Mag-log in「愛しているのは君じゃない」 冷たい瞳で、冷たい顔で、冷たい声ではっきりと私に向かってそう告げたのは、将来結婚すると思っていた、私の婚約者である御影 直寛(みかげ なおひろ)。 彼は、お祖父様からの命令で私との交際、婚約に嫌々応じたのだ。 けれど彼の心の中にはずっと初恋の人、速水涼子(はやみ りょうこ)がいた。 それでも、私はいつか直寛が私自身を見てくれると思っていた。 けど、彼からはいつも冷たい態度を取られるばかり…。 そんな日々を送っていた時、彼は私とパーティーに参加していたのに私を置き去りに、涼子の元へ走った。 絶望した私は、お酒を飲み、気づいたら見知らぬ男性と朝を迎えてしまった。 慌てて逃げた私だったけど、その男性がまさか小鳥遊グループの息子だったとは夢にも思わなかった。 その後。 直寛は自分の過ちに気づき、私に許しを乞う。 けれど、私はもう直寛への気持ちは捨て去った。 土下座されても。 愛を伝えられても。 もう私は直寛よりも愛しい人ができたから、あなたはもういらない。
view more「──はっ」 御影は、自分の耳を疑った。 今のは、本当に涼子が口にした言葉なのか。 いつも可憐で、気弱そうな涼子の口から「雑魚」と言う言葉が聞こえた。 「ははっ」 まんまと騙されていたのだ。 御影は、ようやくそれに気づく。 今まで、長年涼子に騙され、茉莉花を憎み、あの極上の女を遠ざけてしまった。 「俺が、あんな女狐に……っ」 なんと愚かで、滑稽なのだろう。 だが──。 「使い道は、まだある。……暫くお前に騙されてやろうじゃないか」 御影は邪悪な笑みを浮かべ、冷徹な光を瞳に宿したまま、涼子に向かって歩き出した。 ◇◆◇ 「茉莉花さん、ある程度挨拶は終わりましたね」 周囲にいた人達の数も少なくなってきた頃。 苓さんが少し疲れた様子を見せつつ、私にそう話しかける。 「ええ、そうですね。……そろそろお暇しても、いい頃かもしれません」 「今日は茉莉花さんも疲れたでしょう?送りますよ」 「ふふ。苓さんはそう言ってくれると思ってました。お言葉に甘えても?」 「ええ、勿論」 にこり、と笑みを浮かべる苓さんに、私はそっと彼の腕に自分の腕を絡め、体を寄せる。 こうして、私たちの仲がいい所を周囲に目撃されれば。 私たちの婚約は、確固たるものになる。 お祖父様を騙し討ちするみたいで、少し心は痛むけれど──。 だけど、私は苓さん以外考えられない。 この人以上に、好きになれる人は、絶対に現れないかは。 私は、そっと苓さんの顔を見上げて話しかける。 「苓さん……」 「ん?どうしました、茉莉花さん」 「今日、苓さんが送ってくれた時。少し、家に寄ってくれませんか……?」 「茉莉花さんの家に?俺は、構いませんが……」 不思議そうにきょとりと目を瞬かせる苓さんに、私はずっと考えていた事を伝える。 「お父様は、まだ戻られていないけど……お祖父様は家に居ます……」 「──まさか」 ごくり、と苓さんの喉が動く。 私はこくり、と頷いて答えた。 「ええ、お祖父様に私たちの事を報告しましょう。……こうして、パーティーでも苓さんをパートナーとして紹介出来ましたし、もう隠したくないです」 堂々と、苓さんとお付き合いをしているって。 将来、彼と結婚したいんだって、お祖父様にお伝えしたい──。 私の気持ちが伝わったのだろう。 苓さんは僅か
手洗いで、涼子の傍を離れていた御影。 彼は廊下からフロアをちらりと見た。 すると、涼子に近づく男に気づく。 「あの男は……さっきの──」 ふと、好奇心が芽生える。 「茉莉花は、難無く対処していたな……涼子はどうやっていなすんだ?」 御影は、見てみたくなった。 子供の頃から、涼子が泣けば御影は守ってきた。 涼子が茉莉花に嫌がらせをされた、と言われれば慰め、茉莉花に冷たい態度を取った。 涼子が茉莉花に怪我をさせられた、と言われれば同じ事を茉莉花にやり返してやろうと思った。 だが、例えやり返したとしても。 茉莉花は藤堂家の一人娘だ。 御影家の力も大きいが、やはり藤堂に比べれば劣るし、茉莉花が涼子を消せ、と言ったら。 それは本当に実行されてしまう。 だからこそ、御影はじっと耐えた。 茉莉花が涼子に酷い事をしても。涼子を泣かせても。怪我を負わせても。 冷たい態度で茉莉花を遠ざけるだけにしていた。 「──だが、あの記者も、写真も結局は涼子が手配していたと分かった。それに、茉莉花は家柄など関係ない、とはっきりと言い切った」 あの目に、嘘は無い──。 様々な人と関わり、沢山の人と出会い、色々な人を見てきた。 「それなのに、俺はいつも涼子の言う言葉を鵜呑みにして……茉莉花自身を見ていなかった……」 あんなにも気高く、美しく、純粋な心を持っているとは思わなかった。 「そんな女が、姑息な手を使うはずが無い……」 茉莉花を思い出し、うっとりとしていた御影は、そこで先程の茉莉花の姿を思い出す。 茉莉花のドレスに隠れるか、隠れないかの際どい肌の部分。 そこに、くっきりと刻まれた、鬱血痕──。 しかも、いくつもそれは茉莉花の真っ白できめ細やかな肌にまるで花のように散らばっていた。 「小鳥遊、苓──」 茉莉花にあの痕を付けた男は、1人しかいない。 茉莉花の隣に当然のように立ち、柔らかそうな腰に我が物顔で腕を回していた。 「本来であれば、茉莉花の体も、心も、俺の物だったのに……」 柔らかな肌に手を這わすのも。 あのきめ細やかで、真っ白な肌に唇を寄せられるのも。 御影だけのはずだった。 それなのに。 「あの男……本当に邪魔だな」 小鳥遊苓をどうしてくれようか、と御影が悩んでいると、そんな事を考えている間に涼子とあの男がいつの間
◇ 「それにしても、小鳥遊部長、聞いておりますよ。あの契約が難しいと言われていた四国の会社と、小鳥遊部長が契約を結んだと!」 「ええ、運良く契約いただきました」 「運が良いなんて!これも小鳥遊社長が四国まで出向き、真摯に対応されたからでしょう。いやあ、あの頑固な社長と契約を結べるのは、あなたくらいでしょうなあ!」 はははっ!と笑う海堂社長。 海堂社長の言葉を聞いた先程の女性はえっと声を漏らした。 「えっ、え……小鳥遊部長……?小鳥遊って、あの大企業の……」 女性は、苓さんが小鳥遊グループの御曹司だと分かったのだろう。 そして、部長と言う事から小鳥遊建設の三男だと言う事も。 その証拠に、女性は顔を真っ青にしてふらふらと後退して行く。 そして、その彼女をご両親が慌てて自分達に引き寄せた。 「藤堂社長も将来娘さんのお相手がこのような素晴らしい男性だと言うのは鼻が高いですな!やはり素敵な女性には素敵な男性がパートナーとなるようだ!」 「ふふふ、ありがとうございます」 「茉莉花さんのような素敵な女性と出会えて、この先の運は全部使い果たしたような気分ですよ」 「ははは!仲の良さに焼かれてしまいそうだ。お二人を独占していると他の方々に睨まれてしまいそうだ。……私は、この辺で失礼しますよ藤堂さん。お父様にぜひよろしくお伝えください」 「ええ、父に伝えておきます」 海堂社長は私たちに軽く頭を下げると、ゆっくりとその場を後にした。 その瞬間、私たちの周りにいた方たちが一斉にわっと近付いてきた。 「藤堂さん!小鳥遊さん!ぜひお話を──」 「いやいや、私と話を──」 沢山の方達に囲まれて、私と苓さんは顔を見合せて苦笑いを浮かべた。 まだまだ、このパーティーからは帰れそうにも無い。 ◇◆◇ パーティー会場の片隅で。 多くの人々に囲まれ、笑っている茉莉花をじっとりとした目で見つめる女がいた。 その女に、へらへらとした男が近付く。 「君、さっき御影専務と一緒にいた子だろ?御影専務はどこに行っちゃったの?俺が一緒に居てあげようか?」 話しかけられたのは、涼子だ。 御影は、今は席を外している。 その隙を狙って男は涼子に接触したのだが、涼子は先程まで御影の前で見せていたか弱い雰囲気など微塵も出していない。 持っていたグラスをぐいーっと煽る
「藤堂さん……?藤堂社長の娘さんか!」 「こう言った場所には数年姿を見せていなかったが──」 「いやはや。こんなに美しくご成長されているとは……」 私たちの周囲に集まった人達が噂話をしているのが聞こえてくる。 私に声をかけた海堂社長は、改めて私に手を差し出す。 それを受けて私も手を握り返した。 「今日はお招きいただきありがとうございます。父からも、贈り物と言葉を預かっております。今後もお互い健康には気をつけ、またゴルフに行こう、と」 「何と……!ありがとうございます、藤堂さん。お父上にもよろしくお伝えください。贈り物もありがとうございます」 「いいえ、とんでもない。直接渡したがっておりました……父を今後ともよろしくお願いいたします」 私たちが和やかに話をしていると、周囲の輪からすすす、と進み出た女性が苓さんに近付くのが視界の端に入る。 周囲にいる人達は、「あっ」という顔をして、あからさまに顔色を悪くしている。 苓さんが私の斜め後ろに立っているから、普通は分かるはず。 彼は、私のパートナーで。 そして、こう言った場所に一緒に参加している以上、私にとって苓さんがどんな存在なのか。 その証拠に、苓さんに歩み寄っている女性のご両親、だろうか──。 ご両親方は真っ青な顔で必死に女性に戻りなさい、とジェスチャーをしているのが見えるけど、女性の目には苓さんしか映っていない。 私も、海堂社長との会話を途中でやめ、苓さんに話しかけるなんて失礼な行動は取れない。 苓さんなら、上手く女性と会話をしてそれとなく戻ってもらうよう対応してくれるだろう。 私はそう判断し、海堂社長との会話に集中した。 ◇ ああ、来るな、と思った。 俺が茉莉花さんの半歩後ろで控えているからだろうか。 話しかけに行く隙は、茉莉花さんと海堂社長が話している今しかない、と判断したのだろう。 俺はちらり、と近付いてくる女性の姿を確認する。 まだ、20そこそこの若い女性。 可哀想に、彼女の両親は真っ青になって必死に女性に戻れ、とジェスチャーを送っているけど、女性はそれに全く気づいていない。 「あ、あの……こんばんは」 か細い声で、女性に話しかけられる。 20そこそこで、若いから、と無礼が許される場では無い。 この場に集まる人達は、皆大企業の経営者や役員、旧華族の家
Rebyu