Chapter: 番外編・レェーヴの隠れた恋心 第一印象は、すげえ変わった王妃だなと思った。 わざわざ俺達のいる危険なアジトに潜入して、呆気なく自分の身分を明かすし。 しかも略奪や破壊行為をやめたら、俺達の故郷を返してやると提案までしてきた。 自分が損しかしてないのに? 馬鹿な女だ。そう思っていたのに。 案の定フィシが裏切り、夜中に部屋に暗殺者を送り込んでまで俺を殺そうとして。 だけど王妃が身を挺し、俺を助けて…… 「こんな昨日、今日会った相手を守ろうと捨て身で飛び込むなんて、あんたは馬鹿なのか!」 そう言って怒鳴ればヘラヘラと笑う。 こんな変な女、見たことない。 それにめちゃくちゃ鈍い。 俺が男装した妹だと本気で思ってる。 命を助けられた。けど大恩を恩着せがましく言わない。 性悪妻とかいう噂は全部嘘だった。 相当変わった王妃。 ……何て面白いんだ! 一緒にベッドに寝転び、俺が男だと分かった瞬間の、あの時の引き攣った顔もそう。 勝手に王宮に住み着いた俺の世話をなんだかんだ焼いてくれるし。 時にたくましく、強かで、鈍くて、常にローランド王のことを考えてる。 しかもローランド王もまた…… こりゃ、付け入る隙もねえな。 そう思って諦めていたのに。 あの性悪看護師リジーの一件で、アデリンと一緒に俺達は南の町に移り住んだ。 出産に育児、共同生活。 アデリン達と過ごす時間は本当に楽しくて。 いっそこのままローランド王と本当に離婚してくれたらなあって考えたりもしたけど…… やっぱり来るんだよな。ローランド王は。 だってこの男がアデリン以外を愛するわけないだろう? 分かってたけどさ。 レェーヴン一味を率いてこの王に楯突いてみようか? なんてな。 そんな事を考えながら、
Last Updated: 2025-10-05
Chapter: 番外編・ホイットニーの願い 私はホイットニー。 このクブルク国の王妃陛下、アデリナ様の侍女だ。 アデリナ様は性悪妻で、実家の加護を盾にローランド様を財布代わりにしてるだとか、税金を無駄遣いしてるとか言われてるけど、それは絶対に違う。 「キャアアアアアッ!ホイットニー! 今日、ローランド様と目が合ったの…! あのツンとした表情、あの見下したような冷たい瞳! 堪らないわ…!カッコ良すぎて心臓が止まってしまうかと思ったわ!」 ご覧の通り。 アデリナ様はすごくローランド様を愛されていらっしゃるのです。 お顔を真っ赤にして好きな人のことを話す、とても可愛らしいお方。 私はそんなアデリナ様が大好きです。 だけどある日を境に、アデリナ様はお変わりになられた。 「ホイットニー! 私はあの男と離婚したい……!」 ……作戦を変えられたのかしら? だってあんなに好きだった方と別れたいだなんて。まるで別の人のよう。 それにアデリナ様は自分がアデリナ様じゃないと私に言ってくるのです。それも真剣な顔して。 アデリナ様。 アデリナ様……いいえ、あなたはアデリナ様です。 だって……じゃなきゃ。あのアデリナ様はどこへ行ったというのですか? 幸せになって欲しかったのです。 ローランド様は寂しい幼少期を過ごされ、愛を知らないお方だからこそ、アデリナ様に愛を教えて貰いたかったのです。 でも今は……あの方はきっと本当のアデリナ様では無いのだろうけれど、生前アデリナ様が懸命に取り組んできた事を生かし、結果的にクブルクのために動かれていらっしゃる。 悪くはありません。アデリナ様と同じくらい愛くるしいお方です。 それにローランド様は今のアデリナ様をおそらく……… こうな
Last Updated: 2025-10-04
Chapter: 番外編・ランドルフの女神 私はクブルク国内の有力な侯爵家の次男。 自分で言うのも何だが、頭がいい。 この国の王でいらっしゃるローランド・フォン・クブルク王。 ローランド王に仕えてからは、誰よりも彼を優先し、誠心誠意尽くしてきた。 早くに前王を亡くし、二十代前半で王となられたローランド王。 彼がいつも人にも自分にも厳しいのは、国の危機的情勢を考えての事である。 威厳を保ち、クブルク侵略に目を光らせているぞという周辺国へのアピールでもある。 そんなローランド王が半ば強引に娶らされたのが、マレハユガ大帝国の第一皇女、アデリナ王妃だ。 はっきり言って私も当初は、アデリナ王妃が大嫌いだった。 ローランド王を自身のプライドの為にあちこち引っ張り回し、高いものを買わせ、貶して嘲笑う。 完全なる性悪妻。お可哀想なローランド王。 癒しが欲しいであろうに。 だが……ある日を境にあの王妃は変わった。 しかも180度。というよりもう別人だ。 私が一番初めに驚いたのはまずこれだ。 アデリナ王妃はルナール一派の問題解決の際に、荒れた鉱山から金を見つけ、それを最適なタイミングで届けて欲しいと私に直接依頼をしてきた。 そんな馬鹿なと思いながらも、急いで調査を進めると…… 何と。あの鉱山には通常の倍近い金が含まれている事が判明したのだ! 何ということだ……! 無価値だと思われていた鉱山を購入したのは、この為だったのか……! 私はこれまで自分が間違っていたことを悔い改めた。 アデリナ王妃は……性悪妻と見せかけてこのクブルク国を救う、女神様だったのだと!! それ以降、私は女神様をひっそりと敬うようになった。 時々—————— 「めが…‥じゃない、王妃陛下。」
Last Updated: 2025-10-03
Chapter: epilogue.愛のために我が子を失った悲劇の王妃に憑依しましたが、何やら幸せです リジーの件以降、王宮で私の悪口を言い、責め立てていた官僚や兵、侍女達はすっかり勢いを失い、大人しくなっていた。 皆あの時は、まるで魔法にかかっていたみたいだと口を揃えて言ったそうだ。 彼らには降格や謹慎処分、減給など、罪の重さに応じて処罰が下された。 あれからリジーはサディーク国の修道院で真面目に働いているという。 東部地方の守護神となったルナール一派は、時々レェーヴと連絡を取り合い、外敵からクブルクを守ってくれている。 軍事協定を結んだアルバ達もまた、諸外国の動きを把握し、軍備やクブルク国の防衛に協力してくれている。 サディーク国では「聖女祭」という祭ができたそうで、建てられた巨大な聖女像は明らかに私だった。放っておこう。 ちなみにローランドが私を探す時に使ったという聖遺物、あの十字架は、私が触るとまたすぐ使えるようになったみたいだ。 [癒しの力を使いました 聖遺物の力が全回復しました] ………って感じで。 皆の親密度は大体安定している。 だが皆かなり数字が高い(…何で?)。 そしていつも賑やかな現場には、今日もあの人がやって来る。 爽やかな銀の髪を上品に靡かせ「氷の王」と呼ばれ、皆から恐れられていた男。 愛を知らず、誰よりも愛を求めていた人。 だがそれは最早過去の話。 「アデリナ。やっと会えたな。 今日も綺麗だ。 愛してるよ。」 周囲の男達には目もくれず、ローランドは片膝を落とし、今日も欠かさず私の手の甲にキスをした。 そして私だけに最高の笑顔と、最高の愛の囁きを送る。 今や彼の異名は「溺愛王」。 アデリナ王妃と息子のヴァレンティン王子をどこまでも愛する王と言われ、多くの国民達に親しまれている。 私が初めてアデリナに憑依したあの日。 離婚してと迫ったあの時。 誰があの最悪な出会いから、こうなることを予測できただろうか?
Last Updated: 2025-10-02
Chapter: epilogue.愛のために我が子を失った悲劇の王妃に憑依しましたが、何やら幸せです ◇ 「か、体が持たない………」 散々ローランドに求められるのは幸せなんだけれど、とにかく容赦がない。 というより回数と時間が半端ない。何であんなに元気なの?あれが王の資質!? いや、関係ないか。 「ええ?うふふ。アデリナ様ってば。 愛されていて本当にお幸せそうですね。」 今日もホイットニーは可愛くうふふ〜と笑ってティータイムの為のお茶菓子セットを用意してくれている。 「だから言っただろ。 今ベタベタしたら逆効果だって! ローランド王はお前にベタ惚れなんだ。 煽ってどーする」 ブツブツと文句を言いながら、今日もレェーヴは私の向かいの席で焼きたてのクッキーをつまみ食いしている。 「アデリナ様。いくらあの時子供が産まれたら消えると約束したからって、まさか本当に消えるだなんて。 ……全く。陛下には貴方しかいないんですから。 今後は勝手に消えたりしないで下さいね。 分かりましたか?」 その隣でイグナイトが説教を垂れ、チョコレートケーキを上品に味わっている。 明らかに方向性が違う気がする。 もうローランドの事は諦めたのかな? そう言えばイグナイトの持っていたローランドのあの写真集、今度こっそり見せて貰おうかな。 特にNo.6の、ローランドの肉体美のやつ… 「いや、アデリナ様。 もしローランド王と離婚したくなったら、その時はぜひ我がサディーク国へ! 貴方ならば聖女として、皆から大歓迎されるでしょう。」 さらにその隣にはオディロン王太子。 なぜいる? そして—————— 「アデリナ様……ヴァレンティン様、すっごく可愛いです! もし彼が少し大きくなったら、僕が剣術を教えても良いでしょうか?」
Last Updated: 2025-10-01
Chapter: そして始まるイチャイチャ!馬鹿夫婦と言われて…… 「アオイ。好きだ……」 から始まったローランドとの甘いスキンシップ。 ソファの奥に私を押し倒し、片膝を乗せて体重をかけてくる。 「ん……ローラ……ン、」 体温の高い掌が頬を撫で、やがてローランドはソファを軋ませ、私の唇にキスをした。 キスってこんなに気持ちいいものだっけ? 「はあっ……アオイ。 産後の調子はどうなんだ? どこも悪くはないのか?」 「っ、はあ……っ、大、丈夫ですよ。 癒しの力があるからかな?」 「そうか。……なら思う存分、愛し合えるな。」 「え?」 熱い吐息と伴に唇にまたキスされ、掌で頬を優しく撫でられ、そのうちキスは頬、首筋、鎖骨へと移っていった。 首筋に至ってはキスマークが付くほど強く吸われた。 熱い……どうしよう? だんだん目が覚めてきた。 「っ、はあっ……アオイ。」 「ローランド……っ。」 狭いソファの上で見つめ合い、これでもかと言わんばかりに体を密着させる。 獰猛な獣のように鋭い目をしたローランドが、心地よさそうに甘い息を吐いた。 「お前に好きだとか、愛してるだとか言われたらもう、我慢ができない。 覚悟するんだな、アオイ。」 ローランドはさっと立ち上がると、そのまま私を軽々と抱えてベッドへ下ろした。 「え?あの……?ローランド?」 「アオイ。これまでずっとお前を抱きたくて我慢していたんだ。 今夜はもう……離してやらないからな。」 ローランドの目はやはり獣のようにギラギラと鋭く光っていた。 私も顔を赤くして、ローランドの激情を
Last Updated: 2025-09-30
Chapter: 第二章:ロジータの掲げる正義私とルイスは、ジャコモの断罪に向けて本格的に行動を開始することにした。原作の知識でリーアの出自である伯爵家の家門名は特定できた。『カルヴァリオス辺境伯』だ。リーア・カルヴァリオス。それがリーアの本名だ。王都からかけ離れた辺境にあった家門だから、ルイスたちに認知されていないのは当然だ。「確か原作では、リーアの家門が王家に謀反の罪を働いたという理由で破門に追い込まれたはずよ。それにお父様は、自分の悪事が暴かれる前に『偽の王命書』を使って伯爵邸に押し入り、リーアの家族を粛清したはずだわ。唯一生き残ったリーアはお父様によって奴隷商に売り飛ばされた……」「そうか。だから王家にリーアの家門の記録が残されていなかったんだな。父上は自分に刃向かった者には容赦なかったから。つまりジャコモは王家すらも欺いたというわけだな……卑劣な男だ。」ルイスの意見は最もだ。それも、この世界の実の父親がしたことだと思うと悍ましくもある。私は何も知らずに呑気に……いつものようにランタンが灯った寝室で、私とルイスは秘密を共有し合った。「謀反扱いでリーアの家門が王国から抹消されているなら、ここで証拠を見つけるのは難しいと思うの。だから私は、お父様が秘密を隠していそうなスカルラッティ家の邸宅を調べるわ。」「それなら俺も一緒に行こう。」「いいえ。ルイスには他にしてほしいことがあるの。私が邸宅で調査をする当日、お父様の目を逸らしていてほしいの。そうね……親睦を深めたいと言って、お父様を狩猟にでも誘ってほしい。お父様も王子であるあなたの誘いは断れないはずよ。その間に私は証拠集めをするわ。」「……!分かった。じゃあその間にお前にはマルコを護衛につけよう。」「助かるわ。それなら、ルイスにはお父様のことを頼むわね。」
Last Updated: 2025-11-01
Chapter: 第二章:エルミニオは不愉快な感情を知る俺は舌打ちをし、手紙を暖炉の中に放り投げた。これだけ愛の言葉を送っておきながら、ロジータはもう俺を愛していないという。「俺にこんな手紙を送っておきながら……!あっさりとルイスに靡くなんて!」苛立ちながら俺は全ての手紙を暖炉の中に次々と投げ入れた。燃やし尽くしたかった。そうだ、これでいい。ロジータに関することを消してしまえばいい。だがふと、俺は最後に残った手紙を燃やすのをためらってしまう。《エルミニオ様———私は一生あなたを愛し続けます。私が王太子妃になったらあなたを懸命に支えていきます。》そこには、かつて熱心に俺を愛してくれていたロジータの気持ちが込められていた。変わってしまったのは俺か、ロジータか?手紙を眺めていると、脳裏に幼い頃の二人の姿が蘇ってきた。あの頃の俺とロジータはお互いに心から信頼し合っていたな。将来結婚するのを微塵にも疑わなかった。一体何がここまで二人を変えたんだ?何がこれほど俺を不愉快な気持ちにさせるのか。いや……待てよ。道から外れたのがこの不愉快さの原因なら。一度原点に帰るべきじゃないか?「そうだ……。ロジータは王太子妃になるのが決まっていた。ずっと決まっていたことじゃないか。例え俺の運命の相手が、『星の刻印』の相手がリーアだとしても。いくら俺がリーアを愛していても。予定通りに、ロジータは王太子妃になるべきじゃないのか?」そうすれば全て元通りじゃないか。ルイスに奪われる必要もないし、スカルラッティ家の権力も俺の手の中に戻ってくる。俺とロジータの関係も元通りだ。考えてみれば、なぜ争う必要があったんだ?俺の隙をついてロジータを奪ったルイスが悪いんじゃないのか?「そうだ。ルイスが悪い。あいつが俺のものに手をつけた
Last Updated: 2025-10-31
Chapter: 第二章:エルミニオは不愉快な感情を知るそれに二人が結婚式を挙げた直後から、貴族たちの動きが慌ただしくなっている。ユリには中央貴族たちを中心に、ダンテには地方の領主たちに不審な動きがないかを探ってもらっている。スカルラッティ家の後ろ盾を失った今、四方八方に気を配っておかなければならない。いつ弱点を狙われ、王太子の座を奪われてしまうか分からないからだ。「やはり第二王子派の動きが活発になっているようですね。ここぞとばかりに、ルイス様を王太子の座に押し上げようと狙っているようです。」ユリが調査報告をしに執務室を訪れた。その顔はどこか物憂げだ。「やはりそうか。今後も注意深く見張っていてくれ。それで、ルイスやロジータに何か動きは?」「いえ、今のところ特には。」「変だな。そろそろルイスが本格的に何かしてきてもおかしくないのに。」腹黒い俺の弟、ルイス。これまで俺の後ろで従順なフリをしていたが、ついに本性を表した。あいつは俺の婚約者であるロジータを奪ったのだ!スカルラッティ家の後ろ盾を得るために!だが……予想に反してルイスが表立って何かを仕掛けてくるということはなかった。「まさか本当に恋愛結婚だとでも言うのか……?は!笑わせるな!」俺は思わず、机の上にあった未記入の羊皮紙をグシャリと握りつぶした。そんなはずない。心臓を突き刺されたあの瞬間でさえ、ロジータは俺に愛を乞うていたじゃないか……!「エルミニオ様。今宮廷では、二人のラブロマンスが囁かれています。“王太子”に裏切られたロジータ嬢、ルイス殿下によって真実の愛を知る。または、ルイス第二王子とロジータ第二王子妃は初夜の日ずいぶんと激しく愛し合った……」ドン!と俺は机を激しく叩いた。「そんな話は聞きたくない!」俺が不機嫌になるとユリは
Last Updated: 2025-10-30
Chapter: 第二章:エルミニオは不愉快な感情を知る宮殿から馬車を走らせると見えてくるのは、リーアが寝泊まりしている森の離れだ。名目上は王族専用の狩猟小屋として扱われているが、秋から冬にかけては滅多に使われなくなる。見た目は丸太小屋だが、中は案外広々としていて大きな暖炉もある。少しでもリーアが自分のものだと感じたくて、数年前から彼女を囲い込んでいる場所だ。「エルミニオ様。」パチパチと燃える暖炉の前でリーアが熱っぽい瞳で俺を見つめる。長くて美しい銀髪が俺の手の中でさらっと揺れた。「リーア。今夜も君はきれいだ。」このところ不愉快なことばかりが続いて俺は苛立っていた。だからリーアを抱けばこの感情も消え去るのではないかと考え、今夜もこの場所へ足を運んだ。彼女も俺がここへ連日通うのを分かっていたようで、羽織の下は艶っぽいシュミーズのようなものを着ていた。胸の隙間から白い肌が見える彼女を引き寄せて、キスをした。「ん……。」柔らかい唇。リーアが気持ちよさそうに小さく震える。ぐっと彼女の細い腰を引き寄せる。いつもならこうすれば嫌な出来事も忘れることができた。それなのになぜだ?「エルミニオ様?どうしたんですか?」キスを止めた俺をリーアは不思議そうに見つめた。このままいつもみたいに押し倒して彼女を隅々まで味わい尽くしたいのに。俺の心はなぜか目の前のリーアに集中できずにいた。目を閉じるとあの金髪が浮かんでくる。ロジータのあの挑発的な碧い瞳が。なぜあんな女が……。だが、あの夜からだ。俺は思わずリーアを強引に引き寄せて胸元に顔を埋めた。集中しろ。俺が愛しているのはこの女だ。俺と同じ刻印を持つ、純粋なこの女だ。それなのに頭にちらつくのはあの舞踏会の日、テラスでルイスと踊っていたロジータの姿。まるで冬の精霊のようだった。いや、だからさっきから何を考えている!ロジータとルイスが俺を陥れようと企んでいるのは分かっている。いや、ルイスがスカルラッティ家の権力を手にするためにロジータを丸め込んだ可能性も。だがあの二人は本当に結婚してしまった。結婚式ではルイスに騙され、向かった会場はもぬけの殻だった。せっかくダンテに頼んだ妨害工作も何の意味もなかった。あの二人は俺を侮辱し続けている。本当に許せない!父上の王命でなければあの二人の結婚など破壊してやったのに……!「エルミニオ様?
Last Updated: 2025-10-29
Chapter: 第二章:ルイスが心に思う人それにロジータはとある重要な話を打ち明けてくれた。原作で知ったというこの世界の真実を。「ルイス。よく聞いて。私のお父様はリーア・ジェルミの家門を破滅させて、彼女を奴隷に落とした張本人よ。」「何だって?それは本当か!?」衝撃の告白だった。というのも、ずっとリーアの出生についての調査が滞っていたからだ。以前の俺は少しでも彼女の役に立ちたかった。だがかつてリーアくらいの子供がいて、破滅に追い込まれた家門をなかなか絞ることができなかった。過去にヴィスコンティでは貴族間でいくつもの争いが起きており、この何十年かの間にたくさんの家門が消えていた。争いに巻き込まれたり、結果的に国家への反逆だとみなされた家門は容赦なく潰された。さらにそういった家門の記録が抹消されてしまったことが調査をさらに難航させていたのだ。「この件で、私はあなたに責められてもおかしくないと思っているわ。それでね、ルイス。あなたには悪いのだけれど、私、いっそのことお父様の悪事を暴こうと思っているの。」ロジータの声にはいつもの元気がなかった。しかし、それもそうか。この世界の父親であるジャコモの悪事を俺に打ち明けているのだから。「スカルラッティ公爵の悪事を?」「ええ。今宮廷では私たちのよくない噂が流れているというでしょう?それに私のお父様についても悪い噂も。お父様がリーアの家門を破滅させ、彼女を奴隷にしたのは真実なの。原作ではやがてお父様の罪は次々と暴かれていくわ。そうなったら私だけでなく、私の夫になったルイスまで悪く言われてしまうわ。それならいっそ私の手でお父様の悪事を暴いてしまおうと思ったの。」どこか辛そうにロジータは唇を噛み締める。「ロジータ。お前は本当にそれでいいのか?父親のことを悪く言われるのだぞ。」心配してロジータに近づくと、碧い瞳が俺をじっと見つめた。「私のことは構わないわ。けれどもしそうなったら、あなたも悪く言われるかもしれない。それにスカルラッティ家の権力に執着している陛下が少し心配だわ。けれどこれは今の私たちの状況を変えるのに必要なことだと思うの。リーアにひどいことをしたお父様の悪事を隠したまま、平和になんて暮らせないわ。」「ロジータ。お前ってやつは……。」「ごめんね。ルイス。これは一種の作戦でもあるけれど、同時にそうする
Last Updated: 2025-10-28
Chapter: 第二章:ルイスが心に思う人ロジータに関して驚くことはまだある。後から聞いた話だと、俺は先日、原因不明の昏睡状態に陥ったという。確かにあの日は久しぶりに父に仕事を任され、外交で使節団を迎えるのに忙しかったが……俺にはその時の記憶がない。ただロジータが、アメリアたちに父と治癒力を持った神官を連れてくるようにと頼んだらしい。だが俺にはなぜか神官たちの治癒力は効かなかった。俺が『禁忌の治癒力』を使ったのはロジータ、父、アメリア、マルコしか知らない事実だ。だから神官たちにもなぜ俺が倒れたのか、理由が分からなかったそうだ。あくまで父は事実を隠し通したらしい。あの時たぶん俺は、生死の境を彷徨いながらまたいつもの夢を見ていた。「お願い、死なないで。私をひとりにしないで。」そこにいたのは例の黒髪の女性だった。彼女は泣き腫らした目で俺を見つめていた。「泣かないで。」そっと彼女の柔らかい頬に触れた。……泣かせたくないな。名前も分からないのに、俺は確かにその人を愛していた。だが彼女はリーアじゃない。じゃあ一体誰なんだ?ずっと胸が苦しくて、底の見えない暗闇に飲まれていく感じがした。「ルイス、ルイス……!しっかりして!」だけどそこにロジータの力強い声が響いた。さっきまで苦しかった痛みが泡のように消えていく。俺の刻印が淡く光り、ふと見上げるとロジータの胸元が服の上からかすかに光り輝いていた。いつも俺がするみたいに、ロジータが俺の両手を握りしめていた。ロジータから不思議と温かい力が……「……う……、ロジータ?」「ルイス……?」黒髪のあの人みたいに、ロジータは目を真っ赤にして泣いていた。だけどこっちの方がより真実味があって。申し訳ないけど、何だかロジータが可愛く見えて仕方なかった。俺は手を伸ばし、ふとロジータの前髪を撫でた。「どうしたんだ?そんなに深刻そうな顔をして。」「ルイス……!良かったわ!本当に良かった……!」彼女は思い切り俺に抱きついてきた。やはりロジータはすごく柔らかい。それに薔薇のようないい匂いがする。気づけば俺は泣いているロジータを抱きしめ返していた。いつからだったのだろう。こうやってロジータを腕に抱くと、幸福な気持ちを感じるようになったのは。「ルイス、もしかすると私にも『治癒力』が使えるようになったかもしれない。」改めて
Last Updated: 2025-10-27
Chapter: ※人気俳優に溺愛されています〜after story〜二人の未来について けれど、私と昴生はまさに今、遅い夏休みを取って、余暇を楽しんでいた。 忙しいプロダクションの業務は、優秀な副社長の佐久間さんに任せているから、何の心配もない。彼には悪いけど。 私達は相変わらず仲良しで、あの家のオープンテラスから芝生の広い庭を眺めていた。 「ママー、パパー。」 私と昴生を呼ぶ小さな愛娘。 テラスにいる私達を見つけて、テクテクと歩き、段をよじ登ってきた。 庭には小さなプールが張ってあり、大きなシベリアンハスキーがいて、庭を駆け回っていた。 洗濯物が風にはためき、娘の遊具があちらこちらに散乱している。 慣れた手つきで昴生が娘を抱えて微笑する。 「歩夢《あゆむ》〜は元気だなー。」 「ふふ。誰に似たのかな。」 昴生は愛娘と頬擦りしながら私の方を見た。 「誰だろうね。そうだ、分かった。 …俺の可愛い奥さんだな。」 「も、もう!」 「ははは。侑さん、赤くなる癖は抜けないんだね。 また、そこが幾つになっても可愛いんだけどね。」 相変わらず昴生は、今日も昔と変わらないイケメンぶりで、私を揶揄ってくる。 「昴生だって…相変わらずカッコいいよ。」 「え〜本当?それ嬉しいな。本気で。じゃあ侑さん、今すぐ俺にキスしなきゃね。」 「ええ〜、娘が見てるのに?」 「大丈夫、歩夢の目は一瞬俺が塞いでおくから。ね?早く。」 「もー…しょうがないなあ。」 相変わらず私は昴生の手の上で転がされ、愛おしく、幸せな日々を送っている。 愛する夫と、愛する娘。大きな犬がいる家。 ここに幸せがいっぱい詰まっている。 今私は、昔は知らなかった、幸せな人生というものを謳歌している真っ最中だ——————。※本編・after story完結です。
Last Updated: 2025-09-06
Chapter: ※人気俳優に溺愛されています〜after story〜二人の未来について 結婚式は盛大に行われた。 本当に天気も良くて、何もかもが私達の結婚を祝福してくれているみたいだった。 憧れのチャペルで私と昴生は愛を誓いあった。 神父を呼んでやるあたり、かなり本格的に。 私達の誓いには「健やかなる時も」ではなく、「病める時も」の方がしっくりとくる。 これまで本当に色々あったけれど———— 「誓います。」 「誓います。」 その時ふと、これから先の、二人の明るい未来のイメージが見えた気がした。 私達ならどんな困難があろうと、きっと乗り越えていける。そんな予感がした。 それでも、もし万が一。 この先昴生に、万が一、何か耐え難いほどの困難が訪れたとしたら————その時私は、そっと彼の隣にいよう。 昴生が何かに傷つけられて、心が壊れそうな時。 それ以上壊れないように、側で傷を癒そう。 寄り添って、対話しよう。 どんなに拒まれても諦めずに、力になれるよう努力しよう。 あの時、昴生が私を無性の愛で支えてくれたように。 私もまた、昴生を愛してるから、そうでありたいと願う。 「おめでとう〜!」「おめでとう、侑さん!綿貫さん!」 「おめでとう、侑ちゃん、昴生!」 鳥飼さんに、佐久間さん。 事務所の先輩後輩達。俳優仲間。米本さん。 我妻監督に、その家族。お世話になった映画のスタッフ。結局、両親は呼ばなかった。 それに変装したキャスリンも祝福で手を叩いてくれていた。 「侑、コーセー、おめでとう!悔しいけどお似合いよー!」 誰よりも熱く、誰よりもユーモラスな祝福に、私も昴生も顔を見合わせて、笑い合った。 ねえ…渉。見てるかな。 ありがとう。貴方が私にこの縁を繋いでくれたんだよ。 貴方を救えなかった私を、今だけは許してね。 その分
Last Updated: 2025-09-06
Chapter: ※人気俳優に溺愛されています〜after story〜二人の未来について 「あ……はあ。だ、だめ。」 「何が駄目なんです?侑さん。……っ、俺的にはいい眺めですけど。」 その夜、さっそく私は昴生にお仕置きされていた。 今夜はやっと二人きり。早めにご飯を済ませて、お風呂に入って…。 嬉しかったけれど、やっぱり・・・これが待っていた。 二人の寝室は広く、大きな窓、ドレッサーやクローゼット、軽く腰掛ける椅子もある。 薄く暗くついた照明が、私のほぼ裸の姿を映し出していた。 「俺、本気で嫉妬したんで」 「でも、あれ、私のせいではなくない?」 「いえ、侑さんのせいです。侑さんがあまりに魅力的だから悪いんです。…っ、はあっ。」 言っている事は荒々しいのに、昴生は顔を熱らせ、甘い息を吐いていた。 「う、ん……っ、い、これ、深い……」 今夜はお仕置きなので———私が昴生の上に乗り、さっきから腰を沈めたりして律動を繰り返している。下着がずり落ち、下から昴生にそれをじっくり見られて変な気分だ。 「これがお仕置き?…んんっ、はあっ、」 確かに格好は恥ずかしいけど…私だって気持ちいい。 だからこそ、昴生のいうお仕置きってやっぱりよく分からない。 淫らな姿の二人。淫靡な音が室内に響く。 私の下に、胸板が厚く、腹筋が割れた立派な昴生がいる。 甘い声で…私が動くたびに、気持ちよさそうに顔を歪める。 だがしかし、あまりにも私がゆっくり動きすぎたらしく、昴生に我慢の限界が。 眉間や首筋に青筋を立て、私の腰を掴んで、上下に激しく揺さぶり始めた。 「侑さん、っ、すごく気持ちいいです。」 「あ、それ!だめっ昴生…は、激しっ…」 「はあ。侑さん、侑さん、侑———愛してる。」
Last Updated: 2025-09-05
Chapter: 人気俳優に溺愛されています〜after story〜愛するということ 成田国際空港。———私達は目張りのあるレンタカーを借り、俳優組は怪しい変装をして、キャスリンを見送りに来ていた。 運転席に佐久間さん、助手席に昴生。 後部座席に私、キャスリン、キャスリンのマネージャーという変な組み合わせ。 ちなみに鳥飼さんはマネージャーの仕事で、お留守番だ。 「キャスリンさ〜ん!楽しかった〜! またいつかお会いしたいです〜」 と、キャスリンとの別れを心底惜しんでいた。 さすがに空港の中まで行くと大騒ぎになるので、空港内の駐車場の中で別れの挨拶をする事にした。 「あー楽しかった!本当に帰りたくなくなっちゃう! 侑、今度はアメリカにも遊びに来てよ、ね?」 「はい。分かりました、キャスリンさん。」 「もー、堅苦しいわね!でも、そんな侑も好き!」 キャスリンがバイである事は別に気にしないけど、狙われてる感があるのはちょっと警戒している。 「行く時は俺も一緒ですけどね。」 「ちょっと!コーセー!二人できたら、どちらともイチャイチャできないでしょ!?」 相変わらずキャスリンはキャスリンだった。 最後は握手を求められて——— 「侑、私達はもう友達よ! コーエーに思いなさい。この天下のハリウッドスター、キャサリン・カヴァデイルが貴方の友達になったんだから。」 「ふふ。ありがとう、キャスリンさ… キャスリン。」 そう言った途端、後部座席にいた私は隣にいたキャスリンに腕を引かれて、「チュ」っとキスをされてしまった。軽めだったけど。 「うふふ!侑の唇、貰っちゃった〜!」 「キャスリン・カヴァデイル! それはルール違反では!?」 助手席にいた昴生が本気っぽく怒り、キャスリンはきゃあ!と言いながら楽しそうに車を降りた。 「キスくらいは許してよ!コーセー! それじゃ、ま
Last Updated: 2025-09-04
Chapter: 人気俳優に溺愛されています〜after story〜愛するということ 昴生と二人、ベランダに出た。 この辺りは閑静な住宅街だ。夜の静寂に混じって、微かな風が吹いてくる。 少し火照った顔で、昴生は不満を口にした。 「何で皆、我が家に集まるんですかね。」 「ふふ。皆昴生を慕っているからだよ。」 「理由は、俺だけじゃないと思いますけど。」 私は改めて昴生に頭を下げる。何だか申し訳なくて。 「…昴生。ありがとう。母にお金を貸してくれて。相当な金額だったのに。」 私がそう言うと、突然、昴生がこちらを真剣に見つめ返した。 「侑さん。さっきは、侑さんのお母さんなのに、冷たくしてしまい、ごめんなさい。 そして…もしも侑さんが望むなら、結婚式に招待してもいいんですよ?」 「母を?」 「ええ。お父さんでも構いません。侑さんが望むなら、今ならまだ間に合いますから。」 昴生の黒髪が風に揺れる。 私のお母さんもお父さんも、招待リストには載せてなかったのに。 とっくに二人とは縁が切れたとばかり。 普通の娘なら許せていただろうか。 普通の娘なら、結婚式に来てと… その瞬間、昴生の逞しい手が私の長い髪に触れた。 「侑さん。無理にいい娘をやらなくてもいいんですよ。」 「え?でも、自分の親を招かないなんて。」 「さっきキャスリンも言っていたじゃないですか。家族って言うのは、血のつながりだけじゃないって。 辛い時にそばに寄り添ってくれる人を、本当の家族と言うのだと。 侑さん、俺があなたの家族になります。」 髪に触れる昴生の眼差しが熱い。 こんな風にいつも昴生は私を、情熱的に、躊躇いもなく見つめてくれる。そんなところも… 「侑さんが辛い時は、俺が支えます。 苦しみは一緒に背負います。 楽しいことは二人で分け合いましょう。 二人で幸せになりましょう? 恋人から夫に。家族に。 俺が侑
Last Updated: 2025-09-04
Chapter: 人気俳優に溺愛されています〜after story〜愛するということ 「侑!あなたもっと、ビシッと言ってやれば良かったのに!私を甘く見ないでって! しかも何なの〜!お金の話を終えたとたん、帰るとかありえな〜い!」 どうしてキャスリンが酔い潰れてるんだろう。 しかも私と昴生の新居で。 この惨状は一体…… 「侑さん〜、そうですよー!ずっと侑さんが苦しんでいた時は知らんぷりで、自分が苦しい時だけ頼ってくるなんて…ブツブツ」 鳥飼さんも私が作った料理を勢いよく食べ、お酒をたくさん飲み、いつもの事ながら酔っ払っている。 「も〜!まさかキャスリン・カヴァデイルとこうして食事する事になるなんて! 私ってやっぱりついてるわ〜!この仕事していて本当に良かった!」 「うーん!和食サイコウ!」 米本さんに、キャスリンのマネージャーもすっかり酔って、上機嫌だ。 あの後、おかずが足りず、急遽私と米本さんの二人で増えた人数分の食事を用意する事になった。 私はリクエストにあった通り、昼と同じ照り焼きチキン、和風つくしの食事を用意。 米本さんは色々アレンジを効かせ、家事代行サービスならではの、まさにプロのご飯を作ってくれた。 皆それを食べているうちに酔っ払ってしまった…というわけなのだが。 「キャスリンさんって、侑さんのお母さんの事、何か知ってるんですか?」 お酒に強い昴生が、向かい側に座るキャスリンを怖い顔して問い詰める。 「そう言えばそだね。キャスリンさん、あなた、私の事を何か知ってるの?」 キャスリンが、ああやって母をバッサリ切り捨てる理由は何だったんだろう? 何だか母に怒っているようにも見えたし。 「…調べたのよ。ロサンゼルスで初めて二人に会った夜に。 どうしても悔しくて! 私の大好きなコーセーのハートを奪った侑は、一体どんな人なんだろううって!」 キャスリンは顔を真っ赤にし、半ばキレ気味に私の過去などを調べたと、暴露した。 その事に対し、なぜか昴
Last Updated: 2025-09-03