ストーリー展開が予測不能で読者を驚かせる小説といえば、やはり『博士の愛した数式』を挙げたい。数学者と家政婦、そしてその息子の奇妙な共同生活を描きながら、記憶の欠落と数字の美しさが織りなす物語は、途中で何度も方向転換を繰り返す。数式が持つロマンと人間関係の脆さが絡み合い、最後のページで全てが結びついた時の衝撃は忘れられない。
もう一冊外せないのは『海辺のカフカ』だ。現実と幻想の境界を曖昧にしながら、15歳の少年と古老の漁師という一見無関係な二人の運命が交錯していく。猫と話すことができる少年、魚が空から降ってくる町、そして不可解な殺人事件――これらがどのように関連するのか、読み進めるほどに謎が深まっていく。村上春樹らしい魔術的な文体が、予測不能な展開をさらに際立たせている。
最近では『蜜蜂と遠雷』の構成力にも目を見張るものがある。国際ピアノコンクールを舞台に、四人の演奏者がそれぞれの人生を懸けて競い合う様子が、音楽の描写と共に鮮やかに展開される。あるキャラクターの過去が明かされるたびに、読者の解釈が180度変わる仕掛けが随所に散りばめられており、コンクールの結果だけでなく人間関係の行方も最後まで読めない作りになっている。平凡な日常生活からいきなりファンタジーの世界に引きずり込まれる『千と千尋の神隠し』のような感覚を、
純文学の枠組みで味わえる稀有な作品だ。