雨は遅く、人は遠く「ボトルが指した人が、律真の『一晩だけの花嫁』ってことでどう?」
グラスの音が響く夜のクラブの個室で、誰かが冗談めかして神谷律真(かみや りつま)にそう提案した。
けれど、その場で部屋の隅に座る白川静乃(しらかわ しずの)へ視線を向ける者は、ひとりもいなかった。
それも当然のことだ。
ふたりが結婚して、もう四年。
周囲では「仮面夫婦」として有名だった。
誰もが知っている。律真は外では女遊びばかりで、ただひとり、妻の静乃には決して手を出さなかった。
静乃も分かっていた。彼は自分の身体を求めてはいない。代わりに欲しがっているのは――自分のすべての愛情だ。だからこそ、彼はいつも自分を試し続けていたのだ。