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終章⑩

Penulis: 佐藤紗良
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-26 20:00:43

駅のホームのベンチで、あと一時間は来ない電車を待っていた。金物屋で適当なチェーンを買い、鬼笛を首から下げた佐加江は青藍に寄りかかり目をつむっている。

「あの世へ早く帰りたいな」

「佐加江がそんな事を言うなんて、初めてですね」

「閻魔様と仲良くなる前にこっちへ来ちゃったから、気になってるんだ」

「そうでしたか」

久しぶりに鬼の姿になって疲れたのか、青藍は和菓子屋で大量に購入したのし梅をずっと食べている。

「あとは越乃のおじさんの研究が盗まれたとしたら、怖いなって」

「そうですね。帰ったら少し調べてみましょう」

「うん。……ねぇ、青藍」

「はい」

「僕が本当に青藍と結婚したいって思ったのは、子供の頃、最後に会った日なんだ」

のし梅の包装を開ける青藍の手を、佐加江が止めた。

「そうでしたか」

「――あの夜、目が覚めたらおじさんがいなくて探していたの。鬼治稲荷を見たら、おじさんの車が停まっていてね」

「佐加江、いつの話をしてるのですか」

「青藍も見ていたはずだよ。麻袋を頭から被せた出産を終えたばかりの人を……、お父さんをおじさんが……。今思えば、そういう事だったんだ」

「待ってください!佐加江は、それを見ていたのですか」

「うん。山には怪火が灯っていたから怖くなかった。鬼治稲荷には青藍がいると思ったし、迷わずパジャマのまま畦道を走ったんだ。あの時の青藍の横顔ってば、うまく言葉にできない僕の気持ちをそのまま表したような顔をしていてね、なんだかとっても一緒にいたくなったんだ。それがどう言う事だか良く分からなかったけど、大きくなるにつれ、悲しい時に同じ気持ちになれる人とずっと一緒にいられたらいいなって。嬉しい時
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  • あやかし百鬼夜行   終章⑩

    駅のホームのベンチで、あと一時間は来ない電車を待っていた。金物屋で適当なチェーンを買い、鬼笛を首から下げた佐加江は青藍に寄りかかり目をつむっている。 「あの世へ早く帰りたいな」 「佐加江がそんな事を言うなんて、初めてですね」 「閻魔様と仲良くなる前にこっちへ来ちゃったから、気になってるんだ」 「そうでしたか」 久しぶりに鬼の姿になって疲れたのか、青藍は和菓子屋で大量に購入したのし梅をずっと食べている。 「あとは越乃のおじさんの研究が盗まれたとしたら、怖いなって」 「そうですね。帰ったら少し調べてみましょう」 「うん。……ねぇ、青藍」 「はい」 「僕が本当に青藍と結婚したいって思ったのは、子供の頃、最後に会った日なんだ」 のし梅の包装を開ける青藍の手を、佐加江が止めた。 「そうでしたか」 「――あの夜、目が覚めたらおじさんがいなくて探していたの。鬼治稲荷を見たら、おじさんの車が停まっていてね」 「佐加江、いつの話をしてるのですか」 「青藍も見ていたはずだよ。麻袋を頭から被せた出産を終えたばかりの人を……、お父さんをおじさんが……。今思えば、そういう事だったんだ」 「待ってください!佐加江は、それを見ていたのですか」 「うん。山には怪火が灯っていたから怖くなかった。鬼治稲荷には青藍がいると思ったし、迷わずパジャマのまま畦道を走ったんだ。あの時の青藍の横顔ってば、うまく言葉にできない僕の気持ちをそのまま表したような顔をしていてね、なんだかとっても一緒にいたくなったんだ。それがどう言う事だか良く分からなかったけど、大きくなるにつれ、悲しい時に同じ気持ちになれる人とずっと一緒にいられたらいいなって。嬉しい時

  • あやかし百鬼夜行   終章⑨

    『一人は、寂しい……』 「佐加江!」 テープを破き、洞窟へ入って来た青藍に佐加江は首を横へ振った。そして「大丈夫だ」と視線を交わし、微笑む。 「僕もずっと一人だった。友達の真似をして、おじさんのこと『お父さん』って呼びたかったんだ」 腰に絡みついていた手が、蟻が巣食ったようにサラサラと崩れはじめていた。天気が悪い時は今だに疼く首の傷をグッと絞められ、本気で連れて行こうとしているようだった。 「おじさんに育てて、もらって。感謝してる、大好きだった」 そろそろ限界だろうと、青藍が佐加江の手首を掴むと首にある手が一層、強くなる。 「……ッ」 うなじにきつく噛み付かれた。絞め上げる手が一気に緩み、佐加江は咳き込みながら地面に倒れこむ。そして、オメガの骨が掘り起こされた手前から二番目の穴へ黒い影が入って行った。 普段、墨色の紋が燃えるように赤い。 「私の紋は、怨霊にも効果があるのですね」 佐加江の視線の先には髑髏が、こちらを向いて鬼笛を咥えていた。 「見つけた」 四つん這いのままそこへ寄り、あごの骨に手を添えて鬼笛を取り出すと、歯列の跡がくっきりと残っていた。 「佐加江、外へ出ましょう」 「青藍、何を持っているの?」 煤けた玉を手にしていた青藍が両手で磨きあげるようにそっと撫でると、それはやがて青白く鈍色の光を放っていた。 「あの男の御霊です」 「おじさんの……」 「元はこんなに綺麗なのに、いろんなものに憑かれて汚れていました」 青藍に渡された御霊を両手で包み込むと温かく、とても懐かしい感じがした。

  • あやかし百鬼夜行   終章⑧

    「青藍、見つからないや。……洞窟いこうか」 「ないですか、困りましたね」 「でも、確実に鬼治からだよね」 「佐加江。私たち、マジで番ですね!」 「鬼が『マジ』とか言わないの!」 「使い方、間違ってましたかぁ」 「合ってるけどさ……。青藍がこの世に毒されてチャラ男になったら困る」 最近覚えた言葉を披露して笑った青藍は庭先で目を閉じ、唇の前に人差し指を立て小さく唇を動かす。 「え……」 額に瘤ができ、それが次第に伸びていく。身体も一回り大きくなって、着ていた服がパツパツに弾けそうになっている。ぶるっと身ぶるいをした青藍は服こそ、こちらの世界のものだが鬼の姿になった。 「そ、そんな事が出来るんだ!」 「あやかしの姿から人になるのは容易ですが、逆は人の体力では消耗が激しくて。あまりしたくないのですが、先ほどから鬼笛が全く聞こえない上に、あやかしの気配もなくなったのが、どうも妙です。こちらの方が感受性が強いのでーー。コートだけは、はちきれるといけないので脱いでおきましょうね」 「やっぱり……、綺麗だよね」 「惚れ直しますか?」 「うん! ベタ惚れ。ちょっと気になる事があるから、診療所の方も見てくるね」 「佐加江、そう言うことは……」 滅多にそう言うことを口にしない佐加江には、面と向かって言ってもらいたいものだ、と青藍は佐加江が不貞腐れた時を真似て唇を尖らせ、後をついて行く。 「やっぱり」 診療所の荒れ具合は、酷いものだった。床にカルテなどが落ち、土足でそれを踏みつけた靴跡がある。金庫は開け放たれ、中は空っぽ。「敏夫の時は冷凍の保存技術が追いついていなか

  • あやかし百鬼夜行   終章⑦

    「あ……」 「やはり、ここからですね」 その時、また鬼笛が聞こえた。佐加江が吹いた時もそうだったが、鬼笛は実際には音が鳴っていない。 「すごい音。……まだ、誰か住んでるのかな」 「それはないと思うのですが」 三年以上経ったとはいえ、同じぶんだけ通った道でもある。田んぼだった場所はどこも荒れ果て、草が立ち枯れていた。その風景に物悲しさを覚えた佐加江は少し寂しくなって、青藍の小指を握りしめた。 「廃村か……。それだけしてはいけない事だったのかな。今でもおじさん、どこかで研究してるような気がするけど」 「なぜ、そう思うのです」 「だって、ここの村長の弟さんは東京にある医大の学長なんだよ。今もたまにテレビで見かけるし、研究室ひとつくらいどうにかできそうじゃない?」 「なるほど」 青藍が佐加江の手をしっかりと握ってくれた。二人の前を柔らかな光をまとった塊がふわっと通りすぎ、戯れている。そんな穏やかなあやかしの気配はちらほらとするが、人の気配は全くなかった。 「本当に誰もいない」 空は二人が住む街よりも広く、山から吹き下ろす風が木々の葉を落とし草木を揺らす。木枯らしが通りすぎていく様子に自然と足は早くなり、鬼治稲荷の前で道から手を合わせ、先に家へ向かった。 「懐かしい」 「本当ですね」 そこにはまだ、診療所の看板がある。庭にはチガヤやススキが生え、開いた窓にあるカーテンはボロボロで、廊下には大量の砂が風とともに吹き込んでしまっていた。 仏花を庭先へ置き、あの頃と同じように鍵がかかっていない玄関をあけ土間へ入ると、そこには佐加江が使っていた傘もサンダルもそのまま残っていた。 「なんだか妙な気分」

  • あやかし百鬼夜行   終章⑥

    次の休み、青藍と佐加江は早い時間の新幹線に乗り、電車を乗り継いで鬼治の隣村にある駅へと向かう路線にやっと辿り着いた。 青藍は霊力を失ったわけではない。あの世経由で祠に出ればすぐだったのだが、それでは閻魔に怒られてしまう、と律儀に人として電車に乗っていた。 思えば、青藍と旅行をしたことがない。 駅弁を買ったりおやつを食べたり、この遠出を少しだけ満喫していた。 「また、耳鳴りがする」 「近くなって来たから、良く聞こえますね」 人がまばらな車両内で、青藍の肩にもたれた佐加江は目を閉じていた。 迷子になった時の為にと、先日買ったばかりのお揃いの紺色のダッフルコートを着ている。同じ服を着ていたって迷子になったら、スマホで連絡を取り合えば良い。単に、青藍が同じ服で出かけたかっただけなのではと佐加江は思っていた。 「同じ鬼笛が聞こえるという事は、私達はやはり番なのですね」 ボソッと呟いた青藍の言葉に、佐加江は目を閉じたまま赤くなった顔をフードで隠した。 「次ですよ、佐加江。先に寺へ行きますか」 「お寺は行かなくてもいいんだ。あの洞窟へ花を手向けたい」 「佐加江、あそこは……」 「僕の命が一度、終わった場所」 「知っていたのですか」 「全部、知ってるよ。だから大丈夫」 電車を降りた佐加江は、大きく深呼吸をした。少し懐かしい匂いがする。鬼治よりも少し発展した隣村。駅舎は木造建てで、駅前のロータリーにはタクシーが何台か止まっていた。

  • あやかし百鬼夜行   終章⑤

    「音が鳴るって事は、誰かが吹いてるって事だよね」 中途半端な食事になってしまい、 近くのコンビニへ立ち寄って少し高いアイスをふたつ買った。 「鬼治の住人は隣村へ引っ越したので、そちらかもしれません。これだけ距離があると特定が難しい。あの世からなら、すぐわかるのですが」 「近くまで行けば、分かる?」 「ええ」 「次の休みにでも行ってみようか」 「しかし、佐加江……」 「大丈夫だよ。笛、取って来ないと。この音、苦手」 「あの時、天狐様が全ての村人の記憶から佐加江を消したのです。誰かに会っても、佐加江に気付くことはないでしょう。それは辛くはありませんか」 「覚えていられたら、もっと嫌だから……。お母さんとお父さんのお墓参りしたいの。ずっと胸の奥に引っかかっていて」 佐加江は神事のことをほぼ、思い出していた。両親の遺体が洞窟の中に土葬されていたことも。 「隣村にある寺に骨は引き取られたと聞いています。無縁仏として弔われているはずです」 「無縁仏か」 越乃がどうしているのかも、佐加江は気になる。 「……青藍は僕のお父さんとお母さん、知ってる?」 「もちろん。村で一番の好き同士でしたよ」 「好き同士ってわかるの?」 「ええ。見ていれば分かります」 ほろ酔いの青藍が、自転車を引く佐加江の肩を抱いて歩く。 「結婚しよう、と父上が母上へ伝えたのは鬼治稲荷の境内だったのです」 「僕と同じだ」 「血は争えない。胸のあたりがポカポカして不思議な感覚でした。……佐加江、少し昔ばなしをしましょうか」

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