夫の偽装結婚を暴いた日市役所の戸籍課に異動して二日目。
私は白石芽依(しらいし めい)。まだ新しい職場にも慣れないまま、同僚から引き継いだ案件を担当することになった。
それは、婚姻届受理証明書の再発行を希望する若い女性――天城結月(あまぎ ゆづき)の手続きだった。
書類を確認している私に、同僚が面白がるように言う。
「この子ね、婚姻届受理証明書の再発行で来るの、もう九十九回目なのよ。データも全部残ってるから、すぐ終わるけど」
思わず聞き返した。
「九十九回もですか?」
「若いのに年上のお金持ちと結婚したらしくてさ。夫婦喧嘩するたびに証明書を破っちゃうんだって。まあ、あれだけのわがまま受け止められるのは年上の旦那くらいでしょ」
さらに同僚は声を潜めて続けた。
「しかも相手、うちの汐見市で一番の資産家――明智家の人らしいわよ」
私は思わず眉をひそめた。
「明智家の人間なら、なおさら軽率な真似はしないはずじゃないですか。その旦那さん、本当に本人なんですか?」
すると同僚は顔色を変え、慌てて私の口を押さえた。
「お願い、それ以上言わないで。本物よ。明智家の当主――明智陽介(あけち ようすけ)、その人本人なんだから」
その瞬間、頭の中が真っ白になった。
気が抜けた拍子にスマホが手から滑り落ち、机の上に転がる。
画面に映っていたのは、陽介に寄り添う私とのツーショット写真だった。
それを見た結月が、突然表情を変え、私のスマホをつかみ取る。
「あなた、誰?どうして私の夫との写真なんか持ってるの?」