受付から臨時の入館証を借り、二十二階へ上がった。廊下には照明機材と段ボールが並び、部屋の中から明るい笑い声が聞こえてくる。「もう少し窓際へ。瀬川さん、新居で仕事を始める感じでお願いします」カメラマンの声に合わせ、悠斗がノートパソコンを開いた。画面に映っているのは、僕が作成したホテル中庭の完成予想図だった。「そのデータ、どこから出した?」声をかけると、悠斗の指が止まる。「玲奈さんからいただきました。今日の撮影だけ使っていいって」玲奈は悪びれもせず、撮影スタッフを先に休憩へ出した。「広報用なんだから問題ないでしょう。悠斗には次の案件にも入ってもらう予定よ」「業務委託契約は?」「手続き中。細かいことばかり言っていたら、タイミングを逃すわ」窓際に置くはずだった模型も、現場写真をまとめたファイルも見当たらない。尋ねると、玲奈は玄関脇の納品書を指で押さえた。「あなたの荷物は地下のトランクルームへ移した。撮影の邪魔だったから」納品書には、搬出依頼者として玲奈の署名がある。僕の承諾欄は空白だった。「鍵まで無効にする必要があった?」「撮影中に出入りされたら困るもの。悠斗が落ち着くまで、このままでいいでしょう」「ここに住ませるつもりか」一瞬だけ沈黙が落ちた。その間に、悠斗が申し訳なさそうな顔を作る。「僕も一度は断ったんです。でも、今の僕には仕事場も部屋もなくて……」そう言いながら、彼のキャリーケースは寝室に置かれていた。洗面台には歯ブラシまで並んでいる。今日だけの撮影ではない。玲奈は最初から、僕に与えられた部屋も、僕の仕事も、まとめて彼へ差し出すつもりだったのだ。管理会社の担当者に、入館記録とカードキー停止の依頼票を見せてもらった。依頼者は黒川玲奈。『入居者本人了承済み』の欄には、勝手にチェックが入っている。本社の承認番号は空欄だった。必要な箇所だけ撮影し、地下のトランクルームへ向かった。扉を開けると、設計資料も模型も、梱包されないまま押し込まれている。模型の樹木が一本、根元から折れていた。折れた模型を見た瞬間、腹の底に冷たい怒りが沈んでいった。ここで怒鳴れば、玲奈はすぐに「感情的な喧嘩」へすり替える。だから僕は、壊された状態の模型を撮り、依頼票とともに追加の証拠として送信した。レジデンスを出たところで、見覚えのないア
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