『一人は、寂しい……』
「佐加江!」
テープを破き、洞窟へ入って来た青藍に佐加江は首を横へ振った。そして「大丈夫だ」と視線を交わし、微笑む。
「僕もずっと一人だった。友達の真似をして、おじさんのこと『お父さん』って呼びたかったんだ」
腰に絡みついていた手が、蟻が巣食ったようにサラサラと崩れはじめていた。天気が悪い時は今だに疼く首の傷をグッと絞められ、本気で連れて行こうとしているようだった。
「おじさんに育てて、もらって。感謝してる、大好きだった」
そろそろ限界だろうと、青藍が佐加江の手首を掴むと首にある手が一層、強くなる。
「……ッ」
うなじにきつく噛み付かれた。絞め上げる手が一気に緩み、佐加江は咳き込みながら地面に倒れこむ。そして、オメガの骨が掘り起こされた手前から二番目の穴へ黒い影が入って行った。
普段、墨色の紋が燃えるように赤い。
「私の紋は、怨霊にも効果があるのですね」
佐加江の視線の先には髑髏が、こちらを向いて鬼笛を咥えていた。
「見つけた」
四つん這いのままそこへ寄り、あごの骨に手を添えて鬼笛を取り出すと、歯列の跡がくっきりと残っていた。
「佐加江、外へ出ましょう」
「青藍、何を持っているの?」
煤けた玉を手にしていた青藍が両手で磨きあげるようにそっと撫でると、それはやがて青白く鈍色の光を放っていた。
「あの男の御霊です」
「おじさんの……」
「元はこんなに綺麗なのに、いろんなものに憑かれて汚れていました」
青藍に渡された御霊を両手で包み込むと温かく、とても懐かしい感じがした。
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