キキョウは言えず、南風がそっと抱く「早く結婚しよう」
夕食の席、婚約者の今村勝明(いまむら かつあき)が唐突にそう切り出した。
私は箸を止めた。この三年間で、私の方から七回も結婚の話を持ち出してきた。けれどそのたびに、彼は何かしら理由をつけて先延ばしにしてきたのだ。
勝明は目を逸らした。
「俺の秘書、洞沢心美(ほらさわ ここみ)が妊娠した。もうすぐお腹も目立ち始める時期なんだ」
私は箸を置き、まっすぐに彼を見据えた。
「あなたの秘書が妊娠したことと、私たちの結婚に何の関係があるの?」
彼の喉仏がひくりと動き、頑張って口を開いた。
「それは……俺の子だ。あの夜、酔ってて、お前と間違えたんだ。
医者に言われた。もし堕ろせば、彼女は二度と子供を望めなくなるかもしれないって。彼女はまだ22歳で、卒業したばかりなんだ……
結婚したらすぐに、お前が妊娠したことにしよう。生まれてくる子は、俺たちの子だと言えばいい。
彼女は海外に送る。二度と戻ってこないよう手配するから」
七年間深く愛し続けてきた男の顔を見つめながら、私は深く息を吸い込んだ。
「勝明……私、婚約を破棄したいの」