約束の甘い檻~寡黙な騎士の一途な愛~

約束の甘い檻~寡黙な騎士の一途な愛~

last updateLast Updated : 2026-01-28
By:  ひなた翠Completed
Language: Japanese
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「姫、どうか俺と一生を添い遂げてください」 九歳のアリアは、兄の幼馴染であるダリウスにごっこ遊びで求婚された。手の甲に落とされた騎士のキス。幼心に刻まれたその言葉は、アリアの初恋となった。 八年後——長い戦争が終わり、ダリウスは英雄として帰還する。 寡黙で無表情な彼は、さらに精悍で魅力的な男性になっていた。 舞踏会で美しい令嬢たちに囲まれるダリウスを見て、アリアは胸が苦しくなる。嫉妬に駆られ、幼い日の約束を持ち出して身体の関係を持ってしまった――。 ※溺愛・独占欲強めのヒーロー×一途なヒロインの甘々ラブストーリーです。

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Chapter 1

第一話「あの日の誓い」

「あのときの求愛の言葉は、有効かしら」

 ベッドにいる私は、小さく呟いた。部屋を出て行こうとしているダリウスの足が止まる。

 窓の外で光る月で照らされているダリウスの目が泳いだ。

「あのとき……求愛?」

 ダリウスの声が、僅かに戸惑っているように聞こえた。

 ああ、彼は覚えてない――。

 あれは、ごっこ遊びに過ぎない。記憶に残っている方がおかしい。

 わがままな友人の妹に、付き合ってくれただけ。あの後、ダリウスは屋敷に来なくなったのが何よりもの証拠だ。

 私のせいで、兄とダリウスの時間を奪ってしまった。

「一生添い遂げるって、言ってくれた」

 私は顔を上げて、ダリウスを見つめた。彼の瞳が、僅かに見開かれる。そして——私は、彼の唇に自分の唇を重ねた。

 触れるだけの、軽いキス。ダリウスの唇は、温かかった。柔らかく、優しい感触。

心臓が破裂しそうなくらい、激しく打っている。顔が熱く身体中が、火照っていた。

 我に返った私は、顔を真っ赤にして布団に潜り込んだ。

(なってことを! 私はしてしまったんだ)

 嫉妬に狂って、こんなことをしてしまった。恥ずかしさと、後悔と、どうしようもない感情が、胸の中で渦巻いている。

 布団の中で、私は身体を丸めた。このまま、消えてしまいたい。心臓が早鐘を打ち、息が荒くなる。

 布団の中に隠れたはずなのに、あっという間に布が剥がれた。ダリウスの手が、私の手を掴む。

「アリア……その気にさせておいて、逃げるのはずるい」

 低い声が、耳元で響いた。

 ダリウスの指が、私の指と絡み合う。手が繋がれた。温かい手。大きな手。彼の手が、私の手を包み込んだと思ったら、両手をベッドに押し付けられて、身動きを封じられる。

(――え?)

 ダリウスの顔が、近づいてきた。彼の唇が、再び私の唇に重ねられる。今度は、触れるだけではなかった。深く、濃厚なキス。舌が唇をなぞり、口を開けるように促してくる。

 口を開くと、舌が中へと侵入してきた。舌が絡み合い、甘い吐息が漏れる。息が苦しい。頭の中が、真っ白になっていった。

 だんだんとキスが深まっていく。ダリウスが私の口の中を探るように、舌を動かしてきた。

 吸われて舐められ、身体が熱くなる。彼の唾液が、私の口の中に流れ込んでくる。濃密で、甘い味がした。

 ダリウスの手が、繋いでいた手を離して、私の身体を撫で始めた。ドレスの上から、肩を撫で、腕を撫で、腰を撫でていく。

 さらに身体が、熱くなる。彼の手が触れた場所が、まるで火傷したみたいに火照っていく。ドレスの布地越しでも、彼の手の温かさが伝わってきた。

「アリア」

 ダリウスの低い声が、耳元で響く。彼の声を聞くだけで、身体の奥が熱くなる。

 ダリウスの手が、ドレスの紐を解き始めた。背中の紐が解かれ、ドレスが緩んでいく。肩から滑り落ちると肌が露わになっていった。冷たい空気が肌に触れ、鳥肌が立つ。

「寒いか」

 ダリウスが囁く。私は首を横に振った。寒くない。彼の体温が、私を温めてくれている。

 ドレスが完全に脱がされ、下着姿になる。恥ずかしさに、腕で胸を隠した。ダリウスが優しく、私の腕を掴む。

「隠さないで。アリアを見たい」

 低い声に、私は腕を下ろした。ダリウスの視線が、私の身体を舐めるように見つめる。熱い視線。欲望を含んだ視線。見られているだけで、身体が熱くなって溶けてしまいそうだ。

 ダリウスが、私の胸に手を伸ばす。柔らかい膨らみを包み込む。優しく揉まれ、吐息が漏れた。

「ん」

 声が漏れた。慌てて口を押さえる。ダリウスの唇が、私の首筋に移動する。熱い舌が肌を這い、鎖骨を舐める。吸い付かれ、赤い痕が残る。彼の痕が、私の身体のあちこちに刻まれていった。

 ダリウスの唇が、胸の先端に触れる。舐められ、吸われ、身体が跳ねる。腰が浮き、シーツを握りしめた。

「――っ、ん」

「声を出していい。聞きたい」

 囁きに、頬が熱くなった。恥ずかしさと、得体の知れない感覚が、胸の奥に広がっていく。ダリウスの手が腹を撫で、腰を撫で、太腿へと滑っていく。内側を撫でられ、息が荒くなった。

 ダリウスの指が、下着の中に入ってくる。直接、肌に触れる。熱い指先。今まで誰にも触れられたことのない場所。自分でさえも触れたことのない場所に、彼の指が触れている。

「力を抜け」

 低い声に従い、身体の力を抜く。ダリウスの指が、秘所に触れた。ゆっくりと撫でられ、熱が集まっていくのが分かる。指が割れ目をなぞり、入口を探る。濡れていく自分が分かり、羞恥心が込み上げてくる。

「ここ、初めてか」

 問いに、私は頷いた。ダリウスの指が、ゆっくりと中に入ってくる。異物感に、身体が強張った。痛くはないが、居心地の悪い感覚。

「痛いか」

「平気、です」

 ダリウスの指が動き始めた。出し入れを繰り返し、中を探るように動く。痛みと、くすぐったいような感覚が混ざり合い、身体が熱くなっていった――。

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第一話「あの日の誓い」
「あのときの求愛の言葉は、有効かしら」 ベッドにいる私は、小さく呟いた。部屋を出て行こうとしているダリウスの足が止まる。 窓の外で光る月で照らされているダリウスの目が泳いだ。「あのとき……求愛?」 ダリウスの声が、僅かに戸惑っているように聞こえた。 ああ、彼は覚えてない――。 あれは、ごっこ遊びに過ぎない。記憶に残っている方がおかしい。 わがままな友人の妹に、付き合ってくれただけ。あの後、ダリウスは屋敷に来なくなったのが何よりもの証拠だ。 私のせいで、兄とダリウスの時間を奪ってしまった。「一生添い遂げるって、言ってくれた」 私は顔を上げて、ダリウスを見つめた。彼の瞳が、僅かに見開かれる。そして——私は、彼の唇に自分の唇を重ねた。 触れるだけの、軽いキス。ダリウスの唇は、温かかった。柔らかく、優しい感触。心臓が破裂しそうなくらい、激しく打っている。顔が熱く身体中が、火照っていた。 我に返った私は、顔を真っ赤にして布団に潜り込んだ。(なってことを! 私はしてしまったんだ) 嫉妬に狂って、こんなことをしてしまった。恥ずかしさと、後悔と、どうしようもない感情が、胸の中で渦巻いている。 布団の中で、私は身体を丸めた。このまま、消えてしまいたい。心臓が早鐘を打ち、息が荒くなる。 布団の中に隠れたはずなのに、あっという間に布が剥がれた。ダリウスの手が、私の手を掴む。「アリア……その気にさせておいて、逃げるのはずるい」 低い声が、耳元で響いた。 ダリウスの指が、私の指と絡み合う。手が繋がれた。温かい手。大きな手。彼の手が、私の手を包み込んだと思ったら、両手をベッドに押し付けられて、身動きを封じられる。(――え?) ダリウスの顔が、近づいてきた。彼の唇が、再び私の唇に重ねられる。今度は、触れるだけではなかった。深く、濃厚なキス。舌が唇をなぞり、口を開けるように促してくる。 口を開くと、舌が中へと侵入してきた。舌が絡み合い、甘い吐息が漏れる。息が苦しい。頭の中が、真っ白になっていった。 だんだんとキスが深まっていく。ダリウスが私の口の中を探るように、舌を動かしてきた。 吸われて舐められ、身体が熱くなる。彼の唾液が、私の口の中に流れ込んでくる。濃密で、甘い味がした。 ダリウスの手が、繋いでいた手を離して、私の身体を撫で始めた。ドレスの
last updateLast Updated : 2026-01-16
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第二話「幼い日の誓い」
 春の午後の光が、中庭いっぱいに降り注いでいた。花壇に植えられた薔薇が淡い桃色の花弁を開き、甘い香りを風に乗せている。芝生の上には、剣を持った二人の青年が立っていた。兄と、兄の親友であるダリウス。 二人とも汗で額を光らせながら、剣の稽古に励んでいた。金属がぶつかり合う音が、規則的に響いている。私はベンチに座り、膝の上で人形を抱きしめながら、二人の動きを眺めていた。 九歳の私にとって、兄の剣の稽古を見学するのは何よりも楽しい時間だった。兄は優雅に剣を振るい、ダリウスは力強く踏み込む。二人の動きは美しく、まるで踊っているようにさえ見えた。特に、ダリウスの剣捌きは見事だった。黒に近い濃紺の髪が汗で額に張り付き、灰青色の瞳が鋭く光る。彼の真剣な表情を見ているだけで、胸が高鳴った。「休憩にしよう」 兄が剣を下ろし、額の汗を拭った。ダリウスも頷き、二人は芝生に腰を下ろした。メイドが運んできた冷たい水を、二人は喉を鳴らして飲み干す。私は人形を抱えたまま、二人の元へと駆け寄った。「兄様、ダリウスお兄様、すごく格好良かったわ」 兄が笑いながら私の頭を撫でた。大きな手が、優しく髪を撫でていく。「ありがとう、アリア。今日も見ていてくれたのか」「もちろんよ。二人とも、本物の騎士様みたい」 ダリウスが私を見た。無表情な顔のまま、小さく頷く。彼はいつも無口で、あまり笑わなかった。兄とは対照的に、言葉少なで、何を考えているのか分かりにくい。けれど私は、ダリウスが嫌いではなかった。むしろ、彼の静かな佇まいに惹かれていた。「ねえ、お姫様ごっこをしましょう」 私は膝の上の人形を高く掲げた。兄が苦笑する。「またか。アリアは本当にお姫様ごっこが好きだな」「だって楽しいんですもの。ねえ、今日は特別よ。二人で勝負して、勝った方がお姫様に結婚を誓うの」 兄の顔が、少し困ったように歪んだ。「妹のごっこ遊びに、そこまで本気になる必要はないだろう」「いいじゃない。私、ずっと楽しみにしていたのよ」 私は頬を膨らませた。兄は溜息をつきながらも、立ち上がった。「分かった、分かった。ダリウス、付き合ってやってくれ」 ダリウスが無言で立ち上がる。彼は剣を拾い上げると、兄と向かい合った。二人の間に、緊張した空気が流れる。私は胸を高鳴らせながら、ベンチに座り直した。人形を膝の上に置き、両手を
last updateLast Updated : 2026-01-16
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第三話「八年ぶりの再会」
 戦争終結の知らせが届いたのは、初夏の朝だった。 使用人が興奮した様子で駆け込んできて、兄からの手紙を持ってきた。私は震える手で封を開け、几帳面な兄の文字を目で追った。 戦が終わった。我が国の勝利。兄は無事で、近日中に帰還する。そう書かれた文面を読み終えると、涙が溢れて止まらなくなった。 八年間、ずっと待っていた。毎晩祈り続けた。兄とダリウスが無事に帰ってきますように、と。 戦場からの便りは少なく、時折届く手紙だけが、二人の生存を知らせる唯一の証だった。夜、ベッドの中で兄からの手紙を読み返しながら、涙を流した日々が何度もあった。 手紙を胸に抱きしめると、心臓が激しく鼓動を打った。兄が帰ってくる。ダリウスも——帰ってくる。 八年ぶりに、彼に会える。幼い頃の記憶が、鮮やかに蘇ってきた。灰青色の瞳。低い声。「一生を添い遂げてください」と囁いた、あの日。 私は窓辺に立ち、庭を眺めた。薔薇が満開に咲き誇り、甘い香りを放っている。 八年前、あの日は春だった。中庭で剣の稽古をする兄とダリウスを、私は夢中で眺めていた。ダリウスが私の手の甲にキスをした時、心臓が壊れそうなほど鳴っていた。あの感覚は、今でも鮮明に覚えている。 鏡の前に立ち、自分の姿を映してみた。十七歳になった私は、いくらか大人になっている――と思いたい。 背は伸び、身体つきも丸みを帯びてきた。淡い金髪は腰まで伸び、緩やかなウェーブを描いている。淑女のような妖艶な魅力はまだないが、そこそこ女性らしくなってはいるはず……。 瞳の色は、淡い緑色に金が混じっていた。明るい光を吸い込むような色だと、兄はよく言っていた。 鏡に映る顔を見つめながら、不安が込み上げてきた。 私は頬を両手で挟んだ。顔が熱い。会いたい。ダリウスに会いたい。八年間、ずっと心の中で想い続けていた人。初恋の人。 幼い頃の淡い恋心は、時が経っても消えることはなかった。むしろ、会えない時間が長くなるほど、想いは強くなっていった気がする。 ダリウスに会った時、恥ずかしくないようにしなくちゃね。     ◇◇◇ 兄の帰還予定日の朝、屋敷中が慌ただしく動き回っていた。メイドたちは床を磨き、窓を拭き、花を飾り、料理の準備に追われていた。執事は玄関ホールの掃除を監督し、庭師は庭の手入れを念入りに行っていた。屋敷全体が、兄の帰還を祝う準備で
last updateLast Updated : 2026-01-16
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第四話「舞踏会の夜」
 戦が終わり、王都の夜は再び華やかさを取り戻していた。あちこちで舞踏会が開かれ、若い貴族たちは伴侶探しに夢中になっている。友人に誘われて、私も舞踏会に参加することにした。 部屋で支度を整える。侍女が選んでくれた淡い桜色のドレスに身を包み、髪を結い上げてもらう。 鏡台の前に座り、映る自分の姿を見つめた。 侍女が真珠の髪飾りを挿し、首元に細い銀の鎖をかけてくれる。 準備が整うと、私は馬車に乗って舞踏会の会場になっている友人の屋敷に急いだ。 馬車に揺られながら、私は窓の外を眺めていた。夜空には月が浮かび、街は祝祭の明かりで輝いている。 八年ぶりの平和。長い戦が終わり、人々は再び笑顔を取り戻していた。馬車が会場に到着し、扉が開けられる。音楽が流れてくる。弦楽器の音色が、夜の空気に溶けていた。 友人の屋敷は既に大勢の人で賑わっていた。天井から下がる巨大なシャンデリアが、無数のクリスタルを煌めかせている。光が乱反射し、会場全体がまるで星空の下にあるかのように輝いていた。 華やかなドレスを纏った貴族の女性たちが、あちこちで談笑している。 宝石をちりばめた髪飾り、煌びやかなネックレス、色とりどりのドレス。男性たちは礼服に身を包み、女性たちに声をかけていた。 祝祭の空気が、会場を満たしている。笑い声、音楽、グラスが触れ合う音。全てが、戦の終わりを祝っているかのようだった。 友人が手を振っているのが見えた。彼女の隣には、何人かの知り合いもいる。私は彼女たちの元へと向かい、挨拶を交わした。 久しぶりに会う友人たちとの会話は弾んだが、私の心はどこか上の空だった。視線が、自然と会場を彷徨う。ついダリウスを探してしまう。 兄が舞踏会に出席すると話していたから、きっとダリウスも一緒に来ているとは思うが――。 すぐに兄の姿を見つけた。いつものように女性たちに囲まれて、笑顔で会話をしている。兄は昔から人気があるらしい。話し上手で、リップサービスも得意な兄は、女性たちの扱いが上手い。 歳の離れた妹にまで、お世辞を言ってくるくらいだから、他の女性たちには尚更だろう。 兄の周りには、常に笑い声が絶えない。女性たちが兄の腕に触れ、兄が微笑みながら何かを囁く。親しげな雰囲気が遠目から見てもわかった。 少し横に視線を動かすと、ダリウスの姿が目に入った。心臓が、大きく跳ねる。
last updateLast Updated : 2026-01-17
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第五話「初めての夜」
 ベッドに優しくおろされる。柔らかい感触が、背中に伝わった。彼の腕から離れると、急に冷たさを感じた。彼の温もりが恋しくなる。 肩にかかっていた外套を脱ぎ、彼に返そうとした。「身体が冷たいから、温まるまで着ているといい」 ダリウスの声が、優しかった。返すのはいつでもいいからと、彼は部屋を出て行こうとする。背中が遠ざかっていく。離れていく。あの女性たちの元へ、戻ってしまう。 気がつくと、私は彼の袖を掴んでいた。「体調が悪くなったのは、嘘――です」 声が震えた。ダリウスの足が止まる。振り返った彼の瞳が、私を見つめていた。鋼のような強さと、優しさが混ざり合っている瞳がこちらに向いている。「女性に囲まれて楽しそうに会話しているダリウスを見ているのが、辛かったから」 言うつもりはなかった言葉が、口から飛び出していた。ダリウスは黙って、私を見つめている。 無表情で見ているから、彼が何を考えているのか分からない。呆れているのだろうか。幼稚な嫉妬だと、思われているのだろうか。 帰ろうとしていたのをやめたダリウスは、ベッドの端に座った。私の髪に手を伸ばし、指先で弄び始める。柔らかく、優しい手つきだった。髪を撫で、耳の後ろに指を滑らせる。「楽しそうに見えた?」 ダリウスが、低い声で聞き返してきた。私は視線を逸らした。 その質問には答えたくないと思った。楽しそうに見えていたから。私もあの輪の中に入って、ダリウスを独占したいと感じていた。「あのときの求愛の言葉は、有効かしら」 私は、小さく呟いた。ダリウスの手が止まる。「あのとき……求愛?」 ダリウスの声が、僅かに戸惑っているように聞こえた。 ああ、覚えていないのだ。当然だろう。 あれは、ごっこ遊びに過ぎなかったのだ。わがままな友人の妹に、付き合ってくれただけ。あの後、ダリウスは屋敷に来なくなったのが何よりもの証拠だ。 私のせいで、兄とダリウスの時間を奪ってしまった。「一生添い遂げるって、言ってくれた」 私は顔を上げて、ダリウスを見つめた。彼の瞳が、僅かに見開かれる。そして——私は、彼の唇に自分の唇を重ねた。 触れるだけの、軽いキス。ダリウスの唇は、温かかった。柔らかく、優しい感触。 心臓が破裂しそうなくらい、激しく打っている。顔が熱い。身体中が、火照っている。 我に返った私は、顔を真っ赤に
last updateLast Updated : 2026-01-17
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第六話「赤い痕」
 朝日が窓から差し込み、カーテンの隙間から細い光の筋が床に伸びていた。私はベッドの中でダリウスの外套を抱きしめたまま横になっていた。 身体が重く、昨夜の出来事が夢ではなかったことを、全身で実感していた。首筋から胸元、太ももにかけて、じんわりと熱を持った痛みが残っている。指先で触れると、薄紅色に染まった肌が痛みを訴えてきた。 玄関のドアが開く音がした。私は上半身を起こし、寝室の扉に視線を向けた。足音が階段を上ってくる気配はなく、一階で止まっている。時計を見ると、まだ朝の七時を少し回ったばかりだった。「ただいま〜」 兄様の陽気な声が、階段の下から響いてきた。私は急いでベッドから降りると、部屋着のガウンを羽織った。鏡に映る自分の顔は、昨夜の名残で少し腫れぼったく、唇も赤みを帯びている。髪を手で整えながら、部屋を出た。 階段を下りていくと、玄関ホールに兄様が立っていた。礼服は昨夜のままで、シャツの襟元が少し乱れている。髪も普段の整った様子とは違い、寝癖がついたまま放置されていた。兄様は私を見ると、にこやかに笑顔を向けてきた。「おはよう、アリア。まだ夜着のままとは、お寝坊だな」「おかえりなさい、お兄様」 私は階段の途中で足を止めた。兄様の首筋に、鮮やかな赤い痕が見えたからだった。シャツの襟から覗くその痕は、昨夜私がダリウスから刻まれた痕と同じものだった。「ああ、昨夜は素敵なレディと楽しい時間を過ごしてね。舞踏会の後、彼女の屋敷でお茶をご馳走になったんだ」 兄様は悪びれもなく笑いながら、礼服の上着を脱いで腕にかけた。シャツの袖口のボタンも外れており、いかにも朝帰りといった風情だった。私は視線を逸らし、残りの階段を下りた。「それは……楽しそうで何よりです」 私の声は、どこか上ずっていた。兄様の首筋の痕を見て、昨夜ダリウスに触れられた場所が疼くように熱を持ち始めたからだった。 兄様も、誰かと夜を過ごしてきた。昨夜私がダリウスと過ごしたように、兄様も誰かの肌に触れ、唇を重ね、抱き合っていた。「ああ、とても楽しかったよ。やはり戦が終わって、こうして平和な日々が戻ってくるのは良いものだな」 兄様は伸びをしながら、ダイニングルームへと向かった。 私はその後ろ姿を見送りながら、自分の首筋に手を当てた。ガウンの下の寝衣は、首元まで覆うデザインのものを選んで着て
last updateLast Updated : 2026-01-18
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第七話「秘密のキス」
 あれから数日が過ぎた。 私は屋敷の中で静かに過ごし、昼間は読書をしたり、庭を散策したりして時間を潰していた。ダリウスのことを考えないようにしようとしても、気がつくと彼の灰青色の瞳や、低い声や、大きな手のことばかり思い浮かべていた。 午後になって、私は居間でティーを飲んでいた。窓の外では春の庭園が陽光に照らされ、花々が風に揺れている。カップを手に取ろうとしたとき、玄関ホールから兄様の声が響いてきた。「仕事から帰ったぞ!」 私は立ち上がり、居間を出て玄関ホールへ向かった。兄様は両手を広げて、私を待っていた。いつもの光景だ。 私は駆け寄り、兄様の胸に飛び込んだ。兄様は私を軽々と抱き上げ、くるりと回した。「おお、可愛い妹よ! 仕事の疲れが吹き飛ぶ」 兄様の腕に抱かれながら、私は笑顔を向けた。兄様の胸に顔を埋めると、いつもの石鹸の香りがした。安心する香りだった。 ふと、視界の端に人影が映った。私は顔を上げ、玄関の奥を見た。 ダリウスが立っていた。 心臓が激しく跳ねた。数日ぶりに会う彼の姿。黒に近い濃紺の髪が、玄関に差し込む夕陽に照らされて、深い色を放っている。 灰青色の瞳が、じっと私を見ていた。無表情の顔は相変わらずだったが、瞳の奥に何かが燻っているのを感じた。「なあ? 兄様が帰ってきたんだが?」 兄様の声が、頭上から降ってきた。私ははっとして、兄様の顔を見上げた。兄様は少し不機嫌そうに、私の額に指を当てて押した。「おかえりなさい、お兄様」 慌てて私は言葉を返した。「まったく、せっかく帰ってきたのに、視線は明後日の方向だったぞ」 兄様の言葉に、私は頬が熱くなるのを感じた。ダリウスの方をずっと見ていたことを、兄様に気づかれてしまっただろうか。「ごめんなさい、お兄様」「おお、可愛い妹よ」 兄様の声は弾んでいた。私は兄様の首に腕を回し、身体を安定させた。兄様の腕の中は、いつも温かくて安心する。幼い頃から何度も抱き上げられてきた、慣れ親しんだ感覚だった。 お兄様は、いつもように私を抱っこしたままの状態で、外であった出来事を話し始める。こうなると、なかなか解放されない。 今日はやけにそわそわしてしまう。 視界の端に映る無表情で見つめてくるダリウスの視線が痛いほど突き刺さってくる。 兄様の肩越しに顔を上げれば、ダリウスの顔が見えた。彼の
last updateLast Updated : 2026-01-19
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第八話「ドアの向こうには兄がいるのに」
 心臓が、壊れそうなほど激しく鳴っていた。胸を押さえても、鼓動は収まらない。ダリウスの灰青色の瞳が、脳裏に焼き付いている。あの瞳は——あの夜と同じだった。私を見つめる、熱を帯びた視線。「まさか……あそこで――」 兄様がいるのに、ダリウスは私にキスをした。しかも、あんなに深く、甘く、執拗に。私は立ち上がり、鏡の前に行った。鏡に映る自分の顔は、真っ赤に染まっている。唇は腫れていた。 指先で唇に触れると、まだダリウスの体温が残っているような気がした。舌の痺れも消えず、口の中に彼の味が広がっている。私はベッドに倒れ込み、枕に顔を埋めた。「何を考えているの、ダリウス……」 呟いた声は、震えていた。顔が熱い。唇に残る彼の感触が、消えてくれない。身体の奥が、じんわりと疼き始める。あの夜、彼に触れられた場所が、また熱を持ち始めている。 私は枕を抱きしめた。ダリウスの匂いが恋しかった。彼の腕の中で眠った、あの夜の記憶が鮮明に蘇ってくる。彼の心臓の音、低い声、温かい手。全てが愛おしくて、切なくて、胸が苦しくなった。 窓の外では、夕陽が沈み始めていた。オレンジ色の光が部屋を染め、影が長く伸びている。 私はベッドに横になったまま、天井を見つめた。 あの濃厚なキスの感触が、まだ唇に残っている。彼の手の温もりが、頬や髪に残っている。 ダリウスの顔が、瞼の裏に浮かんでくる。灰青色の瞳、無表情な顔、でも私にキスをするときだけ、瞳の奥に熱が宿る。あの眼差しが忘れられない。 私は枕を抱きしめた。身体の奥が、まだ疼いている。彼に触れられたい。あの日の夜にように、激しく抱かれたい。「ダリウス――」 熱っぽく甘ったるい声で漏れてしまう。「何、アリア。具合が悪そうだったから、見にきた」 彼の低い声がしてたと思ったら、耳たぶを甘噛みされた。「……っん、あぁ」 不意打ちで噛まれた耳から、甘い刺激が身体に走って声が出てしまう。下腹部が熱くなる。「顔が赤い。息も荒い」 彼の手が、私の頬に触れた。熱い手のひらが、火照った肌を撫でる。「身体も熱い」「それは……」(ダリウスがキスをするから) 言い訳をしようとしたが、言葉にはならなかった。ダリウスの灰青色の瞳が、私を見つめている。熱を帯びた視線。さっきと同じ——私を求める眼差し。「さっきのキス、気持ちよかったか?」 低く囁
last updateLast Updated : 2026-01-19
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第九話「風邪の夜の訪問」
 朝から身体が重かった。目覚めた時から、額に鈍い熱が篭もっているのを感じていた。起き上がろうとすると、視界が少しぼやけて、身体が鉛のように動かなかった。メイドが部屋に入ってきて、カーテンを開ける。窓から差し込む光が眩しく、私は目を細めた。「アリア様、お顔の色が優れませんが」 メイドが心配そうに声をかけてくる。鏡を見ると、頬には熱の赤みが浮かんでいた。普段よりも目の下に薄い影が落ち、唇の色も悪い。身体を起こすと、頭がずきずきと痛んだ。「少し熱っぽいみたい」 私は弱々しく答えた。メイドがすぐに額に手を当て、眉をひそめる。「これは熱がありますわ。今夜の舞踏会は、お休みなさったほうがよろしいかと」 今夜も舞踏会が開かれる予定だった。私は小さく頷いた。 朝食の席で、兄様に体調が優れないことを告げた。「お兄様、今夜の舞踏会は欠席させてください」 フォークを持つ手を止め、兄様は私の顔を見た。すぐに立ち上がり、私の額に手を当てる。大きく温かい手が、熱を持った私の肌に触れた。「少し熱があるな。無理するな、アリア。今夜はゆっくり休んでいるんだぞ」 兄様の声は優しく、心配の色が滲んでいた。私は小さく頷いた。「ごめんなさい、お兄様」「謝ることないさ。体調が悪いのは仕方ないだろう。俺も今夜は欠席しようか」「いいえ、お兄様は行ってください。私は大丈夫ですから」 兄様は少し迷った様子だったが、最終的には頷いてくれた。 一人でゆっくりと寝ていたい。何も考えずに、ただゴロゴロしていたい。「分かった。何かあったら使用人を呼ぶんだぞ」 夕方になり、兄様が出発の準備を整える。玄関ホールで見送ると、兄様は何度も振り返りながら馬車に乗り込んだ。窓から手を振る兄様の姿が、遠ざかっていく。馬車が屋敷の門を出て、見えなくなった。 私は玄関ホールに立ったまま、ぼんやりと考えていた。今夜の舞踏会には、ダリウスも出席するのだろうか。 美しいドレスをまとった貴婦人たちに囲まれて、質問に答えている姿が脳裏に浮かぶ。胸がちくりと痛んだ。 ダリウスの周りには、いつも上流の貴族令嬢たちが群がっている。美しく、洗練されていて、会話も巧みな女性たち。私よりもずっと、ダリウスに相応しい人たち。「アリア様、お部屋にお戻りになられますか」 メイドの声で我に返った。私は頷き、自室へと戻った。ベッ
last updateLast Updated : 2026-01-20
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第十話「遠ざかる距離」
 夕方、玄関ホールに兄様の声が響いた。「ただいま!」 いつもより声が弾んでいた。私は刺繍の手を止め、応接間から顔を出した。兄様は上機嫌で、頬に紅潮が浮かんでいる。礼服姿のまま、手には仕立て屋の包みを抱えていた。「お帰りなさいませ、兄様」 私が玄関まで駆け寄ると、兄様は満面の笑みで迎えてくれた。「今日は爵位授与式の礼服を作りに行ってきたんだ。仕立て屋の親父が、気合い入れて採寸してくれてな」 兄様の声には誇らしげな響きがあった。戦争から帰還して以来、兄様の功績が認められ、正式に授与式が執り行われることになったのだ。 私も心から嬉しかった。幼い頃から私を守り、育ててくれた兄様が、こうして評価されることは何よりも誇らしい。「まあ、素敵ですわ。兄様の晴れ姿、楽しみにしております」 私が微笑むと、兄様は私の頭を優しく撫でてくれた。大きく温かい手が、昔と変わらず私の髪を撫でる。「アリアも当日は出席するんだぞ。妹の晴れ姿も見せてくれ」「はい、お兄様」     ◇◇◇ 夕食の時間になった。長いテーブルの両端に、私と兄様が座る。メイドたちが料理を運び、ワインを注いでいく。温かいスープの湯気が立ち上り、焼き上がった肉の香ばしい匂いが食堂に広がった。 兄様はグラスを傾け、ワインを口に運んだ。頬がほんのりと赤く染まっている。普段はあまり飲まない兄様が、今夜は上機嫌で何杯も飲んでいた。「アリアも、祝賀パーティには出席するように。王城で盛大に執り行われるからな」「はい、お兄様」「もしかしたら、どこかの上流貴族に見初められる可能性もあるんだから、おしゃれしていけよ? どの貴族も戦から帰って来て、嫁探しに必死だからなあ」「私よりも先にお兄様が見つけないと」 私はフォークで肉を切り分けながら答えた。王城での祝賀パーティ。きっと多くの貴族たちが集まるのだろう。兄様を祝福する人々の中に、きっとダリウスもいる。 いや、ダリウスもまた功績をたたえての授与式の参加者の一人に選ばれているはず。 あの灰青色の瞳が脳裏に浮かび、心臓が小さく跳ねた。 兄様がグラスを傾け、ワインを飲み干す。そしてぽつりと、呟いた。「あいつとの交流も、これで終わりか」 フォークを持つ手が止まった。私は顔を上げ、兄様を見た。「あいつって、ダリウスのことですか」 兄様は寂しそうに笑った。グ
last updateLast Updated : 2026-01-21
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