あなたの「愛してる」なんてもういらない

あなたの「愛してる」なんてもういらない

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「愛しているのは君じゃない」 冷たい瞳で、冷たい顔で、冷たい声ではっきりと私に向かってそう告げたのは、将来結婚すると思っていた、私の婚約者である御影 直寛(みかげ なおひろ)。 彼は、お祖父様からの命令で私との交際、婚約に嫌々応じたのだ。 けれど彼の心の中にはずっと初恋の人、速水涼子(はやみ りょうこ)がいた。 それでも、私はいつか直寛が私自身を見てくれると思っていた。 けど、彼からはいつも冷たい態度を取られるばかり…。 そんな日々を送っていた時、彼は私とパーティーに参加していたのに私を置き去りに、涼子の元へ走った。 絶望した私は、お酒を飲み、気づいたら見知らぬ男性と朝を迎えてしまった。 慌てて逃げた私だったけど、その男性がまさか小鳥遊グループの息子だったとは夢にも思わなかった。 その後。 直寛は自分の過ちに気づき、私に許しを乞う。 けれど、私はもう直寛への気持ちは捨て去った。 土下座されても。 愛を伝えられても。 もう私は直寛よりも愛しい人ができたから、あなたはもういらない。

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1화

1話

「勘違いしないでくれ、茉莉花お嬢さん。お付き合いするのは俺があなたを好きなんじゃなくて、祖父が言うから仕方なく交際をするだけだ」

「御影さん…」

「不用意な接触や無駄な会話はやめてくれ。必要最低限、会おう」

そう言うなり、御影さんは私の返事を聞く事なく背中を向けてさっさと去ってしまった。

御影直寛(みかげ なおひろ)。

御影ホールディングスの専務取締役で、まだ26歳にも関わらず、傾き始めた御影ホールディングスの経営を立て直し、その功績を認められてつい最近専務取締役に就任した。

私、藤堂 茉莉花(とうどう まつり)は中学校の頃から彼が好きで、ずっと彼の後を追っていた。

彼の1学年下だった私は、学校内で彼を追っている内に、彼の隣にいつも一緒にいる女の子がいる事に気づいた。

それが、速水涼子(はやみ りょうこ) だ。

御影直寛の2つ下で、私の1つ下の学年の涼子は、彼の幼馴染だった。

小・中学校は同じ敷地内にあったため、彼はいつも涼子と一緒に行動していたし、登下校も欠かさず彼女と一緒だった。

でも、それでも良かった。

たまに、御影さんから笑顔を向けられたり、少しだけ会話をできたりするのがとても嬉しかったから。

少しでも、私を知ってもらって、御影さんに近づけたら。

少しでも好意を抱いてもらえたら。

そう思っていたけど、御影さんの中での最優先は変わらず涼子だった。

その事実に打ちのめされて、枕を涙で濡らした日々はどれほどあっただろう。

いつか、彼の心を射止める事ができたら。

そう思っていたのに──。

私は、御影ホールディングスの専務専用フロアで、ぽつりと廊下に残されたまま、立ち尽くしていた。

手には御影さんのために作ったお弁当が入った袋が所在なさげに残されたまま。

「御影さん…」

せめて、せめてお弁当だけでも受け取ってもらえたら、と思って彼の後を追う。

あれだけの事を言われて、辛くない訳じゃない。

今すぐ帰ってくれ、と言う彼の気持ちが伝わっていない訳でもない。

けど。

彼は今、数日間の体調不良から復帰した直後だ。

体に良い物を、消化にいい物を用意してきたお弁当。

だから、それだけを渡してすぐに会社を出よう、と思い専務取締役の部屋に向かった私は、扉をノックする寸前に、中から聞こえてきた声に手をピタリと止めた。

「直寛、体調はもう大丈夫なの?だから言ったのに…。シャワーを浴びたらすぐにバスローブを羽織らないからよ」

「涼子…君なぁ…。そもそもバスローブをすぐに脱ぐ羽目になったのは君が原因だろ?」

「ふふふっ、ごめんなさい。だって、直寛の体って凄く綺麗なんだもの。眺めていたいじゃない?」

「分かったから…今は仕事中だ。膝から降りてくれ」

「はいはい、分かったわ。大人しくソファに座ってます!」

室内から、楽しげな会話が聞こえてくる。

私は、ノックしようとしていた手を下ろし、そのまま踵を返して廊下を戻って行く。

私が、会社に来た時よりも前に、涼子は御影さんの部屋に入っていたんだ。

そして、彼が体調を崩した理由も、涼子にあったなんて──。

「なんか、馬鹿みたいね、私…」

ぽろりと廊下に落ちた雫に私は気づかない振りをして、会社を後にした。

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aoi
aoi
初めは茉莉花と苓さんのラブラブにほっこりしてたのに、苓さんの事故から余りにも悲しい展開が長々と続いてて悲しすぎる。事件に巻き込まれて2人で立ち向かうと思ってたのに、何でこんな話になるの? 今のまま続くならもう離脱でいいかな…好きな小説だったのに残念。
2026-05-02 23:12:46
5
0
aoi
aoi
最初はドロドロ感も少なくて更新を楽しみにしてたけど、苓さんの事があってから読むのが辛くて離脱しそう。早く2人のラブラブを戻して欲しい。
2026-04-26 10:37:52
5
0
Mバーバラ
Mバーバラ
話がサクサク進み、変にドロドロしていないし、 同じようなパターンでダラダラと続くこともなく とても読みやすく、長さももう少し読みたい! と思わせる位で、楽しく読めます
2025-11-27 23:19:05
16
0
ヤンヤン
ヤンヤン
このお話は、結構好きです!
2025-11-09 19:58:03
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Masako Fujii
Masako Fujii
イヤな婚約者と早々に離れ、新たな出会いに戸惑っている、穏やかなお嬢様。今は心穏やかに読めてて、これからも楽しみにしてます。
2025-11-05 04:05:27
13
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419 챕터
1話
「勘違いしないでくれ、茉莉花お嬢さん。お付き合いするのは俺があなたを好きなんじゃなくて、祖父が言うから仕方なく交際をするだけだ」「御影さん…」「不用意な接触や無駄な会話はやめてくれ。必要最低限、会おう」そう言うなり、御影さんは私の返事を聞く事なく背中を向けてさっさと去ってしまった。御影直寛(みかげ なおひろ)。御影ホールディングスの専務取締役で、まだ26歳にも関わらず、傾き始めた御影ホールディングスの経営を立て直し、その功績を認められてつい最近専務取締役に就任した。私、藤堂 茉莉花(とうどう まつり)は中学校の頃から彼が好きで、ずっと彼の後を追っていた。彼の1学年下だった私は、学校内で彼を追っている内に、彼の隣にいつも一緒にいる女の子がいる事に気づいた。それが、速水涼子(はやみ りょうこ) だ。御影直寛の2つ下で、私の1つ下の学年の涼子は、彼の幼馴染だった。小・中学校は同じ敷地内にあったため、彼はいつも涼子と一緒に行動していたし、登下校も欠かさず彼女と一緒だった。でも、それでも良かった。たまに、御影さんから笑顔を向けられたり、少しだけ会話をできたりするのがとても嬉しかったから。少しでも、私を知ってもらって、御影さんに近づけたら。少しでも好意を抱いてもらえたら。そう思っていたけど、御影さんの中での最優先は変わらず涼子だった。その事実に打ちのめされて、枕を涙で濡らした日々はどれほどあっただろう。いつか、彼の心を射止める事ができたら。そう思っていたのに──。◇私は、御影ホールディングスの専務専用フロアで、ぽつりと廊下に残されたまま、立ち尽くしていた。手には御影さんのために作ったお弁当が入った袋が所在なさげに残されたまま。「御影さん…」せめて、せめてお弁当だけでも受け取ってもらえたら、と思って彼の後を追う。あれだけの事を言われて、辛くない訳じゃない。今すぐ帰ってくれ、と言う彼の気持ちが伝わっていない訳でもない。けど。彼は今、数日間の体調不良から復帰した直後だ。体に良い物を、消化にいい物を用意してきたお弁当。だから、それだけを渡してすぐに会社を出よう、と思い専務取締役の部屋に向かった私は、扉をノックする寸前に、中から聞こえてきた声に手をピタリと止めた。「直寛、体調はもう大丈夫なの
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2話
とぼとぼ、と歩く。会社から出て、車を停めている駐車場に向かっている私は、俯きながら歩いていた。しっかり前を見ないまま歩いていたせいだろうか。駐車場の角から人が出てきて、その人と私はぶつかってしまった。「──っ!」「すみません!」ガシャン!と私の手の中にあったお弁当を入れていた袋が落ちる。私にぶつかってしまった人は、男性のようで。ふらついてしまった私を咄嗟に支えてくれて、すぐに地面に落ちてしまった袋を拾ってくれた。袋に伸びる、白くて筋張った手が視界に入る。袋を拾ってくれる動作が凄くゆっくりに見えるほど、私は呆然としてしまったいたようで。「あの…?大丈夫ですか?」男性が袋を差し出してくれながら、声をかけてくれる。その声にはっとした私は、慌てて男性から袋を受け取り、頭を下げてお礼を告げて逃げるように男性から離れた。「す、すみませんでした…!」ぶつかってしまった事も、落としてしまったお弁当を拾わせてしまった事も申し訳なくって、私は男性の顔を見る事なくそそくさと車に逃げてしまった。バタン、と車のドアを閉めて、顔を上げて前を向くと、ぶつかってしまった男性であろう人物の後ろ姿が見えた。背筋を伸ばし、真っ直ぐ凛と前を向いて歩いて行く後ろ姿が、何故か御影さんと重なった。御影さんより、男性の方が若干背が高いように見えるけれど、私は男性の後ろ姿を見て御影さんを思い出し、先程の彼の会社の専務室から聞こえた会話を思い出して辛くなってしまう。「御影さん…凄く楽しそうで…優しい声で話してた…」私には、あんなに優しく、穏やかな声で話してくれた事は、ほとんど無い。まだ学生だった頃は、今よりは多少優しかったけれど、御影さんが涼子と会った後で機嫌が良い時に優しく接してもらった事が数回あるだけ。「御影さん…」ハンドルに額を押し付け、小さく彼の名前を呟く。せっかく、彼の会社に来たのに。私は冷たく言われ、会社を出てきた。私とは違い、涼子は御影さんの会社で、彼の仕事をする部屋で、一緒に過ごしている。しかも、あんなに親しげに。私は、暫くの時間車内で声を殺して泣いてから、自宅に戻った。◇御影さんのご実家、御影ホールディングスと私の実家である藤堂家は、昔から交流があった。お互いの祖父が、旧友だったらしく幼い頃から御影家に足を運んで
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3話
そんな頃だった。御影さんの家、御影ホールディングスに勤めていた役員が、不正を犯していた。資金洗浄による犯罪行為が発覚した。瞬く間に御影ホールディングスは一気に株価が下落。一時、かなり危うい事になったらしいのだが、その時に手を差し伸べたのが私のお祖父さんだったらしい。その時の恩があるからか。私と御影さんの年頃が合うからか。御影家の祖父がふと私の事を口にした。その頃の私は、御影さんの事が好きだったし、祖父から御影さんの事を聞かれた時に、好印象である事は伝えた。だから、大学を卒業した時。まさか私と御影さんを呼び出して、婚約の話をするとは思わなかった。恩があるから、と御影さんは嫌々ながら、渋々ではあるけれど自分の祖父の話に頷いた。けれど、大学を卒業してから3年。この3年間、私と御影さんは距離が縮まる事などなく、むしろこの3年間でどんどん御影さんから距離を置かれているような気がする。3年前に言われた言葉は、今でも私の頭にしっかり鮮明に残っている。あれほど冷たく、感情の籠っていない表情の御影さんは初めて見た。怖くて、はっきりと「敵視」されてしまったのは初めてで。私は御影さんの言葉に頷くしかなかったのだ。◇自宅マンションに帰ってきた私は、駐車場に車を停め、エレベーターで階を上がる。将来、御影さんと結婚するのだから、と祖父からプレゼントされたこのマンションの一室は、御影さんの住むマンションと一緒だ。エントランスにはコンシェルジュもいて、警備員も常駐している。マンションの地下にはスーパーも入っていて、とても住みやすいいい場所だ。けれど、私は御影さんの部屋に入った事はない。御影さんは、私が自分と同じマンションに住んでいる事が嫌なのだ。同じフロアに住んでいるため、時折御影さんと会うのだが、とても嫌そうに顔を顰める。そして、私と頻繁に顔を合わせるのが嫌な御影さんは、別のマンションの一室を購入し、最近はそちらの方を良く利用している。「このフロア…、戸数が少ないから、人がいなくて寂しい…」エレベーターから降りて、私は御影さんの住む部屋がある方向へ顔を向ける。私が住む部屋は、御影さんの部屋とは反対側にある。時折、友人を招いているのは見た事がある。けれど、涼子の姿をこのマンションでは見た事がない。
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4話
「虎おじさま!」「茉莉花ちゃん、大きくなったね。美人になった!」駆け寄った勢いそのままに、私は虎おじさまに抱きつく。虎おじさまは危なげなく私を抱きとめると、嬉しそうに目尻を下げて私の頭を撫でてくれるのだが、撫でてくれる行為も、虎おじさまの言葉も、私が子供の頃から変わらなくて。私は頬を膨らませて虎おじさまに返す。「虎おじさま。私はもう25です。子供じゃないのですよ」「ははは、立派なレディーになったね。失礼した」「ふふふっ、許してあげます」虎おじさまは、昔と変わらない優しい目で私を見つめる。虎おじさま。田村琥虎(たむら ことら)はお父様の大学の後輩で、昔から仲良くしてもらっている。いくつも会社を経営していて、普段は海外に在住しているのだが、こうしてたまに帰国した際にお父様に挨拶をしに来て、私とも会ってくれる。「虎おじさま。今回の滞在はどれくらいの期間なのですか?今日は本家に泊まります?それとも、家に?」私が矢継ぎ早に質問していると、お父様が苦笑しつつ「落ち着きなさい」と話す。「琥虎は、本家には戻らない。今回の帰国は事業に関してだから、そんなに長くは滞在しないんだ」「まぁ…そうでしたの?残念です…。本日のお夕食はもう決まっていますか?」仕事で帰国したのならば、贅沢は言えない。せめて、食事を1度でもできたら、と思い私が虎おじさまにそう聞くと、虎おじさまは深く頷いてから答えた。「今回は、茉莉花ちゃんの家で食事をとる時間はないんだが…。仕事関係でパーティーを開くんだ」「パーティー、ですか?」「ああ。政界の人間や、業界の人を呼んでいる。少し広い会場だし、招待客が多くて…あまり話す機会は取れないかもしれないんだが…茉莉花ちゃんが良ければ、パーティーに招待してもいいかな?」「!勿論です!お招きありがとうございます!」虎おじさまの言葉に、私はぱっと表情を明るくする。きっと、虎おじさまはお父様にパーティーの事を話しに来たのだろう。それを裏付けるように、虎おじさまはスーツの内ポケットから招待状が入った封筒を2枚取り出した。1枚は私に。そうして、もう1枚はお父様に渡すのだろう、と考えていたのだけど、何故か虎おじさまは招待状を2枚とも私に手渡してきた。「え?お父様は…」私の疑問はすぐに分かったのだろう。
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5話
それからの私は、虎おじさまのパーティーに参加する準備にバタバタとしていた。いつもだったら毎日のように御影さんの会社にお弁当を届けていたけれど、先日御影さんの会社には涼子がいた。またあの時のような会話を聞く事も辛いし、と御影さんの会社に行く事はせず、ドレスの新調やアクセサリーの手配に追われていた。「あ…でも、一応…念の為に御影さんにお伝えだけはしておこう。もしかしたら、御影さんもパーティーに用があるかもしれないし」でも、きっと断られてしまうだろう。半ば諦め半分ではあるけれど、私は御影さんに連絡をする。今まで、電話をしても御影さんは殆ど出てくれた事はない。だから、必要な事だけを簡潔に記載して、メールを送る。そうすれば、御影さんも手が空いた時に確認はしてくれるだろう。だから私はパパっとメールを打ち、御影さんに送信した。◇〜♪直寛のスマホが、メールの着信を知らせる。専務室のソファに座っていた涼子は、ソファから立ち上がるとトトト、と軽い足取りで直寛へ近づいた。「直寛。仕事の連絡?」「…どうだろうな」涼子にちら、と視線を向けた直寛はスマホに届いたメールを開く。私用スマホの連絡先を教えている人物はそこまで多くない。(涼子は、ここにいる…。なら、茉莉花お嬢さんか?そう言えば、今日は会社に来ていないな)頼んでもいないのに、茉莉花は毎日弁当を作り直寛のために届けていた。(俺自身は絶対に口にしないのに…よく届けるものだと思っていたが、ようやく弁当が捨てられていると気づいてやめたのか?もしかして、それで祖父に泣きつきでもしたのか?)昔は、そんな女じゃなかったのに、と直寛は茉莉花の事を思い出し、不快そうに眉を寄せる。そして、メールの差出人に「藤堂 茉莉花」という文字を見つけて直寛はふん、と鼻を鳴らす。(やはり、祖父に泣きついたのか?文句でも言いたくて連絡を寄越したのか)見る価値などないか、と直寛は一瞬スマホを閉じてしまおうとしたが、他の連絡だったら、と思い直し茉莉花からのメールを開く。茉莉花からのメールの内容は、酷く簡潔。必要事項だけが書かれた内容に、直寛は僅かに片眉を上げた。「直寛?どうしたの?」涼子が甘い声を上げ、直寛の首に手を回して体を擦り寄せる。膝に乗ってきた涼子を慣れた様子で支えた直寛は、そのまま顔
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6話
「どうぞ…」 「ああ、すまない。ありがとう」 未だに信じられない。 御影さんが、私の家にいて、ソファに座っている。 そして私が用意したカップで紅茶を飲んでいる姿。 これは本当に現実なのだろうか、と思いつつ、私は虎おじさまに頂いた明日のパーティーの招待状を持ってくる。 招待状を御影さんの目の前に置き、私も向かい側のソファに腰を下ろした。 「招待状です」 「これが、明日の……」 パーティーの招待状を手にした御影さんの表情が僅かに明るくなる。 御影さんは招待状を開封し、パーティー会場の場所や開始時間を確認し、私に顔を向けた。 「茉莉花お嬢さんは、何時に行く予定だ?」 「私は、開始時間に間に合うよう行く予定です」 「──そうか」 御影さんは考えるように自分の口元に握った拳を当て、「分かった」と呟いた。 「開始は16時だな。なら、俺も間に合うように向かう。パーティードレスで運転はできないだろう?車で迎えに行くから家で待っていてくれ」 「え──」 まさか、御影さんが迎えに来てくれるとは思っていなかった。 だから明日は、1人で会場に行こうとしていたのだけど、私のパートナーとして御影さんはしっかり自分の役目を全うしてくれるつもりなのだろう。 けど──。 「ごめんなさい、御影さん。明日は一緒に行けません」 「…なぜ?」 まさか私に断られるとは思わなかったのだろう。 内ポケットに招待状をしまっていた御影さんが意外そうに私に顔を向けた。 明日、私は虎おじさまへ渡すプレゼントを買いに行く予定だった。 プレゼントを購入して、その足で美容室に向かい、お店でドレスに着替えて直接会場に向かう。 そのように段取りを組んでいたため、私が御影さんにそう説明する。 せっかく御影さんから気遣いをもらえたが、断るなんて失礼な奴だ、と思われてしまわないか、と言う私の不安を、御影さんはケロリと吹き飛ばした。 「田村さんへのプレゼントか…ならば、俺も一緒に選んだ方がいいだろう。ドレスはもう選んだのか?」 「え、あ…ドレスは、まだです…。いくつか、候補はあげてますが…」 「なら、丁度いい。明日は午前中に迎えに来る。そうだな…仕事を片付けて行くから11時でどうだ?プレゼントを選び終えたら、そのまま
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7話
翌日。 今日は御影さんと一緒に虎おじさまから招待されたパーティーに参加する予定。 その前に、虎おじさまへのプレゼントを買いに行くのだけど……。 私は自分のスマホに目を落とし、何度も何度も確認する。 スマホには、御影さんからのメールが画面に映っている。 言葉少なに、簡潔な文章は御影さんの私に対する態度を表しているよう。 けれど、それでもいい。 「御影さんと、お買い物に……一緒にお昼もとれる……」 ふわふわ、と胸に温かさと嬉しさが込み上げる。 中学生の頃以来だろうか。 御影さんと一緒の時間を過ごすのは。 「だめ……御影さんは、お祖父様の言いつけを守ってるだけ。勘違いしちゃ駄目だわ……」 でも、と考えてしまう。 もし、御影さんと子供の頃のようにお話する事ができたら。 子供の頃のように、御影さんが笑ってくれたら。 どれ程、嬉しいだろう。 「もしかしたら、私が何か御影さんに失礼な事をしてしまったのかもしれないものね……」 子供の頃の事は、あまり鮮明に覚えていないけど。 きっと、私が何かしてしまい御影さんの気分を害してしまったのかもしれない。 そして、私はすぐに謝らなかったのだろう。 だから、礼儀正しい御影さんは怒って、そして疎遠になっていってしまったのかも。 「今日のお食事で、少しでも御影さんと昔のようにお話したい」 私は、時間になって到着を知らせる御影さんからの連絡に、急いで部屋を出た。 「お待たせしました」 マンションの地下駐車場。 私が駐車場に降りると、御影さんは既にマンション出入口で、待っていてくれていた。 車内の後部座席からちらり、と御影さんは私に視線を向け、窓を下げて「乗ってくれ」と口にする。 「あ、ありがとうございます」 私は御影さんにお礼を告げてから、彼が乗っている後部座席の反対側に回り、乗り込む。 車に詳しくはないけれど、いつも御影さんが乗っている私用の車ではない。 会社の社用車だろうか。 (そっか……私とパーティーに出席するのは、仕事……) 少しだけ、ちくりと胸が痛む。 けど、それもそうだ。 御影さんは、仕事で今回のパーティーに参加するのだ。
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8話
「田村さんへの贈り物は、何を?」 車に乗って、しばし。 車内で会話が弾む事もなく、お互い無言でいると御影さんから話しかけられた。 「虎おじさまは、オールドヴィンテージワインがお好きなので、良さそうな物を選び、贈ろうかと思っています」 「そうか……。ワインなら、良い店を知っている。そこに向かっていいか?」 「も、勿論です…!」 よろしくお願いします、と私が言うと御影さんは小さく頷いてくれて運転手に行き先を伝えてくれる。 百貨店に行こうと思っていたけれど、御影さんが一緒に買いに行って下さって良かった。 虎おじさまに素敵なプレゼントが贈れる。 私が頬を綻ばせている姿を、御影さんが横目でじっと見つめていた事など知らなかった。 御影さんと一緒に、都内のビンテージワイン専門店でワインを購入し、そのまま近くのレストランで昼食を摂る。 話す事は専ら今日のパーティーについてで、所謂世間話というものは一切しなかった。 時々、私が御影さんにパーティー以外の私生活の事を話そうとしても、その気配を察知した御影さんがそれとなく躱し、話題は自然にパーティーについてに戻ってしまう。 それでも、そんな中でも御影さんは食事を急かす事なく、私のペースに合わせ、ゆっくり食事をとってくれた。 優しい所は、昔から変わっていない。 変わってしまったのは、御影さんの私に対する態度だけ。 その理由を尋ねたかったけれど、難しそうで私は諦めてこのあとの予定をそつなくこなす事に集中した。 昼食が終わり、私は美容院へ。 そして、その後ドレスを購入しにお店に向かった。 美容院へも、御影さんは付き合ってくれて店内で雑誌を読みながら待っていてくれた。 退屈させてしまうから、と私は断ったけれど御影さんは店内まで一緒に来てくれて、その気遣いに泣きそうになってしまう。 美容院の店員達が御影さんを見て、色めき立ち、ざわざわと噂をしているのが良く分かる。 店員さんにも「素敵な彼ですね」と言われて、私は曖昧に笑って応えるしかできなかった。 美容院が終わり、ドレスを購入しにお店へ。 御影さんもそこでパーティー用のスーツを購入するらしく、2人でデザインを話し合いながら何着か試着をした。 御影さん
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9話
パーティー開始時間。 その時間ぴったりに着いた私たちは、招待状を見せて中に入る。 大きなホテルのホールを貸し切って開催されているパーティーは、沢山の招待客でホールが混雑していた。 「田村さんへの挨拶はまだ無理そうだな」 御影さんの声が隣から聞こえ、私はこくりと頷いた。 「──ええ。もう少し時間が経ってから虎おじさまの所に行きましょう」 「分かった。その間は、付き合いのある企業に挨拶に行く。隣で大人しくしていてくれ」 「分かり、ました……」 「余計な事はするな」と言われているようで、私は俯きつつ御影さんに答える。 言われなくても、御影さんのお仕事の邪魔になるような事はしないのに…。 釘を刺しておかないと、不安なのだろうか、と悲しくなってしまう。 そんな私達のうしろから、誰かが近づいてくる足音が聞こえ、声をかけられた。 「──おや、そこにいるのは……藤堂さんの所の娘さんでは?」 「……あ!」 「いやいや、お久しぶりですな。茉莉花お嬢様。琥虎さんのパーティーにお嬢様も参加されていたのですな」 「相戸さん。父がいつもお世話になっております」 顎髭をたっぷりと蓄え、大きなお腹を揺らしながら相戸さんが私に近づく。 相戸さんは、お父様の会社と取引のある会社の社長だ。 何度かお食事をご一緒した事はあるのだけど、この年代の男性にありがちな…少しセクハラめいた事を口にしたり、行動をなさるからほんの少し苦手だ。 けれど、お父様の関係者。 私はにっこりと笑みを浮かべ、相戸さんに挨拶を答える。 「いやはや、最後にお食事をご一緒したのは数年前でしたかな?お綺麗になりましたな」 「まあ…ありがとうございます」 じっとり、と熱を孕んだ目で舐めるように胸元から下半身を見られ、私は背筋に鳥肌を立てながらそれでも笑顔で返す。 失礼な事はできない、と私が思っていると、相戸さんはそこでようやく私の隣に立つ御影さんの姿に気がついて、伸ばしていた腕を引っ込めた。 「今日は、お父様がご一緒ではないのですな。…そちらの男性は?」 御影さんに胡乱気な視線を向ける相戸さんに、私は御影さんを紹介した。 「こちら、御影直寛さんです。私の婚約者です」 「御影です。どうぞお見知り置きを」 私の紹介に合わせ、御
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10話
御影さんと相戸さんの話がひと段落つき、相戸さんは手を上げて「それじゃあ、また」と言いつつそそくさと私たちから離れていった。 御影さんの手のひらが私の腰から離れようとした瞬間、今度は別の人から話しかけられる。 「藤堂会長の所のお嬢さんではないですか!お久しぶりですね」 「あっ、新海様──」 それからも。 代わる代わる私たちのもとに、人は訪れた。 その間、御影さんは私の「婚約者」として完璧過ぎるほど振舞ってくれた。 挨拶をしに来た人と談笑する時、御影さんは優しく私に微笑み、私の名前を口にする。 普段は「茉莉花お嬢さん」なのに、この場では御影さんは私の事を「茉莉花」と呼ぶ。 普段の御影さんの態度がまるで嘘のように。 まるで、今この瞬間が本当のように錯覚してしまいそうになる。 けれど、これは「仕事」だ。 私自身、自分にしっかりと言い聞かせる。 そう、言い聞かせないと変な勘違いをしてしまいそうで──。 その証拠に、私たちから人が離れると、途端に御影さんはすっと無表情に近い顔つきに戻り、私の腰から手を離す。 「……田村さんとは、まだ挨拶できそうにないか」 疲れきったような、ほのかに苛立ちを滲ませたような御影さんの低く、重い声が響く。 私は虎おじさまのいるであろう場所に視線を向けた。 虎おじさまは、まだ仕事関係の人と話が弾んでいるようで、あの中に入ってはいけない。 「まだ……難しそうです」 「──災難だ」 御影さんの口から出た言葉に、私はドキリと心臓が縮み上がる。 御影さんからしたら、私と仲睦まじい演技をするのはとんだ災難なのだろう──。 私はひっそりと唇を噛む。 御影さんに、どう言葉を返そうか──。 そう悩んでいる私の耳に、御影さんの私用スマホが鳴るのが聞こえた。 バイブにしていない事が珍しい。 私がそう思っていると、御影さんはスマホを取り出し、届いたメールを読んでいるようだった。 「──なっ」 御影さんの顔色がみるみるうちに悪くなり、眉間に皺が寄る。 怒ったような、悔しそうな、辛そうな──。 そんな、様々な感情を綯い交ぜにしたような表情を浮かべ、御影さんはパーティー会場の入口に顔を向けた。 そして、足を一歩踏み出した所で、ハッとして私に顔を戻す。
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