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Chapter 2 消された名前

Auteur: 蘇和
翌日、完成したホテルでは、開業披露会のリハーサルが行われていた。

本番にはグループ各社の役員や取引先が集まり、会場の様子は社内向けに配信される。

僕は中庭の設計責任者として、壇上で計画意図を説明するはずだった。

少なくとも、前日までは。

会場へ入ると、スクリーンに映し出された登壇者一覧から僕の名前が消えていた。

代わりに表示されていたのは、『クリエイティブアドバイザー 瀬川悠斗』という肩書だった。

「朔、ちょうどよかった」

玲奈が台本を持って近づいてくる。

「今日は裏で進行を見て。中庭の説明は悠斗に任せるから」

「契約もないのに、会社を代表して話させるの?」

「本番までには整える。あなたは人前に出るのが得意じゃないでしょう」

勝手に決めたことを、まるで僕への気遣いのように言う。

舞台では、悠斗が僕の原稿を手にマイクテストをしていた。

「海から吹く風を光の動きに置き換え、夜の庭に第二の波を生み出しました」

何度も現場へ通い、照明会社と練り上げた一文だ。語尾ひとつ変わっていない。

リハーサルを見ていた担当者が拍手する。

悠斗は照れたように笑い、僕のほうへ視線を流した。

「相馬さんの資料が分かりやすかったので、すぐに理解できました」

僕が作った資料だとは、ひと言も触れない。

玲奈は満足そうにうなずいた。

「悠斗には発信力があるわ。いいものを作るだけで終わらせないのが、これからの仕事よ」

ステージ脇の操作卓には、発表用データを管理するタブレットが置かれている。

履歴を開くと、資料は昨夜二十三時十二分に差し替えられていた。

作成者欄の『相馬朔』が削除され、『瀬川悠斗』へ変更されている。

元データは僕の社用アカウントで作成したものだ。バージョン履歴まで消すことはできない。

画面を保存し、コンプライアンス室の専用フォルダへ送った。

直後、担当の神崎さんから電話が入る。

人のいないバックヤードへ移動し、声を落として電話に出た。

「相馬さん、瀬川氏との業務委託契約は、現時点で申請すらされていません」

「では、明日の登壇も認められていない?」

「はい。レジデンスの利用者変更も、成果物の作成者変更も、承認された記録はありません。関係部署で証拠保全を始めています」

普段どおり勤務し、本番にも出席してほしい。神崎さんはそう言い添えた。

通話を終えると、玲奈がバックヤードの入口に立っていた。

「誰と話していたの?」玲奈が、探るような目を向けてくる。

僕はスマートフォンをポケットにしまい、何でもない顔で答えた。「総務に、確認したいことがあっただけだ」

「余計な波風は立てないで」

彼女はそれ以上追及せず、スマートフォンの画面をこちらへ向けた。

ホテル最上階にある個室ラウンジの予約画面だった。

「今夜七時。悠斗も交えて、三人で話しましょう」

「何を?」

「部屋とプロジェクトのこと。あなたの署名が必要な書類が二枚あるの」
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