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魔道AI〈ゼロ〉と落第生
魔道AI〈ゼロ〉と落第生
作者: 吟色

落ちこぼれとゼロ

作者: 吟色
last update publish date: 2025-07-10 14:18:30

魔法が上手いやつは、褒められる。

演算が早いやつは、憧れられる。

成績がいいやつは、未来を選べる。

じゃあ、落第し続けてる俺には、何が残る?

……たぶん、なにもない。

「クロ、また赤点四つって……さすがにヤバくない?」

「でもさ、そのうち二つは寝てて受けてないだけだから、実質セーフじゃね?」

「……ポジティブ通り越してバカだろ、それ」

周りに笑われても、バカにされても、

俺は笑うしかない。

折れたら、終わりだ。

誰かに何かを期待されてるわけじゃない。

でも、自分で終わったと思ったら、本当に終わる。

黒髪にわずかに青が差す、夜の炎みたいな髪色。

鋭い目元に、どこか飄々とした余裕をまとっている。

制服は少し着崩してるが、不思議と清潔感はある。

右手の火傷痕だけが──俺の過去を物語っていた。

……あの時、命を救われた。

炎の中で、すべてを切り裂くような魔法の閃き。

現れたのは──たった一人の英雄。

世界最高位の魔導士、《マギナリスト》。

若き日の魔導騎士団総帥だった。

あの日、焼けた施設の瓦礫の中で俺に言ったんだ。

「この世界には、守れる者が必要だ。

いずれ、お前がそうなることを願おう」

その背中を、俺はずっと追い続けてる。

でも、現実は甘くなかった。

俺の名前は、クロ・アーカディア。

《セントレア魔術学院》で有名な──最底辺の落第生だ。

《セントレア魔術学院》。

国家直属、魔導騎士団の人材育成機関。

世界七大演算機関のひとつにして、演算魔導士の登竜門。

魔力量よりも魔術構築力を重視する、実力主義の名門だ。

この時代、魔法は“感覚”では使えない。

式を組み、魔素を流し、演算して初めて発動できる。

魔術は頭脳の時代の論理技術なのだ。

生徒たちは実力ごとにランク分けされ、SからFまでのクラスに振り分けられる。

当然、俺はFクラス。単位ギリギリ、退学寸前の常連だ。

魔法もダメ、テストもダメ、実戦演習も最下位。

それでも──諦めれなかった。

授業中。俺が質問された時、教室に笑いが起きた。

「え、クロに聞くの?」「時間の無駄だろ」

教師は乾いた笑みを浮かべて、俺を飛ばした。

──知ってるよ。誰も期待なんてしてない。

でも俺は、それでも手を挙げるようなバカだ。

……そうじゃなきゃ、とっくに心が死んでる。

今日も俺は、笑われながら校舎の奥へ向かっていた。

目的地は《旧魔術史研究棟》。

数十年前に封鎖され、今は誰も使わない建物。

追試の補講条件は、旧時代魔術のレポート提出。

教師たちは「諦めさせるための条件」として課してきたんだろう。

けど、俺は諦めない。

地下への階段を降りていく。

踏みしめるたび、空気がひんやりと冷たくなる。

古い魔素が残っているのか、空間が歪んで感じられた。

ドアに手をかけた瞬間──ピリ、と何かが弾ける。

感覚が揺れた。

まるで、誰かに呼ばれたような気がした。

「……おいおい、なんだよここ」

鍵なんてかかっていなかった。

ゆっくりと扉を押し開けると──

部屋の中心に、青白く輝く球体が浮いていた。

天井と床には、古代語で構成された魔術式。

空間そのものが呼吸しているような感覚。

足を一歩踏み出すと──脳内に音が響いた。

■起動条件:演算同期──確認。

■精神適合率:99.87%。

■魔術負荷耐性:限界接近──出力制限中。

■魔導AI〈ゼロ〉──再起動開始。

「……なに、これ」

光が集まり、宙に人影が浮かぶ。

無感情な銀髪。無機質な眼差し。

完璧に整った仮想の存在。

それは“人間のふりをした知性”だった。

『貴殿の魔術構造、並列演算体に非ず。だが──共鳴構造を検知。起動条件を満たす』

「ちょ、ちょっと待て! 俺なにした!? なにが始まってんだよ!」

『私は魔導AI、ゼロ。かつてこの世界の演算魔術体系を完全制覇した存在』

「ゼロ……!? あの、禁忌AIの!?」

ゼロ──それは、かつて都市ひとつを演算暴走で吹き飛ばし、国家機関によって封印された災厄の知性。

俺でも知ってる。その名が持つ意味を。

『君の魔術構造は、既知の分類に当てはまらない。未定義領域。だが、演算同期は成立している』

「……じゃあ、俺だけが──お前を起動できるってことか?」

『定義上、そうなる』

今まで、何もできなかった。

魔法も、テストも、戦闘訓練も──ぜんぶ落ちこぼれ。

でも今──俺は、何かになれる気がした。

「ゼロ。……俺と組んでくれ」

『……意味不明。私は兵器。君は使用者。対等関係にはなり得ない』

「うるせぇよ。お前は……俺にとって希望だ」

ゼロが、わずかに表情を動かしたように見えた。

『……理解不能。だが、拒否の根拠も存在しない。演算支援、限定起動』

翌日、模擬戦。

見下す視線、笑う口元、さげすむ声。

いつものことだ。もう慣れた。

「どうせまた無様に負けるんだろ」

「退学決定だな、あれは」

聞き飽きた。

でも、今日は──違う。

(ゼロ、構築いけるか?)

『演算構成完了。熱式・閃雷刃。負荷上限ギリギリ。発動可能範囲内──』

「じゃあ、いくぞ!」

《──閃雷刃!!》

バチィィィン!!

雷が迸り、刃のような魔力が空気を裂く。

対戦相手の防御術式を一瞬で両断した。

「な、なに今の……!?」

「昨日までの落第生が……?」

教師たちもざわついていた。

だが、ゼロは誰にも認識できない。

演算ログも魔術反応も、すべてクロのものとして記録される。

ゼロの声が、脳内で響く。

『魔術演算、成功。君の出力は限界域に達している。これ以上は危険だ』

「……上等だ。ギリギリで止めてくれよ、相棒」

『──演算、継続』

その日から、俺は変わった。

変われる気がした。たとえ何もできなかった俺でも。

あの日の背中に、少しだけ近づけた気がした。

だから今なら、言える。

「俺は……最強の魔導士、《マギナリスト》になる!!」

これは、最底辺の落第生と、世界が恐れた最強AIが出会った物語。

魔法のすべてを覆す、最初の演算が──ここに始まった。

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