로그인「愛しているのは君じゃない」 冷たい瞳で、冷たい顔で、冷たい声ではっきりと私に向かってそう告げたのは、将来結婚すると思っていた、私の婚約者である御影 直寛(みかげ なおひろ)。 彼は、お祖父様からの命令で私との交際、婚約に嫌々応じたのだ。 けれど彼の心の中にはずっと初恋の人、速水涼子(はやみ りょうこ)がいた。 それでも、私はいつか直寛が私自身を見てくれると思っていた。 けど、彼からはいつも冷たい態度を取られるばかり…。 そんな日々を送っていた時、彼は私とパーティーに参加していたのに私を置き去りに、涼子の元へ走った。 絶望した私は、お酒を飲み、気づいたら見知らぬ男性と朝を迎えてしまった。 慌てて逃げた私だったけど、その男性がまさか小鳥遊グループの息子だったとは夢にも思わなかった。 その後。 直寛は自分の過ちに気づき、私に許しを乞う。 けれど、私はもう直寛への気持ちは捨て去った。 土下座されても。 愛を伝えられても。 もう私は直寛よりも愛しい人ができたから、あなたはもういらない。
더 보기「きゃあああ!助けてぇぇぇぇ!」 女性スタッフは大声を出すと、俺の方をちらりと見てから庭園から店に通じる入口に走って行った。 「──っ、」 久しぶりにやられた、と俺は自分の行動の甘さに舌打ちをした。 こんな古典的な手にやられ、罠に嵌るなんて。 あの女性スタッフはきっと俺に襲われた、と騒ぐだろう。 そして、足柄店長や茉莉花、他のスタッフを連れてここにやってくるはず。 だけど──。 「……動けそうも、ないな……」 俺は首を上げて自分の背中を見る。 じくじくとした痛みに、背中が濡れた感触がする。 多分──石畳で背中を切っている。 「下手に動かない方が良さそうだ」 俺は、彼女に突撃されて石畳に背中を強かに打ち付けた。 その時の痛みが今も尚、引かないのだ。 そして多分背中も切っていて、出血もしている。 「……頭を打たなかったのが幸いだな」 俺がまた頭を打ったら。 意識を失った俺を見たら、また茉莉花が傷付く。 記憶を失った俺に冷たくされた事を思い出して、胸を痛めるはずだ。 もう、そんな思いを茉莉花にして欲しくない。 「……それにしても、あの女性スタッフの態度……おかしかった。……必死過ぎる」 切羽詰まったようにも見えた。 何か、追い詰められているような──、そんな必死さを感じた。 「とりあえず、俺がこんな状態だと警察が呼ばれるはず……」 そうじゃなくても、女性スタッフに対する暴行未遂で通報をする流れになるだろう。 だけど、俺がこんな状況だ。 すぐに逮捕されると言う事は無い。 俺が痛みに耐えつつそんな事を考えていると、バタバタとこちらに向かってくる複数の足音が聞こえて来た──。 ◇ 「たっ、助けてぇ……っ!助けてくださいっ!」 バタバタ!と慌ただしく店内に駆け込んで来た女性スタッフの剣幕に、私や足柄店長、それに他のスタッフは呆気に取られる。 だが、その女性スタッフの姿を見て私は咄嗟に近場にあった上着を女性に被せた。 「何があったの?どうして、そんな格好に……」 彼女は確か、苓さんを案内していたはず──。 私がそう考えていると、女性スタッフはちらりと私を見てから気まずそうに視線を逸らした。 「……その、実は、小鳥遊部長に無理強いをされそうに……」 「な、何だって……!?」 足柄店長がぎょっとして悲鳴のよ
「──あっ、あのっ、小鳥遊さん……っ!」 「……何か?」 また、この目だ。 媚びるような女性の目に、俺は嫌悪感を抱く。 ぞわぞわと腹を這い上がってくるような不快感。 俺の目の前にいる女性スタッフからの視線や態度は、今まで何度も経験してきた「財閥の息子」に対するへつらいや色仕掛けと一致する。 俺を濡れた目で見つめ、触れようと手を伸ばしてくる女性スタッフから、一歩後ずさり距離を取る。 オープンしている時ならまだしも、オープン前の今、この場所には恐らく俺と女性スタッフしかいない。 こんな場所で、万が一女性が騒ぎ出したら──。 圧倒的に不利なのは、男である俺だ。 「──店に戻ります」 「あっ、ま、待ってください……っ!」 俺は踵を返し、急いで店の方向へ歩き出す。 駆け出そうとした時、女性スタッフが俺の背中に突進してきた。 どん!と強い衝撃に、バランスを崩してしまう。 「──ぐっ」 「お、お願いしますっ!私を助けると思って……っ、少しだけ、少しだけ触ってくれればいいんですっ!それで、この場面をあの女に見せて……っ傷つけなきゃっ、そうしなくちゃっ」 「は!?何を──」 女性スタッフは突然叫び出すと、女性とは信じられない程の力でそのまま地面に俺を押し倒した。 「ぅぐ……っ!?」 硬い石畳に背中を強かに打ち付け、呼吸が詰まる。 痛みに頭が真っ白になっている間に、女性スタッフは俺の上に乗り上げてきて、ごそごそと何やら動いているようだった。 「こ、これならっ、す、すみません小鳥遊さんっ!だ、だけどあなたが私を1回も見てくれず、あの女ばっかり見るから!」 「──っ、」 「た、小鳥遊さんに一目惚れしたの!あなたみたいな人と付き合えたら……!あなたみたいに素敵な人に1回だけでも……っ!」 女性スタッフの震える手が、俺が着ていたワイシャツのボタンにかかる。 茉莉花以外の女に触られている。 それがどうしようもなく気持ち悪くて気持ち悪くて、吐き気が込み上げてくる。 「──ぅっ、」 「えっ、え?きゃっ」 俺が気持ち悪さに顔を顰めると、女性スタッフは察したのだろう。 急いで俺の上から立ち上がった。 そして、一拍遅れて顔を真っ赤に染めた。 「な、なんっ、失礼な人……っ!私に触られるのが気持ち悪いって言うの!?」 「──ごほっ、げほっ
「次は庭園の方をご案内しますね、足元お気を付けください」 「ありがとうございます、足柄店長」 私たちは足柄店長の案内のもと、設置されたスロープを確認していく。 これなら、車椅子のお客様や足が不自由なお客様、年配のお客様も安心して利用出来るだろう。 「後は、小川に掛かる橋と、東屋の方ですね」 「足柄店長……!」 足柄店長が私たちに説明をしてくれている時。 彼の説明を遮るように女性の声がその場に響いた。 声の方に私たちが顔を向けると、こちらに向かってやってくる女性スタッフの姿が見える。 その女性スタッフは、先日苓さんに向かって倒れ込み、私にドリンクをかけてしまった例の女性だった。 その女性は、私の顔を見ると気まずそうにさっと視線を逸らし、足柄店長に足早に近づく。 そうして、小さな声で何かを報告すると、足柄店長は「本当か!?」と顔色を変えた。 そして、慌てたように私と苓さんに顔を向けると、申し訳なさそうに頭を下げた。 「申し訳ございません、藤堂本部長。少しだけお時間よろしいでしょうか?本社との連携に、問題があったようで……」 「本当ですか?分かりました、確認しましょう」 「申し訳ございません。小鳥遊部長、東屋と小川の橋は、その女性スタッフに案内してもらってください!」 足柄店長はぺこぺこと頭を下げる。 私は苓さんに振り向く。 何だか、不安が拭えない──。 これが、別の女性スタッフだったり、他の男性スタッフだったりしたら良かったのだけど──。 そんな私の不安を苓さんはすぐに理解してくれたのだろう。 苓さんは私に1歩近づくと、私を安心させるように微笑んだ。 「残りのスロープは、俺が確認しておきます。確認はすぐに終わるので、本部長をすぐに追いかけますよ」 「……分かりました、小鳥遊部長。最後の確認、お願いしますね」 「ええ、任せてください」 にこり、と笑顔で私を見送ってくれる苓さん。 不安は拭えない。 だけど、本社との連絡ミスでもあったのだろう。 足柄店長が待っているから私はそちらに行かないといけない。 私と苓さんは軽く頷きあってから別れた。 ◇ 茉莉花さんを見送った後、俺は女性スタッフが案内してくれるまま、小川にかかった橋と東屋がある方へ向かう。 女性スタッフとは一定距離を保つ。 この間のような事がまた起き
◇ 「ほ、本部長なんて呼ばれている凄い人に対して、できっこないです……!」 「だけど、あなた報酬はしっかりもらったじゃない?どうしてやってくれなかったの?転んだ振りをして、ナイフでも、フォークでも、あの女に突き刺してやれば良かったの」 「そ、そんな事……!わっ、私はただちょっと嫌がらせをして欲しいって言われていたから……っ!」 「使えない女ね。……じゃあ、もう用済みだから消えてくんない?」 藤堂グループと、小鳥遊建設が協力し、作り上げた和風庭園カフェ。 その記念すべき1号店の店舗影で、2人の女性が会話をしていた。 先日、茉莉花と苓が1号店の視察にやって来た時。 女性スタッフが転倒しそうになって茉莉花にドリンクを浴びせてしまった。 その当人の女性スタッフが、まるで追い詰められるかのように壁際に居た。 そして、その女性を詰問するように壁に追い詰めていたのは、速水 涼子。 彼女は怒りを隠しきれない様子で、無理だと喚く女性スタッフを冷たい目で見つめていた。 「最っ悪。カードの利用も制限がかかっちゃったし……いよいよ後がないってのに……どうしてくれんのよ」 「そ、そんな事、私に言われても……」 「あんたがあの女に一生消えない傷でも付けてくれれば良かったのに」 フォークで腕や腹などを突き刺してやれば良かったのだ。 「……それとも、お綺麗な顔?あの顔で……直寛をたらし込んだんだから、あの顔を傷付けてやれば良かったのよ……っ」 「──っ?」 何を言っているのか、分からない。 そんな表情を浮かべる女性スタッフに、涼子は腕を振り上げた。 次の瞬間、周囲に肌を打つような乾いた音が響く。 「もう1度、オープン前に本社からあの女──藤堂本部長が視察にやってくるわ。次こそ成功させて。いいわね?体に傷を付けなくてもいいわ。精神的に傷付けるのでも良い」 「だっ、だけど──」 「報酬分はしっかり仕事をして。じゃないと警察に通報するから」 涼子は冷たくそう言い放つと、もう用は無いとばかりにその場から踵を返す。 その場にぽつりと残された女性スタッフは、恐怖に震え、真っ青になりながら「どうしよう、どうしよう」と呟き続けた。 ◇ 和風庭園カフェ、プレオープンの前日。 その日は、翌日のプレオープンに向けて私と苓さんが最終確認のために店舗に訪れていた。
ミーティングに参加してくれていたチームの皆が資料を食い入るように見てくれていたけど、その中でも志木チーム長と、矢田主任は熟読しているようで、私の説明が終わった後も、書類にじっと視線を落としていた。 「矢田主任に、代替案のメリット、デメリットの取りまとめをお願いしてもいい?皆の意見を纏めて欲しいの。市場調査データの修正と、施策の強化については、また皆で意見を出し合い、纏めましょう?」 私がそう言葉に出すと、資料に落としていた視線を上げた矢田主任とぱちり、と目が合う。 何だか、矢田主任の目がとても輝いているように見えた。 「かしこまりました、本部長!今日中に纏め、明日には提出い
御影ホールディングス。 以前、兄の会社に協力依頼があった。 俺の兄──一番上の、長男が代表取締役の小鳥遊建設で、部長として働いている俺は、以前も御影ホールディングスに見積もりのために訪れていた。 御影ホールディングスの求める額ではうちの小鳥遊建設は、到底仕事を請け負う事が出来ない。 だから仕事を断ったのだが、再度見積もり提出を頼まれ、見積もりを修正して再び来社した。 御影ホールディングスは、大きな企業で、御影家は昔から続く古い家
「えっと、その……」 「すみません……」 私は何と声をかければいいのか分からず、俯いてしまう。 苓さんは苓さんで、自分の顔を手で覆ったまま深くため息を吐き出した。 「茉莉花さん」 「は、はいっ」 苓さんが自分の顔から手をどかし、頬を染めたままこちらを見る。
◇ 温かくて、柔らかくて、ふわふわする──。 微睡みの中で、俺は目の前の柔らかな物に擦り寄った。 いつまでも触っていたくなるような、そんな感触。 何かが邪魔をしていて、俺は無意識のうちに手を動かした。 手のひらに吸い付くようなしっとりとした手触りが気持ちよくて、力を込めてしまう。 瞬間。 「──んぅ」 「……っ!?」 頭上
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