LOGIN「愛しているのは君じゃない」 冷たい瞳で、冷たい顔で、冷たい声ではっきりと私に向かってそう告げたのは、将来結婚すると思っていた、私の婚約者である御影 直寛(みかげ なおひろ)。 彼は、お祖父様からの命令で私との交際、婚約に嫌々応じたのだ。 けれど彼の心の中にはずっと初恋の人、速水涼子(はやみ りょうこ)がいた。 それでも、私はいつか直寛が私自身を見てくれると思っていた。 けど、彼からはいつも冷たい態度を取られるばかり…。 そんな日々を送っていた時、彼は私とパーティーに参加していたのに私を置き去りに、涼子の元へ走った。 絶望した私は、お酒を飲み、気づいたら見知らぬ男性と朝を迎えてしまった。 慌てて逃げた私だったけど、その男性がまさか小鳥遊グループの息子だったとは夢にも思わなかった。 その後。 直寛は自分の過ちに気づき、私に許しを乞う。 けれど、私はもう直寛への気持ちは捨て去った。 土下座されても。 愛を伝えられても。 もう私は直寛よりも愛しい人ができたから、あなたはもういらない。
View More志木チーム長に自分の手を掴まれた御影さんは、不愉快そうに眉を寄せ、志木チーム長を睨み付けた。 「──お前、まだ居たのか?」 「まだ藤堂本部長と仕事の話が終わっておりませんので……」 「これは俺と茉莉花の問題だ。お前には関係ない」 御影さんと志木チーム長がお互い睨み合う。 2人は暫し睨み合っていたけど、御影さんが不意に志木チーム長から視線を逸らして呟いた。 「茉莉花の今の婚約者は、確かに小鳥遊だが……。小鳥遊より前に茉莉花と婚約を結んでいたのは、俺だ。それに、俺は茉莉花を幼少の頃から知っている。……共通の知り合いの事で大事な話をしている。邪魔をしないでくれ」 「──っ、藤堂本部長と御影専務が婚約を……!?」 驚く志木チーム長に、私は咄嗟に口を開いた。 「御影専務との婚約は、家が決めた婚約だったんです。今の私と小鳥遊さんのような関係ではありません」 「──お互い、恋愛感情が無かったと言う事ですか……?」 私の言葉に、志木チーム長がそう問う。 私は気まずさを感じたけど、正直に答えた。 「……昔は、恋愛感情があったとしても、今はもう私とは何の関係もありません。御影専務の言う通り、確かに幼少の頃からある程度の交流はありましたが、それだけです」 「……だそうですが、御影専務。……藤堂本部長とお話が必要なのであれば、婚約者の小鳥遊部長を交えてお話をした方がいいと思います。それに、こうしていきなり会社にやって来て、アポもなく本部長に会いに来るのは……」 【非常識ではないか】そう、言いたいのだろう。 だけど、流石にそんな事は志木チーム長も言えず、言葉を濁した。 だけど御影さんは志木チーム長の言いたい言葉を察したのだろう。 屈辱に塗れたような顔で、私から顔を逸らす。 「志木チーム長の提案の通りですね。……速水涼子さんは、私の所に来ていません。それに、今は仕事中ですから……彼女について話したい事がまだあるのでしたら、仕事が終わったら。苓さんを交えてお話を聞きます。それでいいですか、御影専務?」 私が真っ直ぐ御影さんを見上げると、御影さんは少し不服そうにしていたけど、渋々といった体で頷いた。 ◇ 御影さんが部屋から出て行ったあと。 私は志木チーム長にお礼を伝えて、彼と少し仕事の打ち合わせをした。 そして、志木チーム長も本部長室から出て行っ
どうして、彼が藤堂の会社に──。 私は、信じられない気持ちで目の前に居る彼の名前を呼んだ。 「どうして御影専務が、ここに──……?」 私と同様、志木チーム長も突然御影さんがやって来た事に驚いているようで。 戸惑っている。 御影さんは、私と志木チーム長を交互に見た後、志木チーム長に視線を向けて口を開く。 「茉莉花──藤堂さんと話したい事がある。部外者は退出願いたい」 「──部外者って……」 志木チーム長がむっとしたように僅かに眉を顰める。 志木チーム長の反応は尤もだ。 この場所で、1番関係のない──部外者は、御影さんなのだから。 私は御影さんに視線を向け、言葉を返した。 「志木チーム長とは仕事の話をしているんです。それに、不躾に急に来て勝手な事を言われては困ります。御影さんこそ、我が社には関係の無い方。それに、私にはあなたとお話する事はありません。お帰りください」 御影ホールディングスと、藤堂グループはなんの関係も無い。 事業提携を結んでもいないし、これから先もその予定は無かったはず。 どうして御影さんが会社に来たのかは分からないけど、彼と話す事なんて無いのは確か。 だから、私は素っ気なく彼にそう告げたのだけど。 御影さんは私の返答を聞き、ぐっと苦悶の表情を浮かべた。 「──話しておきたい事がある、と言っているだろう。……涼子が消えた。お前の所に来ていないか?」 「──何ですって?」 涼子が消えた──? それで、どうして私の所にわざわざ御影さんが来るの──? 私の考えを読んだのだろう。 御影さんは本部長室に足を進め、私に近付いて来る。 「涼子は昔からお前に対して異常に怖がるような振りをしていただろう。だから、またお前の所に行ってお前に傷付けられたと言って俺に泣き付いてくるかと思ったんだが──……」 「──御影さんも、気付いていたの?」 まさか、涼子の態度に御影さんも気付いていたなんて──。 私が驚いていると、私のすぐ側までやって来た御影さんがふと私に向かって腕を伸ばしてくる。 「つい最近だが、な。今まで俺はあの蛇のような女に騙されて……1番大事な事に気付けなかった……」 「──!?」 御影さんの瞳に、執着のような熱が籠る。 どろり、とした気味の悪い感情が御影さんの瞳に浮かび、私の背筋にぞっとした悪寒が走
◇ それから、数日。 お父様が警察関係は全て対応して下さっているからだろうか。 私は、普段通り会社に出社して、自分の仕事に集中する事が出来た。 報道機関への対応も、お父様を中心にお父様の秘書である上尾さんが対応してくれているからか、記者が私に話を聞きにやってくる事は無かった。 一時、落ちてしまっていた藤堂グループの株価も今では回復の兆しを見せていて、世間の反応も日が経つにつれて変わっている。 最初は懐疑的で、疑いの目を向けていた一般の人達も、もしかしたらお祖父様が故意に傷付けられた可能性がある、と言う情報と、警察が捜査を開始したと言うニュースが報道されると、皆が手のひらを返したようにお祖父様の容態を心配し、無事を祈るようになった。 私は、本部長室でそれらのニュース記事を見つつ、ため息を吐いた。 「──警察機関の協力の有無で、こんな風に世間が味方してくれるなんてね……」 何だか、現金なものだ、と呆れてしまう。 少し前までは準備が疎かだったから、とか。やり方に問題があったのでは、とか。 沢山の人達が藤堂グループを叩いていたと言うのに。 それなのに、今はほとんどの人が擁護し、犯人がいるのなら許さないとまで話している。 ニュース画面を閉じ、パソコンの画面に私が視線を戻した所で。 本部長室の扉がノックされた。 私はハッとして扉に顔を向けた。 「──どうぞ」 「失礼します、藤堂本部長」 扉を開けて入室して来たのは、志木チーム長だった。 彼は、書類を手にしつつ気まずそうに歩いて来る。 「こちら、決算書類です。本部長のサインをお願いします」 「分かりました」 彼から提出された書類に、サインをする。 彼が持ってきたのは、今回の新規事業──カフェ事業に関する施策だ。 今回の事故の件で、会社が慌ただしくなろうとも、仕事は変わらず進む。 だけど、それが逆に今の私には冷静さを保つのにとても良かった。 「──うん、今回の施策はとても良いですね」 「ありがとうございます。チームの皆で考えたので、本部長の言葉を聞いたら喜ぶと思います」 「ふふ、そうだと嬉しいです」 バインダーを閉じて志木チーム長に渡す。 すると、普段はすぐに部屋を出て行って仕事に戻る志木チーム長が、この場を離れようとしなかった。 何か話したい事でもあるのだろうか──
それから、私は苓さんと色々な事を話した。 お父様に言われていた両家の顔合わせについて。 これから、どんな事に気をつけて生活するか、そんな事を苓さんからアドバイスをもらう。 それに、刑事の方に私も当日の事故について色々と聞かれるだろう、と言う事も苓さんから教えてもらう。 「茉莉花さんや、お父様、お祖父様の対応は谷島にお願いしていますが、彼の手が空いてなくて別の人間になる場合もあります。その際は必ず警察手帳の掲示と、名刺をもらうようにしてくれ、と言っていました」 「そう、なんですね。もしかしたら警察の振りをして接触する可能性もあるんですか?」 「詐欺集団なんかは、警察の振りをするらしいです。今回は違うので、一概に接触があるかもとは言えないそうですが……気をつけるに越したことはないので」 不安そうに私にそう告げる苓さん。 私は安心してもらえるように笑顔で頷いた。 「分かりました。谷島さんじゃない場合は、十分に気をつけますね」 「ええ、そうしてください。俺も十分に気をつけます」 私と苓さんがそんな話をしていると、お父様が私たちを呼んでいるらしい、と使用人から声をかけられた。 ◇ 食堂に移動した私たちを、お父様は出迎えてくれる。 既に夕ご飯の手配をしてくれていたため、テーブルの上には出前で頼んだご飯が沢山並べられていた。 沢山の出前を頼んだお父様は、申し訳なさそうに後頭部をかきながら口を開く。 「すまないね、苓くんがどれだけ食べるか分からなくて……沢山頼んでしまったけど、無理はしないでくれ」 「ありがとうございます。とてもお腹が空いていたので嬉しいです」 席に座って、とお父様に促され、私と苓さんは席に着く。 すると、お父様が口を開いた。 「先程、谷島さんから連絡があったよ。リストの中に記載されている人物が、今日の夜の便で海外に飛ぶ予定だったらしい」 「──えっ!?」 「勿論谷島さんはその人物の海外渡航を阻止して、今は拘束しているその人物の身柄を引き取りに空港へ向かったらしい」 「うちの会社の人だったんですか?」 私の質問に、お父様は首を横に振って答える。 「いや、一般参加者だ。系列会社に務めている人の知り合いの一家らしい」 「──なら、私たちとは全く面識のない人なんですね」 「ああ。そんな人がどうして我々を狙ったのか…
reviews