北極では、わざと自分を忙しくさせた。
アヴァと一緒にオーロラを見に行ったり、観測船に乗ってクジラやアザラシを追いかけたり。
スケジュールをぎっしり詰めて、空白の時間に過去を思い出さないようにした。
もちろん、イーサンが要求していたように、彼の連絡先を元に戻したりなんてしていない。
でも――アヴァはそばにいて、時々彼とシルヴィアのSNSを見せてきた。
彼らはスイス旅行を楽しんでいるようだった。
だけど、不思議だった。
イーサンって、本来SNSなんて滅多に更新しない人だったのに。
最近では、ほぼ毎日のように投稿していた。
アレッチ氷河を上空から撮った写真。
サン・ピエトロ大聖堂の塔の上から見た景色。
私はもう、彼の投稿を逐一チェックするようなことはしなくなっていた。
だけど、それでも何人もの友だちが「シンシアはなんでイーサンと一緒にスイス行ってないの?」と聞いてくる。
写真の中でイーサンの隣に映るのが、私じゃなくてシルヴィアになっていることは、嫌でも目に入ってくる。
かつて、その場所にいたのは、私だった。
それを説明できなくて、「今回はアヴァと先に約束してたから」とごまかすしかなかった。
誰かがイーサンの名前を口にするたび、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
でも、逃げるのはやめた。
この痛みは「断ち切るための禁断症状」――それが過ぎれば、私はきっと、自由になれる。
それから私たちは、丸二ヶ月、連絡を絶ったままだった。
イーサンと知り合って以来、これほど長い沈黙は初めてだった。
今まで、どんなに喧嘩しても――長くても三日。結局いつも、私のほうから折れていた。
でも今回は違った。
「時間がすべてを癒してくれる」って言葉を、私は初めて信じられた。
北極の壮大な自然の中で、私は一番辛い時期を乗り越えられた気がする。
そして気づけば、イーサンのことが頭を占める時間はだんだん減っていって、代わりに今この瞬間を楽しめるようになっていた。
――そんなときだった。
イーサンから、また電話がかかってきた。
「シンシア、お前……なんで俺に隠れて北極なんか行ってんだ?前に、一緒にオーロラ見に行こうって話してたよな?」
その声には、かすかな不安がにじんでいた。
イーサンが私に対し