私を散々泣かせたクズ男たちが、今さら本気で愛してくる

私を散々泣かせたクズ男たちが、今さら本気で愛してくる

last updateDernière mise à jour : 2026-01-14
Par:  すずかんMis à jour à l'instant
Langue: Japanese
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男の趣味が最悪だった。 ヤンデレ、ヒモ、モラハラ、学歴詐称――なぜか寄ってくるのはクズ男ばかり。信じては裏切られ、尽くしては泣かされ、「私が悪いのかも」と自分を責め続けてきた。 もうこんな恋は終わりにしよう。 そう決めて彼女は過去の縁をすべて断ち切り、「絶対に幸せになる」と前を向く。 するとその瞬間、今まで彼女を雑に扱ってきた男たちが一斉に本気になり、後悔と執着を剥き出しにして迫ってきた。 でももう遅い。 これは、泣かされ続けた女がクズ男たちを置き去りにし、本当の幸せを選び取る逆転ラブストーリー。

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Chapitre 1

【第一章】地雷系ホスト・みおん 1

最初は、本当に夢みたいだった。

深夜まで続くLINEのやりとり。

既読がついただけで胸が跳ね上がり、そんな小さなことで一日が光るほどだった。

「お前のこと、本気で好きになりそう」

それが営業トークだと頭ではわかっていた。

けれど、その言葉の温度は確かに私の肌を温め、理性の隙間からじわじわと入り込んできた。

誰かを一目で心ごと奪われる感覚を持ったのは、生まれて初めてだった。

だから、彼の言葉が偽りだとわかっていても、私は信じる“ふり”をした。だって、騙されても一緒にいたかったから。

目の前に差し出された幻想を受け取るほうが、冷めた現実を抱えるより、まだ救われると思った。

馬鹿だと笑われてもいい。

私は、狂うほどあなたを愛している。

***

薄暗い店のソファ席。柔らかな照明は輪郭をぼやかし、誰の顔も少しだけ美しく見せる。

香水とタバコの匂いが混ざり合い、空気は静かに湿っていた。

グラスの中で氷がひとつ、チリ、と音を立てる。その小さな音にすら、胸の鼓動はひとつ跳ねた。

みおんはスマホを弄りながら、何気ないふうに言った。

「ねえねえ、今週ほんとに厳しくてさ。助けてくれない?」

その瞬間、あざとく演出された無垢の表情が顔をのぞかせる。

大きなくりくりの瞳、ふっくら光る涙袋、すっと通った鼻筋に白い肌――私の好みにぴたりと重なる顔が、上目遣いでこちらを見つめていた。

私は知っている。こういう「助けて」には、いつも金額が伴うことを。

反射的に出た声は震えていた。

「え……シャンパン?」

「うん。」

みおんの返事は簡潔で、どこか無邪気だった。

膝にそっと手を置き、上目遣いで寄せる仕草。

世界が一瞬だけ、光を増したように感じられる。

私の内側には、ふたつの自分がいた。

――生活を切り詰めて、やっとここに来た自分。

――彼の隣にいられるなら、何でも差し出したい自分。

「……ごめん、今日ちょっと厳しくて」

言葉と同時に視線を逸らす。

胸の中では、錐が回るように痛んだ。

財布の紐を締め、冷蔵庫の残り物を数えた夜を思い出す。

ここで頑張ったところで、明日の食事がどうにかなるわけではない。

それでも、彼の笑顔のために、私はいつも自分を削っていた。

みおんは顔をゆっくりとこちらに向け、柔らかく声をかける。

「俺には紗月ちゃんしか頼れる人がいないんだ。弱音吐けるのも紗月ちゃんだけだよ?」

包み込むようなその台詞は、同時に私の胸を締め付けた。

「う…うん。力になりたいとは思ってるよ。でもさすがに今日はお金が。」

自分でも情けなくなるほど、弱々しい声だった。

みおんは一瞬だけ真剣な表情を見せ、少し切ない笑みを浮かべる。

「前にも言ったけどさ、俺、成人する前に両親を亡くしてて…親戚もいないんだ。だから本当はね、紗月が世界の全部なんだよ? つい頼っちゃってごめんね? でも紗月だけは離さないでほしいな。」

傷を見せるその語り口は同情を誘い、私をさらに馬鹿な女にさせる。

彼の肩に抱かれると、その温もりは一瞬、真実に思えた。

けれど、わかっている。

この人は、私のものにはならない。

彼の「好き」は、店の時間とともに巡り、誰にでも向けられるものだと。

店内に明るい声が響いた。

「姫様シャンパン入りました――!」

キャストたちが寄ってきて、シャンパンコールが始まる。私はその中心で、拍手の波に呑まれながら笑っていた。笑顔は板についている。

けれど、その下で、何かが静かに崩れていく音がする。

彼の「ありがとう」「好きだよ」という言葉は、私を高揚させながら、砂の城を少しずつ崩していく。

それでも私は席に留まった。

危険だと知っている恋を、今日もまた選んでしまう。

背中に刺さる冷たさを感じながら、彼の手の温もりを、しっかりと握りしめた。

自分がその瞬間に何を失っているのか、まだ全部はわからない。ただひとつ、わかっているのは――

いま、ここにいることが、私にとって何より欲しかったということだけだった。

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【第一章】地雷系ホスト・みおん 1
最初は、本当に夢みたいだった。 深夜まで続くLINEのやりとり。 既読がついただけで胸が跳ね上がり、そんな小さなことで一日が光るほどだった。 「お前のこと、本気で好きになりそう」 それが営業トークだと頭ではわかっていた。 けれど、その言葉の温度は確かに私の肌を温め、理性の隙間からじわじわと入り込んできた。 誰かを一目で心ごと奪われる感覚を持ったのは、生まれて初めてだった。 だから、彼の言葉が偽りだとわかっていても、私は信じる“ふり”をした。だって、騙されても一緒にいたかったから。 目の前に差し出された幻想を受け取るほうが、冷めた現実を抱えるより、まだ救われると思った。 馬鹿だと笑われてもいい。 私は、狂うほどあなたを愛している。 *** 薄暗い店のソファ席。柔らかな照明は輪郭をぼやかし、誰の顔も少しだけ美しく見せる。 香水とタバコの匂いが混ざり合い、空気は静かに湿っていた。 グラスの中で氷がひとつ、チリ、と音を立てる。その小さな音にすら、胸の鼓動はひとつ跳ねた。 みおんはスマホを弄りながら、何気ないふうに言った。 「ねえねえ、今週ほんとに厳しくてさ。助けてくれない?」 その瞬間、あざとく演出された無垢の表情が顔をのぞかせる。 大きなくりくりの瞳、ふっくら光る涙袋、すっと通った鼻筋に白い肌――私の好みにぴたりと重なる顔が、上目遣いでこちらを見つめていた。 私は知っている。こういう「助けて」には、いつも金額が伴うことを。 反射的に出た声は震えていた。 「え……シャンパン?」 「うん。」 みおんの返事は簡潔で、どこか無邪気だった。 膝にそっと手を置き、上目遣いで寄せる仕草。 世界が一瞬だけ、光を増したように感じられる。 私の内側には、ふたつの自分がいた。 ――生活を切り詰めて、やっとここに来た自分。 ――彼の隣にいられるなら、何でも差し出したい自分。 「……ごめん、今日ちょっと厳しくて」 言葉と同時に視線を逸らす。 胸の中では、錐が回るように痛んだ。 財布の紐を締め、冷蔵庫の残り物を数えた夜を思い出す。 ここで頑張ったところで、明日の食事がどうにかなるわけではない。 それでも、彼の笑顔のために、私はいつも自分を削っていた。 みおんは顔をゆっくりとこちらに向け、柔らかく声をかける。 「俺には紗月ちゃん
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深夜二時。いつもならとっくに眠っているはずの時間なのに、今日はなぜか、まぶたが重くならない。ベッドに横たわっても、胸の奥が妙にざわついていた。理由はわかっている。店を出た直後、みおんから届いた熱烈なLINE。スクリーンに現れる彼の言葉は、まるで私の心を覗き込んだかのように甘く、そして巧みだった。「本当にさーちゃん超可愛かった。また会いたい」「さーちゃんに出会えて嬉しかった」「耳まで真っ赤だったね」「彼氏とかいるの?」既読をつけると、数秒で返信が返ってくる。その即時性さえ、心が求めていたものだったのかもしれない。──まるで、私だけを特別に思ってくれているみたい。わかってる。ホストは、恋を売る仕事。この言葉も“営業”で、“魔法”みたいに甘くて、嘘だらけ。そう、頭ではちゃんと理解している。でも、体の奥では違う声が囁く。「嬉しい」「もっと聞きたい」「恋してもいいのかもしれない」と。彼から「電話、しよっか」とメッセージが来たのは、約束の二時ちょうどだった。私はすぐに「うん」と返していた。そのときにはもう、言い訳を探すのをやめていた。数秒後、着信。「……もしもし」眠気を帯びた私の声に、彼はふっと笑った。「ふふ……やっぱり声可愛い。今日はありがとうね」その一言で、心臓が跳ねた。「……あのさ、僕、正直に言ってもいい?」少し声のトーンが変わった。真剣なときの、あの感じ。「さーちゃんの顔がタイプすぎて……一目惚れしちゃったんだよね」「え……」小さく声が漏れた。「こんなこと、いつもはしないんだけど……特別に、僕の本名教えちゃうね」彼の声が、すっと低くなる。「結城 志音っていうんだ」やけに美しい響き。だけど、どこかで引っかかる。──作られた名前のようにも感じる。それでも、そのときの私は、その違和感を喉の奥に押し込んでしまった。「あとさ、プライベートのインスタも教えていいかな? 鍵垢なんだけど、個人的な知り合いしか繋がってないんだよね」そう言って送られてきたアカウントは、確かに鍵がかかっていて、投稿も控えめだった。でも、その数日後。フォロワー欄には、いわゆる“みおんの姫”たちのアカウントがずらりと並んでいたことを、私はまだ知らない。あのときの私は、「もしかしたら、自分だけが本当に特別なのかもしれない」──そう、ほ
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