エースナンバーは俺のもの

エースナンバーは俺のもの

last updateTerakhir Diperbarui : 2026-02-26
Oleh:  ちばぢぃOngoing
Bahasa: Japanese
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主人公・早乙女球太(さおとめきゅうた)が名門の市立福丘高校に入学し甲子園を目指す物語。 早乙女球太は一般入学で入るが、同学年で一目置かれるプロ注目のライバル・篠原涼(しのはらりょう)が同じポジションで特待生で入学してくる。球太がエースナンバーを取りに行く。

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Bab 1

第一話:入学と運命の出会い

春の風が桜の花びらを舞わせる中、市立福丘高校の校門は新入生たちで賑わっていた。福岡県の名門校として知られるこの高校は、野球部が全国的に有名だ。過去に何度も甲子園に出場し、プロ野球選手を何人も輩出している。早乙女球太は、そんな学校の門をくぐりながら、心の中で拳を握りしめた。

球太は身長180センチ、体重75キロのガッシリとした体格の少年だ。中学時代は地元の公立中でエースピッチャー兼4番打者を務め、県大会で優勝した実績を持つ。速球は140キロを超え、変化球も多彩。だが、彼は特別な推薦や特待生ではなく、一般入試でこの学校に合格した。理由はシンプルだ。甲子園に行きたい。プロ野球選手になりたい。その夢を叶えるために、最高の環境を選んだのだ。

「よし、今日から高校生活だ。野球部に入って、エースナンバーを取るぞ!」

球太は独り言を呟きながら、入学式の会場に向かった。式は厳粛に進み、校長の挨拶や生徒代表の言葉が続く。球太の隣に座ったのは、同じ中学出身の友人、田中健太だった。健太は野球部には入らないが、球太の夢を応援してくれている。

「球太、緊張してるか? あの福丘の野球部だぜ。特待生がいっぱい入ってくるらしいよ」

健太の言葉に、球太はニヤリと笑った。

「それがいいんだよ。強いヤツらと競ってこそ、強くなれるだろ」

入学式が終わると、新入生たちはそれぞれの教室へ。球太のクラスは1年A組。自己紹介の時間になると、球太は堂々と立ち上がった。

「早乙女球太です。中学では野球やってました。高校でも野球部に入って、甲子園目指します。よろしく!」

クラスメートから拍手が起きる中、一人の生徒が視線を送ってきた。黒髪を短く刈り上げ、鋭い目つきの少年だ。自己紹介で彼は言った。

「篠原涼です。野球部に入ります。ポジションはピッチャーです」

その瞬間、球太の胸にざわめきが走った。篠原涼――聞いたことがある名前だ。中学時代、全国大会で活躍したエースピッチャー。速球は150キロ近く出ると噂され、プロスカウトの注目を集めている。特待生で福丘に入学したという話だ。同じピッチャー、同じ学年。運命のライバルが、こんなに早く現れるとは。

放課後、球太はすぐに野球部のグラウンドへ向かった。新入生の入部説明会がある。福丘高校の野球部は、監督の山田浩二が率いる厳しいチームだ。山田監督は元プロ選手で、指導はスパルタだが、選手の才能を最大限に引き出すと評判だ。

グラウンドに着くと、すでに上級生たちが練習を始めていた。キャッチボールやバッティングの音が響く。球太は興奮を抑えきれず、深呼吸した。新入生は20人ほど集まっていた。その中に、篠原涼の姿もあった。涼はクールに立っており、周りの新入生たちから一目置かれている様子だ。

「ようこそ、福丘高校野球部へ。新入生諸君、まずは自己紹介からだ。ポジションとこれまでの実績を言え」

山田監督の声が響く。監督は50代半ばの男で、厳しい表情だが、目には情熱が宿っている。自己紹介が始まり、特待生の新入生たちが次々と名乗り出る。キャッチャー、ショート、外野手……そしてピッチャー志望が何人か。

球太の番が来た。

「早乙女球太です。中学ではエースで4番でした。速球は140キロ台、変化球はスライダーとフォーク。甲子園目指して頑張ります!」

監督は頷き、メモを取る。次は涼だ。

「篠原涼です。中学全国大会準優勝のエースで4番。ストレートは150キロ、変化球はカーブ、スライダー、チェンジアップ。プロを目指しています」

グラウンドにどよめきが起きた。150キロ――高校生レベルでは怪物だ。球太は内心で闘志を燃やした。「負けねえぞ。お前がエースだと思うなよ」

説明会が終わると、すぐに基礎練習が始まった。新入生たちは上級生に混じってランニングとストレッチ。福丘の練習はきついと聞いていたが、予想以上だった。監督の指示で、グラウンドを20周走らされる。汗だくになりながら、球太は歯を食いしばった。

「これくらいでへばるんじゃ、甲子園なんて夢のまた夢だぞ!」

監督の叱咤が飛ぶ。涼は涼しい顔で走っている。体力が違うのか、それとも精神力か。球太は悔しさをバネに、ペースを上げた。

ランニングの後、キャッチボール。球太は同じ新入生のキャッチャー志望の生徒とペアになった。ボールを投げると、いい音がする。自分の球のキレに自信を持った。

一方、涼は上級生のキャッチャーとペア。投げるたび、周りから感嘆の声が上がる。球太はチラチラと見ながら、自分の投球に集中した。

練習のハイライトはブルペンでの投球練習。新入生のピッチャー志望者たちが順番に投げる。監督と上級生のエース、3年生の佐藤大輔が見守る。佐藤は昨年の夏の甲子園で好投した本格派だ。

まず、他の新入生が投げた。球速は130キロ前後。監督は「まあまあだな」と評価。

球太の番。マウンドに立つと、緊張が走った。キャッチャーは上級生の正捕手、鈴木健。球太は深呼吸し、ストレートを投げた。パシュッ! ミットに収まる音が響く。球速は142キロ。続いてスライダー、フォーク。キレがいい。

「ほう、いい球投げるな。早乙女か。フォームが安定してる」

監督の言葉に、球太は内心でガッツポーズ。だが、次は涼だ。

涼がマウンドに上がる。静かな集中力。セットポジションから、ワインドアップ。ストレートが飛ぶ。バシュン! ミットが鳴る。球速152キロ。キャッチャーの鈴木が少し後ずさるほどだ。変化球も鋭く、監督の目が輝いた。

「篠原、噂通りだな。こりゃ楽しみだ」

練習後、球太はロッカールームで着替えながら、涼に声をかけた。ライバルとして、まずは挨拶だ。

「よお、篠原。いい球投げるな。俺も負けねえよ」

涼はクールに振り返った。

「早乙女か。君も悪くない。でも、エースは一人だ。競争だな」

二人の視線が交錯する。火花が散るような緊張感。球太は笑った。

「そうだな。甲子園まで、切磋琢磨しようぜ」

その夜、球太は寮に戻った。福丘の野球部員は全員寮生活だ。部屋は2人部屋で、球太のルームメイトは同じ新入生の外野手、伊藤翔だった。翔は明るい性格で、すぐに打ち解けた。

「球太、今日の投球よかったぜ。篠原はすげえけど、お前も負けてねえよ」

「ありがと。でも、まだ始まったばかりだ。エースナンバーを取るために、毎日全力でいく」

翌日から、本格的な練習が始まった。朝練は6時から。ランニング、筋トレ、素振り。球太は中学時代よりきついメニューに耐えながら、成長を実感した。ピッチャー陣は上級生中心だが、新入生の球太と涼はすぐに頭角を現した。

ある日、紅白戦が組まれた。新入生主体のチーム対上級生チーム。球太は新入生チームの先発ピッチャーに指名された。対する上級生の先発は佐藤だ。

マウンドに立つ球太。初回、ストレートで三振を奪う。2回にはスライダーで凡打。調子がいい。だが、3回に上級生の4番にホームランを打たれた。悔しい。

交代後、ベンチで監督が声をかけた。

「早乙女、球威はあるが、甘い球が多い。もっと制球を磨け」

球太は頷いた。次は涼のリリーフ。涼はマウンドで圧巻の投球。150キロのストレートで上級生をねじ伏せた。試合は上級生チームの勝利だったが、新入生のポテンシャルを示した。

紅白戦後、球太と涼はグラウンドで話し込んだ。

「今日の球、よかったぜ。俺の球より速いな」

球太の言葉に、涼は少し微笑んだ。

「でも、君のフォークは厄介だ。俺ももっと変化球を増やさないと」

二人はライバルだが、互いに敬意を持っていた。中学時代、球太は県大会で優勝したが、全国には行けなかった。一方、涼は全国準優勝。経験の差はあるが、球太の情熱は負けていない。

練習が続く中、チーム内のポジション争いが激化した。エースナンバー「1」は佐藤が背負っているが、来年は新エースが決まる。球太と涼は共に候補だ。他のピッチャー新入生もいるが、二人が抜きん出ている。

ある夕方、球太は個人練習でフォークの握りを調整していた。そこに涼が現れた。

「早乙女、一緒に投げてみないか? キャッチボール」

意外な誘い。球太は頷いた。二人はグラウンドでボールを投げ合う。球太の球を涼が受け、涼の球を球太が受ける。互いの球の感触を確かめ合う。

「君のストレート、キレがあるな。どうやって投げてる?」

涼の質問に、球太は自分のコツを教えた。涼も変化球のヒントをくれた。ライバルだが、仲間でもある。福丘の野球部は、そんな絆で強くなる。

夏の大会が近づく中、球太はさらに磨きをかけた。朝練後の自主トレ、夜の筋トレ。体が悲鳴を上げても、止まらない。甲子園の夢が、彼を駆り立てる。

一方、涼はクールだが、内面では熱い。特待生として期待されるプレッシャーを感じながら、練習に没頭する。二人は次第にチームの中心となり、上級生たちからも認められ始めた。

ある日、監督が二人を呼び出した。

「早乙女、篠原。お前たち、いいライバルだな。夏の大会では、二人を交互に使ってみる。どちらがエースになるか、勝負だ」

球太と涼は目を合わせ、頷いた。競争が始まる。甲子園への道は、厳しく長い。でも、二人は信じている。共に戦えば、必ず行ける。

球太の高校野球生活は、まだ始まったばかりだ。ライバルとの戦い、チームの絆、挫折と成長。すべてが彼を待っている。

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第一話:入学と運命の出会い
春の風が桜の花びらを舞わせる中、市立福丘高校の校門は新入生たちで賑わっていた。福岡県の名門校として知られるこの高校は、野球部が全国的に有名だ。過去に何度も甲子園に出場し、プロ野球選手を何人も輩出している。早乙女球太は、そんな学校の門をくぐりながら、心の中で拳を握りしめた。球太は身長180センチ、体重75キロのガッシリとした体格の少年だ。中学時代は地元の公立中でエースピッチャー兼4番打者を務め、県大会で優勝した実績を持つ。速球は140キロを超え、変化球も多彩。だが、彼は特別な推薦や特待生ではなく、一般入試でこの学校に合格した。理由はシンプルだ。甲子園に行きたい。プロ野球選手になりたい。その夢を叶えるために、最高の環境を選んだのだ。「よし、今日から高校生活だ。野球部に入って、エースナンバーを取るぞ!」球太は独り言を呟きながら、入学式の会場に向かった。式は厳粛に進み、校長の挨拶や生徒代表の言葉が続く。球太の隣に座ったのは、同じ中学出身の友人、田中健太だった。健太は野球部には入らないが、球太の夢を応援してくれている。「球太、緊張してるか? あの福丘の野球部だぜ。特待生がいっぱい入ってくるらしいよ」健太の言葉に、球太はニヤリと笑った。「それがいいんだよ。強いヤツらと競ってこそ、強くなれるだろ」入学式が終わると、新入生たちはそれぞれの教室へ。球太のクラスは1年A組。自己紹介の時間になると、球太は堂々と立ち上がった。「早乙女球太です。中学では野球やってました。高校でも野球部に入って、甲子園目指します。よろしく!」クラスメートから拍手が起きる中、一人の生徒が視線を送ってきた。黒髪を短く刈り上げ、鋭い目つきの少年だ。自己紹介で彼は言った。「篠原涼です。野球部に入ります。ポジションはピッチャーです」その瞬間、球太の胸にざわめきが走った。篠原涼――聞いたことがある名前だ。中学時代、全国大会で活躍したエースピッチャー。速球は150キロ近く出ると噂され、プロスカウトの注目を集めている。特待生で福丘に入学したという話だ。同じピッチャー、同じ学年。運命のライバルが
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第二話:初の紅白戦、そして火花
五月に入り、福丘高校野球部のグラウンドはすでに夏の気配を帯び始めていた。朝の空気はまだひんやりとしているのに、土の匂いが濃く、汗の予感が漂う。朝練のランニングが終わると、新入生たちは息を切らしながらも、すぐにブルペンへ向かうのが日課になっていた。早乙女球太は、今日も一番にマウンドに立っていた。キャッチャーミットを構えるのは、同じ新入生の鈴木健――いや、今はもう「健先輩」と呼ぶべきか。入学から一ヶ月、健は正捕手の座を争う上級生たちに負けじと練習を重ね、球太の球を一番多く受けている。「球太、今日のストレート、いつもよりキレてるぞ。気合い入ってるな」健がミットを叩きながら言う。球太は頷き、グローブで汗を拭った。指先が熱い。昨夜、寮の部屋で何度も握りを確認したフォークの感覚が、まだ手に残っている。「今日は……本気でいくよ」球太の声は低く、しかし確かだった。その言葉を聞いた瞬間、ブルペンの端でキャッチボールしていた篠原涼が、ぴたりと動きを止めた。涼の視線が、球太の背中に突き刺さる。今日の予定は、紅白戦。新入生混成チーム対上級生チーム。監督の山田は、昨日こう告げていた。「今日は新入生のピッチャーを先発で試す。早乙女と篠原、交互に投げろ。どっちがエースの座に近いか、見せてもらおうか」グラウンドの外周では、上級生たちが素振りを繰り返している。3年生のエース・佐藤大輔が、金属バットの音を響かせながら、ちらりとこちらを見た。昨年の夏、甲子園で完封勝利を挙げた左腕。球太にとって、越えなければならない壁の象徴だ。練習試合の開始を告げる笛が鳴った。新入生チームの先発は、球太。マウンドに上がる。土を踏みしめると、足元から振動が伝わってくる。スタンドは空っぽだが、ベンチの仲間たちの視線が、熱く重い。スコアボードは0-0。1回表、上級生の攻撃。1番打者、ショートの3年生・高橋。左打ちの巧打者だ。球太はセットポジション。息を吸い、吐く。心臓の音が耳に響く。健のミットが、ど真ん中を指す。「い
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第三話:夏へのカウントダウン
六月も半ばを過ぎ、福丘高校のグラウンドは毎日、灼熱の太陽にさらされていた。朝練のランニングを終えた選手たちは、すでに汗でユニフォームが張り付き、息が上がっている。グラウンドの土は乾いてひび割れ、足を踏み入れるたびに小さな砂煙が上がる。早乙女球太は、ブルペンの隅で一人、シャドーピッチングを繰り返していた。腕を振り抜くたび、汗が飛び散る。球速は最近、148キロまで安定して出るようになった。フォークも、落ち幅が大きくなり、健(鈴木健)が「これ、打てねえよ……」と本気でぼやくレベルだ。「まだだ。まだ、涼の球には届いてねえ」球太は独り言を呟きながら、グローブを握りしめた。今日のメニューは、午前中が守備練習と素振り、午後から紅白戦の続き。監督の山田は、夏の大会まであと1ヶ月を切った今、「実戦形式で序列をはっきりさせる」と言い切っていた。グラウンド中央では、篠原涼が上級生の正捕手・西田とキャッチボールをしている。涼のストレートは、相変わらず150キロを超え、しかもキレが増している。西田のミットが毎回「バシュン!」と鳴るたび、周りの新入生たちが息を飲む。「篠原の球、日に日にヤバくなってるな……」伊藤翔が、球太の隣で呟いた。翔は外野手としてレギュラー争いに食い込みつつあるが、ピッチャー陣の序列にはまだ遠い。「俺も負けねえよ」球太はそう言いながら、マウンドへ向かった。今日の紅白戦、新入生チームの先発は球太。対する上級生チームの先発は、3年生の佐藤大輔だ。試合開始の笛が鳴る。1回表、上級生の攻撃。球太の初球、ストレート。148キロ。ミットに収まる音が鋭い。「ストライク!」高橋(ショート)がタイミングを外され、空振り三振。続く中村も、西田も。球太は1回を三者凡退に抑えた。ベンチに戻ると、健がハイタッチを求めてきた。「いいぞ球太! 今日の球、めっちゃ生きてる!」「まだ序盤だ。佐藤さんの球が怖えよ」球太の視線が、マウンドの佐藤に向く。左腕の本格派。球威こそ涼に劣る
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第四話:ベンチの熱さ、届かないマウンド
七月に入り、福丘高校野球部の空気は一気に張りつめていた。夏の福岡大会予選が始まるまで、あとわずか。北部大会と南部大会に分かれ、福丘は南部シード校として、ベスト32からのスタートが決まっていた。抽選会で決まった組み合わせを見た瞬間、球太は拳を握りしめた。「3回戦から……。チャンスだ」部室の壁に貼られたトーナメント表。福丘はシード扱いなので、初戦は免除。だが、そこから勝ち上がるためには、少なくとも5~6試合を勝ち抜かなければならない。強豪ぞろいの福岡県で、甲子園への道は険しい。朝練後、監督の山田が全員をグラウンドに集めた。声はいつもより低く、重い。「夏が来る。俺たちは甲子園に行くために、ここにいる。ベンチ入りメンバーは、今日の紅白戦で決める。ピッチャー陣は特に厳しいぞ。序列は実力で決まる」新入生の視線が、球太と涼に集中する。涼は無表情だが、球太は心臓が早鐘のように鳴っていた。今日の紅白戦は「本番さながら」。上級生チーム vs 新入生・2年生混成チーム。監督は「公式戦と同じルールで、9回まで全力でやれ」と言い切った。球太は新入生チームの先発に指名された。マウンドに立つと、土の感触がいつもより重く感じる。健がミットを構え、サインを出す。1回表、上級生の攻撃。1番・高橋。初球、ストレート。149キロ。パシッ! ストライク。高橋の目が鋭くなる。二球目、外角スライダー。ファウル。三球目、内角フォーク。落ちる!空振り三振!続く2番も三振。3番・西田に四球を与えるが、4番・大石をショートゴロに打ち取る。1回無失点。ベンチに戻ると、翔が駆け寄ってきた。「球太、いいぞ! あのフォーク、完全に落ちてる!」「まだ……。佐藤さんが先発だぞ」上級生チームの先発は佐藤。左腕のエースは、相変わらずの制球で新入生打線を翻弄する。3回までパーフェクト。スコアは0-0。4回表、球太のピンチ。1アウト一・二塁。打者は5番の強打者。健がサイ
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第五話:夏の初マウンド、1イニングの証明
七月下旬。福岡大会予選が本格的に始まった。福丘高校は南部大会のシード校として、ベスト32からの登場。初戦の相手は、地元の公立校・筑紫南高校。甲子園常連の福丘からすれば、格下の相手だ。だが、誰もが知っている。夏の大会は、油断した瞬間に転がり落ちる。試合当日、球太はベンチの端でグローブを握りしめていた。背番号18。控えピッチャーとして、ベンチ入りはしたものの、先発はもちろん、中継ぎすらまだ回ってこない。監督の山田は「ピンチの場面で、早乙女を投げさせる」とだけ言っていた。スタンドは地元ファンで埋まり、応援団の太鼓が響く。スコアボードは0-0。1回表、福丘の攻撃。3年生の4番・大石が先制の2ランを放ち、早々に2-0。続く回でも追加点が入り、3回終了時点で5-0。試合は一方的な展開になっていた。ベンチでは、上級生たちがリラックスムード。だが、球太の胸はざわついていた。「このまま終わったら……俺、何もできずに終わるのか」4回表。福丘の攻撃が続いている中、監督が突然立ち上がった。「早乙女。準備しろ」球太の心臓が跳ねた。まだ5回も終わっていない。スコアは7-0。大量リードの場面で、なぜ?山田監督が低い声で続けた。「5回から投げろ。1イニングだけだ。夏のマウンドを、味わえ」周りの部員たちがどよめく。新入生の球太が、公式戦でいきなりマウンドに立つ。涼(背番号11)もベンチの端で、静かに球太を見ていた。5回裏。福丘の守備。スコア7-0のまま、球太がマウンドへ向かう。スタンドから小さなざわめきが起きる。「え、新入生?」「背番号18……誰だっけ?」球太は土を踏みしめ、マウンドの中央に立った。土の感触が、いつもより冷たく感じる。キャッチャーは正捕手の西田。西田がミットを構え、低く言った。「緊張すんなよ、早乙女。いつも通り投げろ」球太は頷き、深呼吸。グローブの中で指を動かし、握りを確認する。フォークの感触。ストレートの回転。初
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第六話:3回戦のピンチ、涼のマウンドと球太の叫び
八月上旬。福岡大会はベスト16に突入していた。福丘高校は順調に勝ち上がり、3回戦の相手は強豪・東福岡高校。昨年ベスト8のチームで、ピッチャーは2年生の右腕・高木がエース。球速148キロ、鋭いスライダーとチェンジアップを武器に、福丘打線を苦しめる存在だ。 試合前日、部室で山田監督がメンバー表を貼り出した。 先発ピッチャー:篠原涼(1年・背番号11) 中継ぎ:早乙女球太(1年・背番号18) 球太はリストを見て、静かに息を吐いた。初戦・2回戦ではベンチのままだったが、今回は中継ぎ待機。ピンチが来れば、マウンドに立つ可能性がある。 「篠原が先発か……。涼の初の公式戦先発だな」 球太は涼の背中を見つめた。涼はいつも通り無表情で、グローブを磨いている。 試合当日、球場は熱気で満ちていた。スタンドは両校の応援団で割れんばかりの歓声。太鼓の音が響き、夏の陽射しがグラウンドを白く焼く。 1回表、福丘の攻撃。東福岡の高木が立ちはだかる。初球から148キロのストレート。福丘の1番が空振り三振。続く打者も凡打。3番の大石がようやくセンター前ヒットで出塁するが、後続が倒れ、無得点。 1回裏。福丘の守備。マウンドに立つ涼。 キャッチャーは西田。西田がミットを構え、低く言った。 「涼、いつも通りだ。俺が全部受け止める」 涼は頷き、セットポジション。 初球、ストレート。 バシュン!! 球速表示板:157キロ。 スタンドがどよめく。東福岡の1番打者が、タイミングを完全に外され、空振り三振。 続く2番も三振。3番に四球を与えるが、4番をチェンジアップで三振。 1回無失点。ベンチに戻った涼に、球太が声をかけた。 「す
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第七話:準々決勝の激闘、限界の向こう側
八月も中旬に差し掛かり、福岡大会はベスト8の準々決勝を迎えていた。福丘高校の対戦相手は、福岡県内でも近年急成長を遂げた強豪・青峰学園高校。公立ながらスカウトの目が光るチームで、特に3番から5番にかけてのクリーンナップは「青峰の破壊者」と恐れられ、打線全体の長打力が脅威だ。ピッチャーは3年生の左腕・霧島。球速は145キロ台だが、抜群の制球とスプリット・カーブ・チェンジアップの多彩な変化球で、福丘打線を翻弄するタイプとして知られている。試合前日の夜、寮の部屋で球太はベッドに座り、グローブを膝に置いていた。健が隣のベッドから声をかける。「明日、準々決勝だな。先発は涼だってよ」球太は頷いた。「知ってる。俺は中継ぎ待機。ピンチが来たら……絶対に抑える」健は天井を見上げながら言った。「涼の球、最近158キロ出てるって噂だぞ。お前も152キロ超えたけど、まだ差がある。でも……今日の練習で見たお前のフォーク、落ち幅がエグい。あれなら、霧島の打線だって抑えられる」球太はグローブを握りしめた。「抑えたい。夏のマウンドで、もっと長く投げたい」窓の外では、遠くで蝉の声がまだ鳴いていた。夏の大会は、容赦なく選手を追い詰める。試合当日。球場は観客で埋まり、両校の応援団が交互に声を張り上げる。気温は35度を超え、グラウンドの土は熱を帯びて蒸気を上げている。選手たちはすでに汗でユニフォームが重くなっていた。1回表、福丘の攻撃。霧島の初球は外角低めのスプリット。福丘の1番が空振り三振。続く打者も三振。3番の大石がようやく四球を選び、続く4番がセンター前ヒット。1・三塁のチャンス。打席は涼。涼のバットが、霧島のストレートを捉える。カキーン!打球はレフトスタンドへ……!先制3ラン! スコア3-0!スタンドが爆発する。涼はゆっくりとダイヤモンドを回り、ホームを踏んだ。ベンチに戻ると、球太が拳を突き出した。「ナイスホームラン! お前、打ってもエースじゃん」
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第八話:準決勝前夜、肩の影
八月下旬。福岡大会はついに準決勝を迎えようとしていた。福丘高校の対戦相手は、県内屈指の強豪・龍門高校。昨夏ベスト4のチームで、打線は破壊力抜群、ピッチャーは3年生の右腕・黒崎がエース。球速152キロのストレートと、鋭く落ちるフォークを武器に、数々の強打者を沈めてきた。福丘にとっては、ここを勝ち抜かなければ甲子園は見えてこない。 前日の夕方、グラウンドでの調整練習が終わった後、球太はブルペンで軽く投げていた。フォークの握りを何度も確認し、ストレートのリリースポイントを微調整する。汗が滴り落ちる中、ふと視線を感じて振り返ると、涼がブルペンのフェンスにもたれかかっていた。 「涼、どうした?」 涼は右肩を軽く回しながら、静かに言った。 「ちょっと……肩が重い」 球太の表情が一瞬固まった。 「いつから?」 「昨日の夜から。投げるときに、少し引っかかる感じがする。今日は軽くしか投げてないけど……」 球太はグローブを握りしめた。 「監督に言ったか?」 涼は首を振った。 「まだ。明日朝のミーティングで報告するつもりだ。……でも、準決勝、先発は俺だって言われてたから」 二人はしばらく無言で立っていた。夕陽がグラウンドを赤く染め、遠くで上級生たちの声が響く。 球太は深呼吸して言った。 「無理すんなよ。お前がいないと……チームがヤバい」 涼は小さく笑った。 「心配すんな。俺の代わりに、お前が投げればいいだろ」 その言葉に、球太の胸がざわついた。 「俺が……先発?」 涼は肩を軽く叩いた。 「冗談だ。でも……お前なら、いける。今日までの投球見てれば、わかる」
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第九話:逆転の嵐、7回の崩壊
準決勝のスコアは、6回終了時点で福丘2-1龍門。球太の先発は予想外の好投を続け、6回まで1失点に抑えていた。スタンドの福丘応援団は「早乙女コール」を連発し、ベンチでは涼が静かにタオルで汗を拭きながら、球太のマウンドを見つめ続けていた。7回表、福丘の攻撃。2アウトから翔が四球を選び、続く打者がセンター前ヒットで1・三塁のチャンス。打席は大石。龍門のエース・黒崎はすでに100球近くを投げ、息が少し上がっている。黒崎の初球、外角低めフォーク。大石のバットが空を切る。ストライク。二球目、内角ストレート。ファウル。三球目、真ん中やや高めストレート。大石のバットが火を噴くように振られる。カキーン!!打球はライトスタンドへ……!3ラン! スコア5-1!スタンドが爆発する。福丘ベンチが総立ち。球太はベンチの柵を握りしめ、拳を握った。「よし……! これでいける!」7回裏。球太がマウンドに戻る。監督の山田はベンチから静かに見守る。「早乙女。最後まで投げ切れ」球太は頷き、グローブを叩いた。腕は重いが、まだ投げられる。球速は151キロ台を維持している。龍門の攻撃。1番打者、右打ちの巧打者。初球、ストレート。151キロ。ストライク。二球目、外角スライダー。ボールが曲がりすぎてボール。三球目、内角フォーク。落ちる!打者が空振り三振!続く2番打者。左打ちのパワーヒッター。初球、ストレート。ファウル。二球目、フォーク。空振り。三球目、真ん中低めストレート。打者がタイミングを合わせてフルスイング。カキーン!打球はレフトへ。高く上がる……フェンス直撃の二塁打!1アウト二塁。球太の息が少し乱れ始めた。「くそ……集中しろ」西田がマウンドへ向かう。「球太、腕が少し下がってる。ストレ
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第十話:夏の終わり、初めての挫折
八月最後の週。福岡大会準決勝で龍門高校に6-7で敗れた日から、一週間が過ぎていた。福丘高校野球部のグラウンドは、夏の残り香を残しながらも、どこか空虚な空気に包まれていた。3年生たちは引退試合を終え、部室のロッカーを片付け、静かに去っていった。新チームへの移行は決まっていたが、誰もがまだ「夏の敗北」を引きずっていた。朝練のランニング。いつもなら球太が一番前に出て、声を張り上げて仲間を引っ張っていた。だが今日は違う。球太は集団の後ろの方で、足取りが重く、息も荒い。汗は流れているのに、目は虚ろだ。「早乙女! 遅いぞ! 気合い入れろ!」コーチの声が飛ぶ。球太は小さく「はい」と返事したが、声に力がなかった。ランニングが終わると、すぐにグラウンドの隅に座り込み、水筒を握ったまま動かない。伊藤翔が近づいてきた。「球太……大丈夫か?」球太は地面を見つめたまま、ぼそっと言った。「大丈夫じゃ……ねえよ」翔は隣に座り、膝を抱えた。「俺も悔しいよ。準決勝のあの7回……俺がセンターでジャンプしたけど、届かなかった。あのホームランも、俺の守備範囲だったら……」球太は首を振った。「違う。お前のせいじゃねえ。俺だ。俺が7回で打ち込まれて、流れを崩した。涼の肩を、無理に投げさせて……結局、抑えきれなかった」翔は黙って聞いた。球太の声が震えた。「初めてだよ……こんなに、完璧に負けたの。甲子園、すぐそこだったのに。俺の球が……通用しなかった」涼が遠くから歩いてくる。右肩にテーピングを巻き、軽くストレッチをしながら近づいてきた。「早乙女」球太は顔を上げたが、目を合わせられなかった。涼は球太の隣にしゃがみ、静かに言った。「肩の検査、昨日行ってきた。軽い炎症。安静にすれば、秋には投げられる」球太は小さく頷いた。「……よかったな」涼は球太の肩を軽く叩いた。
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