薔薇は棘の上に咲く裁判官である婚約者との婚約披露宴を控えた前夜のことだった。
朝倉恒一(あさくら こういち)は私情を挟んだまま、模擬裁判の勝利判決を浅羽琴葉(あさば ことは)に下した。
琴葉は優勝トロフィーを抱き、私に向かって微笑む。
「恒一さんってやっぱり私のこと気にかけてくれてるよね。ご飯を少ししか食べなかっただけで心配してトロフィーまで譲ってくれるなんて」
胸の奥に抑えきれない怒りがこみ上げ、私は恒一のもとへ向かった。
だが彼は事件記録を淡々とめくりながら、まるで些細なことのように言い放った。
「そんなに強気でどうする。これから妻になる人間の態度じゃない。少しはその鋭さを削がないとな」
信じられなかった。
私は裁判所で彼と激しく言い争い、後味の悪さだけを残してその場を去った。
――そして婚約披露宴当日。
式場で私を待ち続けた恒一から苛立ちを滲ませた電話がかかってくる。
「今日は何の日か、分かっているのか?お前の婚約披露宴だぞ」
その頃、私は海外の大学キャンパスに足を踏み入れていた。
そして、淡々とこう答えた。
「覚えているのは一つだけ。今日は私の入学初日よ」