LOGIN男の趣味が最悪だった。 ヤンデレ、ヒモ、モラハラ、学歴詐称――なぜか寄ってくるのはクズ男ばかり。信じては裏切られ、尽くしては泣かされ、「私が悪いのかも」と自分を責め続けてきた。 もうこんな恋は終わりにしよう。 そう決めて彼女は過去の縁をすべて断ち切り、「絶対に幸せになる」と前を向く。 するとその瞬間、今まで彼女を雑に扱ってきた男たちが一斉に本気になり、後悔と執着を剥き出しにして迫ってきた。 でももう遅い。 これは、泣かされ続けた女がクズ男たちを置き去りにし、本当の幸せを選び取る逆転ラブストーリー。
View More「腹減ったね」 「たしかに」 なんだかんだ振り回されっぱなしの神社デートだったけど、まあ、気を取り直そう。 隣を歩くヒナタくんに、ちらりと視線を向ける。 女の子みたいに可愛らしい顔立ち。ぱっちりした目に、すっと通った鼻筋。 何度見ても、腹が立つくらい整った顔をしている。 (……まあ、顔は本当に好きなんだよなあ) 多少そそっかしくても、ちょっと変わっていても、この顔なら許せるか。 なーんて、我ながらちょろいことを考えていた、そのとき。 「…………」 あれ? 気づけばヒナタくんは、私のことなんてお構いなしにズンズン先へ進んでいた。 しかも、歩くのがめちゃくちゃ速い。 (ちょ、ちょっと待って!?) こっちはヒールなんですけど!? あっという間に開いていく距離。 しかし、彼は一度も振り返らない。 (……普通、女の子と歩くときって、多少は歩幅合わせない?) いや、別にお姫様扱いしてほしいわけじゃない。 でも、せめて後ろを振り返るくらいの気遣いはあってもよくないだろうか。 顔は王子様なのに、中身があまりにも自由人すぎる。 「ねえ、どっかお店入る?」 少し声を張ると、ようやくヒナタくんが振り返った。 「あ?」 ……あ? じゃないんだが。 すると、彼は突然何かを思いついたようにポケットをゴソゴソと探り始めた。 「なあなあ、見て!」 「ん?」 取り出したのは、黒い財布。 なぜか得意げな顔でパカッと開き、私の目の前に突き出してくる。 「オレの今の全財産!」 「…………」 中を覗く。 百円玉が二枚。 五十円玉が一枚。 あとは十円玉が数枚。 ……三百円くらい? 「…………」 思わず無言になった。 (いや、なんで!?) なんで今、全財産を見せられた!? しかも、その顔。 まるで珍しい宝物でも見せびらかす小学生みたいに、どこか楽しそうなのが余計に意味不明だった。 (……待って。このくだり、前にもあったぞ) そうだ。 みおんくんだ。 以前、同伴中に財布を開いて「金ない」とアピールされたことがある。 (……私の周りの男、どうなってるの?) なぜ揃いも揃って、女の前で所持金の少なさを堂々と披露するのだろうか。 普通、男の人ってもう少し格
さっそく階段を上り、鳥居をくぐろうとしたそのとき—— 「ちょっと待って」と、後ろから声をかけられた。 振り向くと、ヒナタくんがタバコをくわえている。 「一服させて。さすがにタバコ吸いながら神社はダメっしょ」 そう言って、ゆっくり煙を吐いた。 ……うん、やっぱりこの人、ちょっと柄が悪い。 赤髪の時点でなんとなく察してはいたけれど、初デートで見せていたあの“いい子モード”は、どうやら完全に猫をかぶっていたらしい。 今日の雰囲気はというと——地元のコンビニ前でたむろしてそうな、ちょっとやんちゃな感じ。 そんなことをぼんやり考えながら見ていると、 「んじゃ、行きますかっ」 タバコを吸い終えたヒナタくんが、やけに軽いテンションで、私を見もせずにずんずん歩き出した。 正直、このまま神社に入って浮かないかな……なんて少し心配していたけれど、その不安はすぐに消えた。 鳥居をくぐった先は、想像していた“静かな神社”とはまるで違っていた。 手水舎や境内のあちこちが、色とりどりの花やピンクの提灯で彩られていて、ふわっと甘い空気が漂っている。 ……なにこれ、ロマンチックすぎる。 カップルや観光客で賑わうその光景は、もはや神社というより“デートスポット”そのものだった。 「神社とか久々にきたなあ」 ヒナタくんはそう呟きながら、相変わらずマイペースに歩いていく。 エスコートする気は……たぶん、ない。というより、できないのかもしれない。 私は少し置いていかれながらも、境内に並ぶピンク色の絵馬やオブジェに目を奪われていた。 どこを見ても可愛くて、胸が自然と浮き立つ。 「さてっ!おみくじでも引きますかあ」 見つけたのは、ガチャガチャ式のおみくじ。 しかも水に浮かべる“恋みくじ”だった。 紙を水に浮かべると、じわじわと文字やハートが浮かび上がってくる仕組みらしい。 説明には“35秒ほど浸ける”と書いてある。 なのに——ヒナタくんは、5秒も経たないうちに紙を引き上げた。 もちろん、何も浮かんでいない。 「ねえヒナタくん、早すぎ!まだ何も出てないよ?」 思わず笑いながら言うと、 「うっさいなー」と、真顔で言い返されて、再び水に浸け直す。 さっきまでの柔らかい雰囲気はどこへやら。 急に
「おわった!ごめんね、ヘアセットこだわりすぎて時間かかっちゃった」 ヒナタから連絡がきたのは、それから1時間後だった。 ——ヘアセットこだわりすぎてって、女子かよ。 思わずツッコミを入れたくなりながら、私は家を出る準備をする。 向かうのは、露天神社。 待ち合わせ場所に指定されたその場所は、谷町線「東梅田駅」から少し歩いた、商店街の奥にあった。 夜19時。 あたりはまだ賑やかで、人の流れも絶えない。 ——どこかな。 周囲を見渡すと、門のそばに、ひときわ目立つ存在がいた。 細くて背が高くて、黒髪のハーフアップ。 すぐにわかる。 「ヒナタくん…!」 呼びかけると、彼はぱっと振り向いた。 子犬みたいな、無防備な笑顔。 「久しぶり!」 その一言で、距離が一気に縮まる。 「髪、伸びたねー!」 「うん!紗月ちゃん、いつもハーフアップだからお揃いになるかなって頑張ったんだけど……今日は違うくて残念」 よく見ると、短い髪を無理やりまとめたようなハーフアップ。 頑張った形跡がそのまま残っていて、なんだか可愛い。 「たしかに、今日は珍しく下ろしてる」 「下ろしてるのも新鮮だし、似合うね?」 大きくて、きゅるんとした目が、まっすぐこちらを見つめる。 ——ずるい。 一瞬で、心臓が跳ねる。 年下なのに、この距離感とこの言葉選び。 恋愛偏差値、高すぎる。 「え、ていうかワンピース可愛い。女の子らしいね」 「そう、最近買ったの。このワンピース、ハーフアップだと甘すぎるかなって思って、今日は下ろしてみたの」 「いやいや、可愛い子はどんな髪型しても可愛いから」 ——もう。 さらっと言うくせに、ちゃんと刺してくる。 胸の奥が、じわっと熱くなる。 こういうところなんだよな。 わかってるくせに、無邪気にやってくる。 ずるいな、ほんとに。
ひさびさに早起きした朝。まだ空気はひんやりしていて、カーテンの隙間から差し込む光がやけにやわらかかった。在宅でゆるく働いていた頃とは違う。“外に出て、誰かと会う日”の緊張が、胸の奥にじんわりと広がっていた。大阪、鶴橋。韓国の空気が色濃く残る街。駅を出た瞬間、甘い香りと焼き肉の煙が混ざった空気に包まれる。聞こえてくる韓国語、派手な看板、細い路地に並ぶ店たち。雑多で、少し騒がしくて。でも、その全部がなぜか心地よかった。待ち合わせのカフェ前。深呼吸をひとつ。——ちゃんとやれるかな。不安を押し込めるように、スマホの時間を何度も確認する。「あの!本日はよろしくお願いします」声をかけると、編集長はやわらかく笑った。「はい、よろしくね!」その一言で、肩の力がすっと抜ける。仕事なのに、どこか安心する距離感。そこから先は、本当にあっという間だった。可愛い内装に胸がときめいて、写真を撮って、味を言葉にして、また次の店へ。気づけば、“仕事”という感覚はどこかへ消えていた。四店舗目を出た頃には、足は少し疲れていたのに、心は妙に軽かった。「早く終わったし、ご飯でも行く?」「はい!」大きく頷いた。キンパを頬張りながら、仕事の話をする。これからのこと、書き方のこと、企画のこと。誰かと“未来の話”をするのは久しぶりで。——私、ちゃんと前に進んでる。そう思えたことが、嬉しかった。誰かと対面で関わって仕事をするのって、やっぱり楽しい。「今日はありがとう!またよろしくね!」るんるんした気持ちで、「いい日だったなあ」と思いながら歩く帰り道。——そのとき。スマホが震えた。通知。メッセージ。心臓が、どくんと跳ねる。画面に表示された名前を見て、胸の奥がざわついた。ヒナタ。「もっしもーし。今日の夜って暇?」軽い声。でも、その奥にある温度を、私は知っている。「……まあ、空いてるけど」少し間をあけて返す。今日の私は、余裕がある。満たされているから。すぐに返ってきた言葉。「あのさ、会わない?俺、金ないからその辺ぶらぶらするだけだけど」——お金ないのに誘うんだ。やっぱりこの人、なんだかもやもやする。普通なら、断る理由になるのに。でも同時に、“それでも会いたいってこと?”そんな感情が、静かに顔を出す。「まあいい
「もう時間だけど、延長する?」 そう声をかけられたとき、私はようやく時間の流れを思い出した。 ――もう、90分も経っていたのか。 まるで夢を見ていたような気分だった。 いや、夢よりも濃く、心が忙しく動き回った時間だった。 時計をちらりと見ると、すでに21時半をまわっている。夜道を一人で帰るには、少し不安な時間帯。 そろそろ帰ろうか。そう思った、その瞬間だった。 ふと、足元に温かい感触。 見ると、みおんの手が、私の足にそっと触れていた。 「……え?」 驚いて顔を上げると、彼がすぐそばで、こちらをじっと見つめている。 その顔は、あの“きゅるん”とした可愛
ホストって、すごい――。私はただ、心の中でそうつぶやいた。これも、演技なのかもしれない。でも、なんだろう……まるでそれが“嘘じゃない”ように感じてしまう。この「可愛い」は、リップサービス? でもトーンが軽くない。どこか本気にも聞こえてしまう。いや、違う違う。私は自分に言い聞かせる。ホストは仕事でやってるんだ。“色恋”ってやつ。甘い言葉で心を溶かして、また来てもらうための営業トーク。私みたいな、地味で取り柄のない女を、こんなイケメンが本気で「可愛い」なんて思うはずがない。こんなリップサービスに、まんまと照れて、ドキドキして……。――私って、ほんとに、ちょろい。***
「失礼します!」その声が聞こえた瞬間、私は条件反射のように顔を上げていた。「あ……」思わず、口元がほころぶ。みおんくん――。にこっと、愛嬌たっぷりの笑顔を浮かべながら、彼は自然な所作で私の斜め横に腰を下ろした。座り方まで、なぜだか品がある。無駄がないのに、どこか柔らかい。すぐ隣では、ゆりちゃんがユウトとの話を切り上げ、こっちを見てニヤニヤしている。「さーちゃん! お目当てのみおんくんじゃーん!」わざとらしく声を上げるものだから、私は一気に顔が熱を帯びた。目立ちたくないのに……と思いながらも、彼がそこにいるだけで、頬の温度はどうにもならない。***「さっきおしぼり持って
どうしよう……。 小冊子に並ぶホストたちの写真を一枚ずつ見ていくたびに、気持ちがどんどん沈んでいった。 どれもこれも、髪は明るく、目つきも鋭く、笑顔がどこか作りもののように見える。 みんな派手で、チャラそうで――正直、まったくタイプじゃなかった。 そしてなにより、怖い。 話しかけるどころか、視線を合わせることすら躊躇ってしまいそうだ。 私はこんな人たちと、今から何を話せばいいんだろう。 ページをめくる手が止まり、顔をしかめる。 「……いない」 ぼそりと、小さくつぶやいた。 誰ひとりとして、「話してみたい」と思える人がいなかった。 まるで異世界に紛れ込んでしまったような気