小説と映画の大きな違いは、ケアリー先生の描かれ方にある。原作ではもっと複雑な人物像だが、映画では善悪が明確になっている。また小説では暗示的にしか語られないクローンたちの「可能性」について、映画ではより具体的な形で提示されている。アンドレ・3000の『Never Let Me Go』が劇中で使われたのは、原作愛好者としては意外だが、効果的な音楽選びだったと思う。
カズオ・イシグロの小説'わたしを離さないで'は実話ベースではありませんが、臓器提供をめぐる倫理問題にインスパイアされた部分があります。
1990年代に中国で摘出臓器の商業利用が社会問題化した時期、イシグロは「人間の尊厳とは何か」という問いを深く考えたそうです。特に記憶に残るのは、臓器移植待機リストの裏側にある生きたドナー問題。小説の克隆人間たちは、この現実の闇を寓話的に表現しています。
作中でキャシーが歌う'Never Let Me Go'のシーンは、作者が養護施設で見た音楽療法の情景が元になっているとインタビューで語られています。あの切ない旋律には、保護されるべき存在がシステムに消費される現実への警鐘が込められている気がします。