最後の願いは、貴方に弔いなき死を私、入江日美子(いりえ ひみこ)は、この世に残された最後の人魚の末裔。生まれながらにして三度、わが身を削ったら天に願う禁忌の力を宿していた。
一度目は、恋い慕う男である横山清隆(よこやま きよたか)が死の淵を彷徨ったとき。私は腹に宿した赤子と、将来母となる未来のすべてを生贄とし、清隆の長命息災を乞うた。
二度目は、この哭海村(なきみむら)の網元・横山家が没落の危機に瀕したとき。私は積年の修行で得た霊力のすべてを代償に、横山家の再興と万事の安寧を祈祷した。
そして三度目。清隆の幼馴染である白井美紗緒(しらい みさお)が難産に苦しむと、あろうことか彼は私に、三度目の生贄となれと迫った。
美紗緒母子の無事を祈れと。
拒絶した私を、彼は荒くれ漁師たちが寝泊まりする「番屋」へと放り込んだ。
「一回につき十円だ。好きに抱け。どうせこいつは、孕まぬ石女だからな」
その夜、獣のような息遣いの中で、私は喉が裂けるほどに泣き叫んだ。
翌朝、障子の隙間から薄光が差し込む頃。
私は自らの命を最後の代償として、懐の勾玉に血を這わせ、最期の呪詛を詠った。
「我を欺き、辱めし外道どもよ……汝らが血脈、末代まで根絶やしとなれ。死して屍を拾う者なく、魂は永劫、無縁の闇を彷徨わん!」