Mag-log in男の趣味が最悪だった。 ヤンデレ、ヒモ、モラハラ、学歴詐称――なぜか寄ってくるのはクズ男ばかり。信じては裏切られ、尽くしては泣かされ、「私が悪いのかも」と自分を責め続けてきた。 もうこんな恋は終わりにしよう。 そう決めて彼女は過去の縁をすべて断ち切り、「絶対に幸せになる」と前を向く。 するとその瞬間、今まで彼女を雑に扱ってきた男たちが一斉に本気になり、後悔と執着を剥き出しにして迫ってきた。 でももう遅い。 これは、泣かされ続けた女がクズ男たちを置き去りにし、本当の幸せを選び取る逆転ラブストーリー。
view more「おわった!ごめんね、ヘアセットこだわりすぎて時間かかっちゃった」ヒナタから連絡がきたのは、それから1時間後だった。——ヘアセットこだわりすぎてって、女子かよ。思わずツッコミを入れたくなりながら、私は家を出る準備をする。向かうのは、露天神社。待ち合わせ場所に指定されたその場所は、谷町線「東梅田駅」から少し歩いた、商店街の奥にあった。夜19時。あたりはまだ賑やかで、人の流れも絶えない。——どこかな。周囲を見渡すと、門のそばに、ひときわ目立つ存在がいた。細くて背が高くて、赤髪のハーフアップ。すぐにわかる。「ヒナタくん…!」呼びかけると、彼はぱっと振り向いた。子犬みたいな、無防備な笑顔。「久しぶり!」その一言で、距離が一気に縮まる。「髪、伸びたねー!」「うん!紗月ちゃん、いつもハーフアップだからお揃いになるかなって頑張ったんだけど……今日は違うくて残念」よく見ると、短い髪を無理やりまとめたようなハーフアップ。頑張った形跡がそのまま残っていて、なんだか可愛い。「たしかに、今日は珍しく下ろしてる」「下ろしてるのも新鮮だし、似合うね?」大きくて、きゅるんとした目が、まっすぐこちらを見つめる。——ずるい。一瞬で、心臓が跳ねる。年下なのに、この距離感とこの言葉選び。恋愛偏差値、高すぎる。「え、ていうかワンピース可愛い。女の子らしいね」「そう、最近買ったの。このワンピース、ハーフアップだと甘すぎるかなって思って、今日は下ろしてみたの」「いやいや、可愛い子はどんな髪型しても可愛いから」——もう。さらっと言うくせに、ちゃんと刺してくる。胸の奥が、じわっと熱くなる。こういうところなんだよな。わかってるくせに、無邪気にやってくる。ずるいな、ほんとに。
ひさびさに早起きした朝。まだ空気はひんやりしていて、カーテンの隙間から差し込む光がやけにやわらかかった。在宅でゆるく働いていた頃とは違う。“外に出て、誰かと会う日”の緊張が、胸の奥にじんわりと広がっていた。大阪、鶴橋。韓国の空気が色濃く残る街。駅を出た瞬間、甘い香りと焼き肉の煙が混ざった空気に包まれる。聞こえてくる韓国語、派手な看板、細い路地に並ぶ店たち。雑多で、少し騒がしくて。でも、その全部がなぜか心地よかった。待ち合わせのカフェ前。深呼吸をひとつ。——ちゃんとやれるかな。不安を押し込めるように、スマホの時間を何度も確認する。「あの!本日はよろしくお願いします」声をかけると、編集長はやわらかく笑った。「はい、よろしくね!」その一言で、肩の力がすっと抜ける。仕事なのに、どこか安心する距離感。そこから先は、本当にあっという間だった。可愛い内装に胸がときめいて、写真を撮って、味を言葉にして、また次の店へ。気づけば、“仕事”という感覚はどこかへ消えていた。四店舗目を出た頃には、足は少し疲れていたのに、心は妙に軽かった。「早く終わったし、ご飯でも行く?」「はい!」大きく頷いた。キンパを頬張りながら、仕事の話をする。これからのこと、書き方のこと、企画のこと。誰かと“未来の話”をするのは久しぶりで。——私、ちゃんと前に進んでる。そう思えたことが、嬉しかった。誰かと対面で関わって仕事をするのって、やっぱり楽しい。「今日はありがとう!またよろしくね!」るんるんした気持ちで、「いい日だったなあ」と思いながら歩く帰り道。——そのとき。スマホが震えた。通知。メッセージ。心臓が、どくんと跳ねる。画面に表示された名前を見て、胸の奥がざわついた。ヒナタ。「もっしもーし。今日の夜って暇?」軽い声。でも、その奥にある温度を、私は知っている。「……まあ、空いてるけど」少し間をあけて返す。今日の私は、余裕がある。満たされているから。すぐに返ってきた言葉。「あのさ、会わない?俺、金ないからその辺ぶらぶらするだけだけど」——お金ないのに誘うんだ。やっぱりこの人、なんだかもやもやする。普通なら、断る理由になるのに。でも同時に、“それでも会いたいってこと?”そんな感情が、静かに顔を出す。「まあいい
もう少しだけ、横になっていようと思った。一日でいろんなことがありすぎて、頭の中が追いつかない。天井をぼんやり見つめながら、力の抜けた体をベッドに沈める。静かな部屋。外からは遠くで車が走る音がかすかに聞こえるだけで、やけに現実感が薄い。何も考えたくなくて、逃げるようにスマホを手に取る。指先で無意識に画面をなぞり、TikTokを開いた、その瞬間——通知がひとつ、目に入った。メッセージ。心臓が、どくんと跳ねる。なぜか、嫌な予感がした。見たくないのに、見なければいけない気がして、震える指でその通知をタップする。——「あの男、だれ?」一行だけの短い文章。けれど、その文字を見た瞬間、胸の奥がぎゅっと掴まれたように苦しくなった。ドクン、と心臓が強く鳴る。みおんだ。すぐにわかった。言葉の冷たさも、踏み込んでくる距離感も、全部。しかも——ブロックしたはずなのに。画面のプロフィールを確認する。フォローもフォロワーもゼロ。アイコンは初期設定のまま。新しいアカウント。わざわざ作って、私に連絡してきている。背中に、じわりと冷たいものが走った。……怖い。無意識に、スマホを持つ手に力が入る。指先がじんわりと汗ばんで、少し滑る。あんなことをしておいて。あんなに、私を傷つけておいて。まるで何もなかったみたいに、こうして平然とメッセージを送ってくるなんて。今まで一度も連絡なんてなかったくせに。——どうして、今?頭の奥で、嫌な予感が形になっていく。きっと、また何かあったんだ。またトラブルを起こして、そして——私を利用しようとしている。そう思った瞬間、胸の奥がざわざわと騒ぎ出す。無視すればいい。関わらなければいい。わかっているのに。画面に映るその一文から、目が離せなかった。
やわらかな昼の光に包まれながら、私は心地よさに身を預けていた。カーテン越しに差し込む明るい日差しが、まぶたの裏をほんのり温かく照らしている。遠くからは人の話し声や車の音が聞こえてきて、街が動いている気配がするのに、この部屋の中だけは時間がゆっくり流れているみたいだった。そのとき、肩を軽く叩かれた。とん、とん。優しく、でもちゃんと私を現実に引き戻すようなリズム。ゆっくりと目を開けると、逆光の中にルカさんの姿が浮かび上がる。昼の光に照らされて、いつもより少し柔らかく見えた。無造作な髪とラフな服装、それでも隠しきれない余裕と色気があって、思わず目を奪われる。「俺、出勤してくるわ」低くて落ち着いた声が、静かな部屋にすっと落ちる。「うん」たったそれだけのやり取りなのに、胸がじんわりと熱くなる。まるで同棲している恋人同士みたいな、自然すぎる会話。そんな距離感に、不意にドキッとした。「いってらっしゃい、ルカさん。ありがとうね」少し体を起こしながらそう言うと、ルカさんは軽く手を上げた。「おう。戸締まりちゃんとしとけよ?なんかあったらすぐ呼べ」ぶっきらぼうなのに、ちゃんと気にかけてくれているのがわかる言い方。その一言一言が、胸の奥をじんわり温めていく。「うん…」小さく頷くと、ルカさんはそのまま背を向けた。玄関へ向かう足音。ドアが開いた瞬間、外の明るい光と少しだけ暖かい風が流れ込んできて、ふっと現実に引き戻される。そして、静かに閉まるドアの音。その後ろ姿を、私はぼんやりと見送っていた。広い背中。ラフに歩く姿。どこか危うい雰囲気をまとっているのに、不思議と安心させる存在。——ああ、この人、ずるい。守られているような安心感と、簡単には触れられないような距離。その両方を持っているから、余計に惹かれてしまう。ドアが閉まったあとも、しばらくその余韻が部屋に残っていた。さっきまで隣にあった温もりが、まだ肩に残っている気がする。昼の光に満ちた部屋が、少しだけ広く、そして少しだけ静かに感じた。胸の奥が、ほんの少しだけ締めつけられる。恋しい、なんて言葉にするにはまだ早いはずなのに。それでも、彼のいないこの時間が、ほんの少しだけ物足りなく思えた。
やっと、嵐のように降り注いでいたキスが途切れた。唇が離れた瞬間、熱を持った空気がふっとほどける。けれど、心臓の鼓動だけは収まる気配がなくて、耳の奥でうるさいくらいに鳴り続けていた。恥ずかしくて、とても顔なんて見られない。視線を逸らすように、そっと顔を背ける。その仕草を見逃すはずもなく、頭上からくすりと笑う気配が落ちてきた。「俺、紗月ちゃんには嫌われたくないからここまでで」どこか余裕を含んだ声。その言葉に、張り詰めていたものが一気にほどけて、全身の力が抜ける。くたりと崩れ落ちるような私を見下ろして、ルカさんは満足そうに微笑んでいた。——この人、本当に紳士なの?いや、絶対違う
「ドライヤー借りてもいい?」 少しだけ間を置いてから返ってきたその声は、どこか気の抜けたような、けれど妙に柔らかく耳に残る響きをしていた。 「どうぞー!」 私はあえて顔を向けず、ベッドの上に腰を下ろしたまま、そっけなく返事をする。 視線を向けたら、きっと負ける気がしたから。 ——わかってる。 ルカさんは今、お風呂上がりだ。 濡れた髪、少し上がった体温、ほんのり香るシャンプーの匂い
「ごめん、今日普通に仕事なんだけど、ちょっとここで仮眠とらせてもらってもいいかな?」 少し申し訳なさそうに、でもどこか自然なトーンでそう言われた。 「うん、いいよ」 反射的に答えてから、ほんの少しだけ、心が揺れる。 ——いいのかな。 さっきまで、あんなに怖い思いをして、助けてもらったばかりなのに。 ドキッとする気持ちと、断れない理由が、胸の中で交差する。 自分
7時を少し過ぎた頃だった。 まだ朝の光はやわらかくて、夜の気配が、ほんの少しだけ残っている。 その静けさを破るように、インターフォンが鳴った。 一瞬、身体が強ばる。 ——また、あの人じゃないよね。 胸がざわつく。 でも、モニターに映った顔を見た瞬間、その緊張はすっとほどけた。 ルカさんだ。 「大丈夫か?」