石畳を踏みしめると、時代の重みが直に伝わってくるのを感じる。案内の時はまず出生地の話から始めることが多い。中村(現在の名古屋中村区)は粗末な家並みから一代で天下を取った人物の出発点として話題にし、幼名や身分の低さ、身を立てるための苦労を割り引かずに伝える。単なる出自の説明にとどめず、人間としての脆さと
したたかさを両方見せるように心がけている。
長浜城では、城が与えられた背景──織田家での出世過程や地元支配の仕組み──を説明する。石垣や城郭の復元と、そこに残る消えかけた刻印を指し示しながら、実務者としての
藤吉郎の手腕や地方統治の工夫を強調する。史料や遺構を頼りに、伝承と史実を分けて話すスタイルを好む。
最後に大坂城へ向かうと、権力の象徴としての華やかさと、その背後にある人間模様を対比して見せる。城の壮麗さだけでなく、都市計画や検地、茶の湯との関係まで、生活と政治が繋がる様子を伝えることで、単なる観光が一歩深まる案内を心がけている。現地に立つとき、いつも伝承を生かしつつ冷静に史実を紡ぐことを意識している。