ログイン男の趣味が最悪だった。 ヤンデレ、ヒモ、モラハラ、学歴詐称――なぜか寄ってくるのはクズ男ばかり。信じては裏切られ、尽くしては泣かされ、「私が悪いのかも」と自分を責め続けてきた。 もうこんな恋は終わりにしよう。 そう決めて彼女は過去の縁をすべて断ち切り、「絶対に幸せになる」と前を向く。 するとその瞬間、今まで彼女を雑に扱ってきた男たちが一斉に本気になり、後悔と執着を剥き出しにして迫ってきた。 でももう遅い。 これは、泣かされ続けた女がクズ男たちを置き去りにし、本当の幸せを選び取る逆転ラブストーリー。
もっと見るさっそく階段を上り、鳥居をくぐろうとしたそのとき——「ちょっと待って」と、後ろから声をかけられた。振り向くと、ヒナタくんがタバコをくわえている。「一服させて。さすがにタバコ吸いながら神社はダメっしょ」そう言って、ゆっくり煙を吐いた。……うん、やっぱりこの人、ちょっと柄が悪い。赤髪の時点でなんとなく察してはいたけれど、初デートで見せていたあの“いい子モード”は、どうやら完全に猫をかぶっていたらしい。今日の雰囲気はというと——地元のコンビニ前でたむろしてそうな、ちょっとやんちゃな感じ。そんなことをぼんやり考えながら見ていると、「んじゃ、行きますかっ」タバコを吸い終えたヒナタくんが、やけに軽いテンションで、私を見もせずにずんずん歩き出した。正直、このまま神社に入って浮かないかな……なんて少し心配していたけれど、その不安はすぐに消えた。鳥居をくぐった先は、想像していた“静かな神社”とはまるで違っていた。手水舎や境内のあちこちが、色とりどりの花やピンクの提灯で彩られていて、ふわっと甘い空気が漂っている。……なにこれ、ロマンチックすぎる。カップルや観光客で賑わうその光景は、もはや神社というより“デートスポット”そのものだった。「神社とか久々にきたなあ」ヒナタくんはそう呟きながら、相変わらずマイペースに歩いていく。エスコートする気は……たぶん、ない。というより、できないのかもしれない。私は少し置いていかれながらも、境内に並ぶピンク色の絵馬やオブジェに目を奪われていた。どこを見ても可愛くて、胸が自然と浮き立つ。「さてっ!おみくじでも引きますかあ」見つけたのは、ガチャガチャ式のおみくじ。しかも水に浮かべる“恋みくじ”だった。紙を水に浮かべると、じわじわと文字やハートが浮かび上がってくる仕組みらしい。説明には“35秒ほど浸ける”と書いてある。なのに——ヒナタくんは、5秒も経たないうちに紙を引き上げた。もちろん、何も浮かんでいない。「ねえヒナタくん、早すぎ!まだ何も出てないよ?」思わず笑いながら言うと、「うっさいなー」と、真顔で言い返されて、再び水に浸け直す。さっきまでの柔らかい雰囲気はどこへやら。急に口調が強くなって、少しだけ不安になる。「ねえ、写真撮ろうよ」せっかくだし、と声をかけると、「ああ」と短く返事が
「おわった!ごめんね、ヘアセットこだわりすぎて時間かかっちゃった」 ヒナタから連絡がきたのは、それから1時間後だった。 ——ヘアセットこだわりすぎてって、女子かよ。 思わずツッコミを入れたくなりながら、私は家を出る準備をする。 向かうのは、露天神社。 待ち合わせ場所に指定されたその場所は、谷町線「東梅田駅」から少し歩いた、商店街の奥にあった。 夜19時。 あたりはまだ賑やかで、人の流れも絶えない。 ——どこかな。 周囲を見渡すと、門のそばに、ひときわ目立つ存在がいた。 細くて背が高くて、黒髪のハーフアップ。 すぐにわかる。 「ヒナタくん…!」 呼びかけると、彼はぱっと振り向いた。 子犬みたいな、無防備な笑顔。 「久しぶり!」 その一言で、距離が一気に縮まる。 「髪、伸びたねー!」 「うん!紗月ちゃん、いつもハーフアップだからお揃いになるかなって頑張ったんだけど……今日は違うくて残念」 よく見ると、短い髪を無理やりまとめたようなハーフアップ。 頑張った形跡がそのまま残っていて、なんだか可愛い。 「たしかに、今日は珍しく下ろしてる」 「下ろしてるのも新鮮だし、似合うね?」 大きくて、きゅるんとした目が、まっすぐこちらを見つめる。 ——ずるい。 一瞬で、心臓が跳ねる。 年下なのに、この距離感とこの言葉選び。 恋愛偏差値、高すぎる。 「え、ていうかワンピース可愛い。女の子らしいね」 「そう、最近買ったの。このワンピース、ハーフアップだと甘すぎるかなって思って、今日は下ろしてみたの」 「いやいや、可愛い子はどんな髪型しても可愛いから」 ——もう。 さらっと言うくせに、ちゃんと刺してくる。 胸の奥が、じわっと熱くなる。 こういうところなんだよな。 わかってるくせに、無邪気にやってくる。 ずるいな、ほんとに。
ひさびさに早起きした朝。まだ空気はひんやりしていて、カーテンの隙間から差し込む光がやけにやわらかかった。在宅でゆるく働いていた頃とは違う。“外に出て、誰かと会う日”の緊張が、胸の奥にじんわりと広がっていた。大阪、鶴橋。韓国の空気が色濃く残る街。駅を出た瞬間、甘い香りと焼き肉の煙が混ざった空気に包まれる。聞こえてくる韓国語、派手な看板、細い路地に並ぶ店たち。雑多で、少し騒がしくて。でも、その全部がなぜか心地よかった。待ち合わせのカフェ前。深呼吸をひとつ。——ちゃんとやれるかな。不安を押し込めるように、スマホの時間を何度も確認する。「あの!本日はよろしくお願いします」声をかけると、編集長はやわらかく笑った。「はい、よろしくね!」その一言で、肩の力がすっと抜ける。仕事なのに、どこか安心する距離感。そこから先は、本当にあっという間だった。可愛い内装に胸がときめいて、写真を撮って、味を言葉にして、また次の店へ。気づけば、“仕事”という感覚はどこかへ消えていた。四店舗目を出た頃には、足は少し疲れていたのに、心は妙に軽かった。「早く終わったし、ご飯でも行く?」「はい!」大きく頷いた。キンパを頬張りながら、仕事の話をする。これからのこと、書き方のこと、企画のこと。誰かと“未来の話”をするのは久しぶりで。——私、ちゃんと前に進んでる。そう思えたことが、嬉しかった。誰かと対面で関わって仕事をするのって、やっぱり楽しい。「今日はありがとう!またよろしくね!」るんるんした気持ちで、「いい日だったなあ」と思いながら歩く帰り道。——そのとき。スマホが震えた。通知。メッセージ。心臓が、どくんと跳ねる。画面に表示された名前を見て、胸の奥がざわついた。ヒナタ。「もっしもーし。今日の夜って暇?」軽い声。でも、その奥にある温度を、私は知っている。「……まあ、空いてるけど」少し間をあけて返す。今日の私は、余裕がある。満たされているから。すぐに返ってきた言葉。「あのさ、会わない?俺、金ないからその辺ぶらぶらするだけだけど」——お金ないのに誘うんだ。やっぱりこの人、なんだかもやもやする。普通なら、断る理由になるのに。でも同時に、“それでも会いたいってこと?”そんな感情が、静かに顔を出す。「まあいい
もう少しだけ、横になっていようと思った。一日でいろんなことがありすぎて、頭の中が追いつかない。天井をぼんやり見つめながら、力の抜けた体をベッドに沈める。静かな部屋。外からは遠くで車が走る音がかすかに聞こえるだけで、やけに現実感が薄い。何も考えたくなくて、逃げるようにスマホを手に取る。指先で無意識に画面をなぞり、TikTokを開いた、その瞬間——通知がひとつ、目に入った。メッセージ。心臓が、どくんと跳ねる。なぜか、嫌な予感がした。見たくないのに、見なければいけない気がして、震える指でその通知をタップする。——「あの男、だれ?」一行だけの短い文章。けれど、その文字を見た瞬間、胸の奥がぎゅっと掴まれたように苦しくなった。ドクン、と心臓が強く鳴る。みおんだ。すぐにわかった。言葉の冷たさも、踏み込んでくる距離感も、全部。しかも——ブロックしたはずなのに。画面のプロフィールを確認する。フォローもフォロワーもゼロ。アイコンは初期設定のまま。新しいアカウント。わざわざ作って、私に連絡してきている。背中に、じわりと冷たいものが走った。……怖い。無意識に、スマホを持つ手に力が入る。指先がじんわりと汗ばんで、少し滑る。あんなことをしておいて。あんなに、私を傷つけておいて。まるで何もなかったみたいに、こうして平然とメッセージを送ってくるなんて。今まで一度も連絡なんてなかったくせに。——どうして、今?頭の奥で、嫌な予感が形になっていく。きっと、また何かあったんだ。またトラブルを起こして、そして——私を利用しようとしている。そう思った瞬間、胸の奥がざわざわと騒ぎ出す。無視すればいい。関わらなければいい。わかっているのに。画面に映るその一文から、目が離せなかった。
「黒髪にしたの?」思わず口からこぼれた。さっき遠くから見つけたとき、最初は同一人物だと思えなかった。ふわっと軽そうな赤髪だったはずなのに、目の前にいる彼は、落ち着いた黒髪。光を受けてほんのり艶が出ていて、白いシャツによく似合っている。ヒナタは少しだけ照れたように頭をかいた。「うん。紗月ちゃん、黒髪の方が好きかなと思って。2日前に染めた」「え……私のために……?」胸の奥が、きゅっと鳴った。髪を染めるって、そんなに軽いことじゃない。
月曜日。ヒナタと、とんとん拍子でカフェに行くことになった。あまりにも自然に決まったから、そのときは何も疑わなかった。「先輩がおすすめしてくれたカフェがあるんだよね」ヒナタはそう言って、楽しそうに笑っていた。——じゃあそこ行こうよ。そう言いかけて、結局店は決めないまま。「また後で決めよっか」そんな軽いやり取りで、その日は終わった。前日の夜。私はスマホを手に取ってメッセージを送った。「ヒナタくん勤務終わり電話しよ〜!明日の予定決めたい」送信ボタンを押してから、画面を何度も見た。既読はつかない。まあ、仕事中か。そう思って、スマホを机に置いた。でも夜になっても。寝る
「あ、ありがとうございます……」差し出された水を受け取ると、彼はにっこりと笑った。まるで女の子が好きそうな、どこか愛嬌のある笑みだった。よく見ると、制服を着ている。胸元には小さな名札。——ああ、店員さんか。そういえば、さっきレジで対応してくれた人だ。そのときは顔をよく見ていなかったけれど、改めて見ると、整った顔をしている。……イケメンだな。そんなことをぼんやり思いながら、水を口に含んだ。乾いた喉に、冷たい水がすっと落ちていく。気づけば、紙コップはすぐに空になっていた。その間も、彼は隣に立ったまま動かない。じっとこちらを見ている。「……」なんだろう、この距離感。
「……え、ヤクザってことですか? ルカさんはヤクザの息子……?」思わず声がかすれる。自分でも驚くほど小さな声だった。ルカさんはハサミを動かす手を止めず、鏡越しにこちらを見て、軽く肩をすくめた。「そう。俺、実家では“若”って呼ばれてる」まるで昔のあだ名でも話すみたいな、気楽な調子だった。冗談でも言っているように、口元にはうっすら笑みまで浮かんでいる。「若……」その言葉を、私は小さく繰り返した。喉の奥が、ひどく乾いている。笑えない。——本物じゃん。胸の奥で、ひやりと冷たいものが広がる。さっき奥から聞こえてきた怒鳴り声と、あの鈍い音が、頭の中で嫌にリアルに蘇った。この人