用人部屋に残していったものを全部引っ張り出した。とはいっても、大したものはない。古い本が数冊と、使い古した家計簿が1冊だけ。そこには、これまで家事と引き換えに受け取ったわずかな小遣いがびっしり書き込まれ、その中からこっそり140万円を貯めた記録も残っていた。最後のページには、たった1行だけ書いてあった。【お墓を買えたら、やっと自由になれる】父はその言葉を見つめたまま、両手で顔を覆った。やがて、押し殺したような苦しいうめき声が漏れた。紗月のほうも、以前のようにはいかなかった。私という比べる相手がいなくなると、これまで通用していたあざとい振る舞いは、心が壊れかけた父と母の前で、かえって目につくようになった。ある夜。紗月がピアノの練習中に、何度か音を外した。母が突然ピアノ室へ飛び込み、譜面を床へ払い落とした。「何、その弾き方!聞いてられない!」紗月は不満そうに立ち上がった。「お母さん、ちょっと間違えただけで……」「黙って!あなたは私の娘じゃない!私の娘は朝葉よ!」母は目を血走らせ、紗月の腕を強くつかんだ。「朝葉はあなたのために、命までなくしたのよ!どうして死んだのがあなたじゃなかったの?あなたが代わりに死ねばよかったのに!」紗月は怯え、力いっぱい母を突き放した。「お母さん、頭おかしいよ!」母は床に倒れた。けれど、乾いた笑い声を漏らした。「そうね……おかしくなったのよ。私たち、みんなおかしくなったの……」紗月は完全に変わった。もう、この壊れかけた養父母から以前のように愛情を得られないと分かると、聞き分けのいい娘を演じるのをやめた
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