私の38歳の誕生日は、13回目の結婚記念日でもあった。朝早く、10歳の息子、柏木悠斗(かしわぎ ゆうと)を算数のコンテストへ送り出したあと、修平が上の階から下りてきた。今日も新しいネクタイを締め、珍しくタイピンまでつけている。子熊がにっこり笑う、かわいらしいデザインだった。ひと目で、若い女の子が選んだものだと思った。修平は、リビングにいた私へ冷めた視線を向けた。またいつもの嫌みを言われるのだと思った。その言葉は、もううんざりだった。「お前、いつもエプロン姿だな。まるで家政婦みたいだ」けれど、その言葉は出てこなかった。修平は淡々と告げた。「美緒、離婚しよう。離婚協議書はもう用意してある」私はエプロンのポケットに手を入れ、修平を振り返った。「どうして?」修平はタイピンに触れながら、悪びれもせず、好きな人ができたと話し始めた。相手の女性は、会社に来たばかりのインターンだという。その子のことを話す修平の声は、優しかった。「美咲はいつも明るくて、生き生きしてるんだ。ちゃんと離婚してから、付き合ってくれって言うつもりだよ。あの子を不倫相手だなんて呼ばせるわけにはいかないからな」美咲のことを愛おしそうに話していた修平が、私を見るなり、うんざりした顔になった。私は思わず、冷めた笑みを浮かべた。私だって、昔は生き生きしていて、修平に愛されていたのに。年を取って、若い頃のような魅力がなくなった私は、もう目障りでしかないのだろう。「お前にとって、離婚が簡単じゃないのは分かってる。お前が20歳の頃から、何も持っていなかった俺とここまでやってきたんだからな。7年も専業主婦で、体も弱い。悠斗だって、まだ10歳だ……」その言葉に胸が痛んだ。もう、あれこれ話す気にはなれなかった。「その子は、あなたが離婚するつもりだって知ってるの?」修平は、美咲もきっと自分を好きになると信じきっているようだった。その口ぶりには、美咲への甘さがにじんでいた。「まだ言ってない。あの子を不倫相手なんかにしたくないんだ。だから美緒、もう俺を自由にしてくれ。俺は美咲と一緒になりたいんだ」修平の整った顔には、年齢による衰えが見えなかった。むしろ、落ち着いた大人の魅力が増していた。修平のスーツは、昨夜私がスチームで整えた。腕時計も
Read more