Nicholas Sparksの小説『The Notebook』とその映画化『きみに読む物語』を比べると、ノスタルジーの質感が全く異なるんですよね。原作は1940年代の田舎町の湿度まで伝わるような筆致で、アリーとノアの手紙のやりとりにページの3割を費やしています。ところが映画はレイク・シーケンスや雨のキスシーンでビジュアルインパクトを優先。
特に大きいのは老年期の描写です。原作では認知症のアリーが狂暴になる場面が詳細に書かれていますが、映画ではジェームズ・ガーナーとジーナ・ローランズの演技が穏やかな愛情に包み込む。この違いは、小説が『老いの現実』と向き合う姿勢に対して、映画が『永遠の愛』をファンタジーとして昇華させた証左だと思います。
音楽の存在も見逃せません。映画ではアーロン・ジグマンのピアノ曲が感情を誘導しますが、原作にはもちろんBGMはありません。代わりにノアがアリーに朗読するシェイクスピアの『夏の夜の夢』の一節が、独自のリズムを生んでいるんです。