記憶の路地を彷徨い、君はもう帰らない娘が亡くなった日、あの子の位牌を、黒崎家の仏壇に置いてあげたかった。
しかし、まだ5歳だった黒崎達也(くろさき たつや)が、その位牌を床に投げつけ、めちゃくちゃに踏みつけた。
「こいつは黒崎家の子供じゃないだろ!なんでここに置くんだよ!あんたが死んだって、あんたの位牌も絶対ここに置いてやらねえから!」
その仏壇に置かれている「あの女」の位牌が目に入ったが、私は何も言わなかった。
私の視線に気づいた達也は、慌ててその位牌を庇うように、立ち上がった。
「なんなんだよ!あんたなんかが、ママに敵うわけがないだろ!
愛人はどこまでいっても愛人なんだよ。まともな人間扱いされると思うな!」
まさか、この手で育ててきたこの子が、こんなにも父親にそっくりになるなんて。
私は目の前にいる実の息子を見つめながら、底なしの絶望に沈められる。
「僕を数年育てたからって、母親気取りするなよ。僕の母親は、ママ一人だけなんだからさ。
もし文句があるなら、この家から出ていけよ!」
達也はまだ知らない。自分が叩き壊したその位牌が、実の姉のものだということを。
しかし、もう何もかもがどうでもいいのだ。娘がいなくなってしまった今、私がここにいる意味なんてないのだから。
「言われなくても、今日出ていくよ」