音楽プロデューサーがゼロからアニメ主題歌を制作する工程は何ですか？

こだわりが多い現場だと、まず“テンポと尺”で議論が始まることが実に多い。映像のオープニングに合わせてカウントやブレイクをどこに置くか、サビの落ちどころを何秒にするかで曲構成が大きく変わる。私が関わった作品では、仮音源を映像に被せて試験的に流し、監督からの指示でリフレーズを入れることが常だった。

プロトタイプ段階では参考楽曲を3〜5曲提示して方向性を共有し、そこからスタッフや演奏者をアサインする。生ドラムやストリングスを入れるか打ち込みでまとめるかは予算と納期に左右されるが、演奏感を求めるときはセッションミュージシャンを呼ぶ。歌手はデモで選考し、オーディション形式で複数案を聴いて決めることもある。録音後はミックスでボーカルの前後感を調整し、アニメのSEやBGMと干渉しない帯域へ配置する。納品物はマスター音源のほか、素材ごとのステム、TV用に短縮した尺、イントロフェードのバリエーションなど多岐にわたる。

個人的に面白いのはジャンル的チャレンジで、たとえばジャズやブラスを全面に出したい時はアレンジの勝負になる。'カウボーイビバップ'のように音楽性が作品の色を決める場合もあるので、そこを狙って制作を組むと全体の説得力が増す。時間との戦いでもあるが、細部を詰めれば詰めるほど画面とのシンクロ率が上がってくるのが醍醐味だ。

思い返すと、最初の一歩は常に企画の“核”をつかむことから始まる。監督や音響監督と話をして、作品が伝えたい感情、登場人物の内面、映像で重要になる瞬間を言語化する。私が関わったケースでは、監督のワードと絵コンテの数カットだけで曲の方向性が見えてくることが多い。テンポ感、キー感、編成の方向性（エレキ中心かオーケストラ寄りか）、歌詞に持たせる視点はこの段階で大枠を決める。

次に作曲とデモ制作。私の場合はピアノかギターでコアのコード進行とメロディを固め、仮歌を録って雰囲気を共有する。ここで参考曲を複数提示して擦り合わせ、歌手の音域やキャラクター性を想定してアレンジの仮設を立てる。アレンジが固まったらリズムトラックやベース、弦などを重ねて本チャンの音像を作り、歌入れへ。歌入れでは歌手の息遣いやフレージングを細かく指示し、必要ならハーモニーやコーラスも重ねる。

ミックスとマスタリングは映像のダイナミクスに合わせて調整する工程で、アニメのテンポやカット割りに合わせてフェーズを変えることもある。最終納品はフルサイズ、TVサイズ、インスト、カラオケ版など複数フォーマット。映像側と細かいタイミングを詰めるために“編集マスター”に合わせてオフボーカルやステムを用意することも必須だ。伝説的な例では'新世紀エヴァンゲリオン'の主題歌が作品世界と音像を強く結びつけたが、目指すのは常に作品にとって最も自然で印象的な主題歌を作ることだ。最後はスケジュールと予算に収めつつ、監督の一言で細かな調整を重ねる。これが私の実感する制作の流れだ。

歌詞とメロディで感情線をどう繋げるかを最優先に考えることが多い。映像のテーマを歌詞に落とし込むとき、視点を誰にするか（主人公、ナレーション的立場、第三者）で語り口が決まるから、私はそれを早めに確定させる作業を重ねる。詞の言葉選びはキャラクターの年齢や性格、物語のトーンを反映させ、映像の重要なセリフやモチーフを拾って象徴的なフレーズを作ることが多い。

歌手選びでは、声質だけでなく歌い方の癖や呼吸の使い方、英語の発音感なども考慮する。録音ではワンテイクに頼らず、感情のピークを何パターンか録っておくと編集時に助かる。ミックス時には、サビでの伸びを出すために倍音を足したり、語尾の余韻を切るポイントを調整したりする。作品例としては、'鬼滅の刃'の主題歌がキャラクターの感情を音で補強する良例だが、それをただ模倣するのではなく、作品固有の“声”を作るのが肝心だと思っている。最後は、その曲がアニメ本編と一緒に鳴ったときに自然に胸に残るかどうかで判断することにしている。