驚いたのは、監督が変更点を説明する際に物語を単純に短くしたとは言わなかったことだ。
聞いたところによれば、まず尺の制約から叙述の順序を大胆に入れ替え、原作にある細かな調査過程や枝葉のエピソードを統合したそうだ。つまり複数の場面を一つに圧縮して、観客が感情移入しやすい流れに整えたと語っていた。私は昔の
推理小説を読みふけっていたので、この種の「圧縮」は作品の核を見失う危険もあると感じたが、監督は各省略が登場人物の動機と緊張感を際立たせるための選択だったと強調していた。
もう一つの大きな変更点として、結末の捉え方を視覚的に強化した点がある。カメラワークや音楽を通じて
ポワレの内面の葛藤を示すことで、読者の想像に頼る部分を映画としては明確に示す判断を下したらしい。たとえば『オリエント急行殺人事件』で映像的に人物の心理を描いた手法を参考にしたと言っており、私はその説明に納得した。映像化は常に解釈の作業だから、こうした説明を聞くと監督の意図が透けて見えて面白い。