街を濡らす雨に、叶わぬ想いを葬って私と川島幸治(かわしま こうじ)は幼なじみで、大人になると両家の間で婚約が決まった。
あの日から、私はずっと結婚の日を指折り数えて待っていた。
けれど幸治は、それを不公平だと言った。
「他のやつらは一生のうちに何度も恋愛するのに、なんで俺だけ生まれてから死ぬまでお前一人じゃなきゃいけないんだ。
お前も何人かと付き合ってみろよ。損するな」
彼は言ったことを、本当にそのままやった。
婚約してから、たった一年の間に、幸治は七人も恋人を替えた。
相手が替わるたび、私は笑って平気だと言った。どうせ最後には、彼は私のもとに戻ってくるのだからと。
でも、八人目の恋人を川島家のパーティーに連れてきたとき、すべてが終わった。
その女は彼の腕にしがみつきながら、「幸くん」と甘えた声で呼んでいた。
私は箸を置き、両家の親族が見ている前で、婚約書をテーブルの真ん中へ押し出した。
「幸治、あなたの言うとおりね。一途でいるなんて、たしかに損だわ」
そのあと私は、大倉家の一人息子の手を取り、もう一度、彼の前に立った。
幸治はその場でグラスを叩きつけ、生まれて初めて目を赤くした。
「藤屋蛍(ふじや ほたる)、お前、どういうつもりだ?!」
私は笑って言った。
「私にも他の人と付き合ってって言ったんでしょう?試してみたわ。思ったより、ずっとしっくりきたの」