劇場であのシーンを観た瞬間、画と音が一体になって胸を突く感覚にやられた経験がある。僕はその体験を手掛かりに、音楽監督が
飛翔シーンのBGMを選ぶプロセスを想像している。まず映像と物語が要求する感情を明確にすることから始めるはずだ。ワクワクや解放感、あるいは不安や孤独といったトーンによって楽器編成や和声、テンポの選択がガラリと変わる。例えば『天空の城ラピュタ』のように冒険と郷愁を同時に求める作品なら、金管と弦の明るいフレーズに木管やハープの繊細さを重ねて空間感を作るだろう。
次に実務的な段取りだ。監督とともにスパッティング(映像に音楽を当てる会議)を行い、テンポやキーポイントを決める。テンポ・マップを作ってカメラのパンやカットの変化に合わせると、音楽が映像の“飛ぶ動き”を直感的に後押しする。僕が注目するのは音の密度と余白の取り方で、高潮部分はオーケストラの厚みで押し、着地や静寂の瞬間には音を削って観客の呼吸を残す。
最後にミキシングやサウンドデザインとの折衝がある。風切り音やエンジンノイズとぶつからないように周波数を調整し、リバーブやディレイで縦横の広がりを演出する。僕はその完成形を聴くたびに、音楽監督が音と映像の“呼吸”を合わせる職人だと感じる。きれいに整いすぎない微かな生々しさが、飛ぶ場面を本当に生き生きと見せるのだ。