私が旅立ってからの1か月、直哉はまだ、私が本当に戻らないとは信じていなかった。毎日、メールを送ってきた。【新居は買い直した】【美咲はもう出ていった】【指輪も外した。あいつには持っていかせていない】【お母さんのドレスは、修復してもらった】【いつ帰ってくる?】私はどのメールにも返信しなかった。2か月目になると、直哉は美咲を自分の会社のポストから外した。ゲームに加わっていた友人たちが、彼女のために取りなそうとした。「美咲はみんなに付き合ってただけだろ。最終的に決断を下したのはお前じゃないか」彼らを見つめながら、直哉は反論できなかった。誰もが、私を傷つけることに手を貸した。けれど、刃を握っていたのは直哉だ。美咲にすべての責任を押しつける資格はなかった。美智子は怒りのあまり体調を崩し、入院した。病床でも、私を薄情だと罵った。「ただのゲームだったじゃないの。直哉がここまで謝っているのに、あの子はこれ以上何が不満なの?」ベッドのそばに立つ直哉は、ふと思い出した。美智子のせいで私がつらい思いをするたびに、自分も同じようなことを言っていた。「母さんも悪気があって言ってるわけじゃないんだ。年上だと思って、少しは大目に見てやってくれよ」私は7年間、ずっと我慢してきた。それなのに、もう我慢しないと決めた途端、みんなは私を冷たい人間だと責め始めた。直哉は初めて、美智子の言葉を遮った。「あいつが戻ってこないんじゃない。俺にあいつを呼び戻す資格がないんだよ」呆然とする美智子を残し、直哉は部屋を出た。本当に謝らなければならないのは自分だと、ようやく直哉にもわかったのだ。……半年後、私が修復に携わった最初のアンティークの婚礼衣装が、ロンドンで展示された。その日は大勢の人が訪れた。私は展示室で、ひどく傷んでいた古いウエディングドレスについて解説をしていた。切り裂かれ、焼かれても、持ち主はそのドレスを捨てなかった。残った生地をつなぎ合わせ、1羽の鳥の形に縫い上げたのだ。来場者の1人が尋ねた。「どうして元の形に戻さなかったんですか?」私は微笑んで答えた。「壊れたものを、無理に元どおりにする必要はないからです。新しいものに生まれ変わってもいいんです」人々の後ろに、直哉が黙って立っていた。半年ぶりに
Read more