果たされない挙式駿河蓮(するが れん)の部屋を片付けていた時、私・秋野遥(あきの はるか)はうっかり彼の母の遺品を落としてしまった。
最も大切にしているものだと彼が常々言っている。
拾い上げると、中から何百通ものラブレターがこぼれ落ちた。
恋を詠んだ和歌、ポップスの甘い歌詞、そして心のこもった直筆の告白――様々な形で愛の言葉が綴られている。
毎週一通、決して途切れることなく書き続けられてきた。
そしてどの手紙の末尾にも、見覚えのある愛称が記されている。
【最愛のうさぎちゃんへ】
思い出した。彼が後輩のLINE名をうさぎちゃんにしている。
それを見た瞬間、はっと全てを悟った。
十三年間、苦労を厭わず彼の家業を支え、祖父の世話もしてきたのに、一度も「好き」と言われなかった理由は、本当に愛している人がいるからなのだ。
私は日付順に手紙を整理し、元の場所に戻した。
そして携帯を取り出して母に電話した。
「お母さん……お見合いの話、受け入れる決心をした」