文脈が哲学的か、武道的か、日常会話かで選ぶ語が変わるので、私はまず原文がその言葉で何を担っているかを見極めます。たとえば『The Book of Five Rings』のような武道・修行の文脈では、単に「落ち着いている」という訳語では力不足に感じられることが多く、鏡のように曇りのない知覚と、水のように動じない心という二重の比喩的意味を両方伝える工夫が必要です。
実務的には三つのアプローチを使い分けます。直訳的に『clear mirror, still water』と残して脚注で説明すること、意訳して『冷静な洞察』や『平静で明晰な心』のように僅かな語数でまとめること、あるいは場面に合わせて『動揺しない心』など口語的な表現に置き換えることです。それぞれメリットとデメリットがあるので、私は作品全体のトーンと読者層に合わせて選ぶのが一番だと感じています。