侑⃞さ⃞ん⃞、⃞覚⃞悟⃞は⃞で⃞き⃞た⃞ん⃞で⃞す⃞ね⃞?⃞
確かにあなたに一切興味がないと言った。 顔も好みじゃないと。 だけど一つだけ言ってない事がある。私はあなたの演技にだけは心底惚れていた。
彼は私とは真逆の遅咲きの俳優だった。
12年前————
まだ人気絶頂だった頃に、20歳で俳優デビューした綿貫昴生と出会った。「初めまして。綿貫昴生です。」
「…初めまして。常磐侑です。」
「知ってます。常磐さんの名前を知らない人なんて、日本のどこにもいないと思いますよ。
むしろそれ、日本人じゃないかも。」事務所の後輩として紹介された彼は、穏やかな笑顔をして私を見つめていた。
まだ学生のようなあどけなさと、何にも染まっていない素朴さが滲む青年。 少しだけ緊張したような面持ちで、肩にはがっつり力が入っていた。 その初々しさを、今だに覚えている。 「常盤さんには本当にずっと憧れてました。 これからは事務所の先輩後輩として、色々ご指導の程を宜しくお願いしますね。」「あ……うん。私で良ければ。」
屈託のない顔で微笑まれ、握手を求められたけど、その頃も相変わらず不器用な性格だった私は素っ気なく返事をした。
しかも握手するのに、もたついてしまうという。 どんな役でも演じることができるのに。 私は台本のない素の自分を曝け出すのが、一番苦手だった。 「こら、侑…!ごめんね〜綿貫くん。 侑ってちょっと不器用なとこあるから、言い方は素っ気ないかもだけど気にしないでね。」当時敏腕マネージャーと言われていた佐久間《さくま》さんは評判通りの人で、こうやって私のフォローをする事も忘れなかった。
その時は昴生を不快にさせたかなと思ったのだが————「大丈夫ですよ。常磐さん。佐久間さん。
言ったでしょ? 常盤さんは憧れの女優さんなんですから、そう簡単に嫌いになったりしませんよ。」単なる忖度かなとは思っていたけど。
嫌な顔一つせず、熱い眼差しを向ける彼。 眩しい笑顔。汚れのない綺麗な人。 第一印象はそんな風に思えた。思えばあの頃から、昴生の言う事は少し変だった気がする。