Chapter: 第10話:ライバルの男契約書を交わすと、またふと、朔夜の刺すような視線を感じた。だが、今度は気づかないふりをする。「なぜあなたが、鷹司ホールディングスの芸術投資に関わりたがるのか、理解できない。こんな情報を流してまで……」彼は低い声で口を開いた。抑えた調子だが、その奥に鋭い刃を秘めている。「理解できなくても構いません。私の目的は意外とシンプルなんです。……純粋にビジネスに関心があり、利益を得たいから、とでも言っておきましょう。」そう答えれば、朔夜はやはり不満げに唇を尖らす。――突然現れた女。――会社の基盤を揺るがすほどの情報を携えた。――目的は不明、だが一歩一歩確実に迫る。彼の目には、間違いなく私は危険な存在として映っている。実際、鷹司ホールディングスにとって不利な証拠を握っているのは、偶然ではない。あらゆるものを駆使して、三年前のファンド事件を徹底的に調べたのだから。朔夜、この会社、誰かに狙われているわよ。そんな私の意思とは無関係に、粘着質な視線がいつまでも肌にまとわりつく。「それで、次はいつお会いできますか?」とにかく必死に話題を振って、彼の目線から逃れた。……なぜ、そんな風に見つめるの?まだ二回しか会ったことのない“光咲”を。それが、なぜかとても不愉快だった。理由は、この男が――かつて私の弁明に耳を貸すことなく、自らの手で私を深淵へ突き落とした張本人だからだろう。……だが今は、感情に流されるわけにはいかない。とにかく、朔夜を含めた
Last Updated: 2026-01-31
Chapter: 第9話:手札は少しずつあの日以降、朔夜に会うのは久しぶりだった。オークション会場で名刺と、連絡先を交換し、今こうして私は鷹司ホールディングスにいる。日本でも最大手の、複合企業体。鷹司一族が経営するグループの本社。悠然と聳え立つ巨大なビル。まるで、揺るぎない権力そのものを象徴しているかのようだった。つい三ヶ月前まで、ここで私が朔夜の秘書をしていたなんて、どこか信じられない。そして今――「月島光咲」という名を名乗り、私は再びこの場所に足を踏み入れていた。すれ違う社員の中には、見知った顔も。――でも、誰も“私”に気づかない。私は歩みながら、さりげなく彼らの表情を窺った。この中にも、私を裏切った人がいるんだろうか?誰もが、私の容姿に目を奪われた顔をする。特に男性社員の目線は分かりやすかった。確かに、光咲は振り返りたくなるほどの美人だ。凛音より背は低い。それに垂れ目で、始めは頼りない見た目だったが、磨けば変わる。髪は清楚感のある、黒のミディアムヘアにし、化粧は強い女性を演出するために、少し濃くし、服装はブランド品に。常に優雅さを保っている。私は歩みを整えながら、静かに前へ進んだ。豪華ホテルのようなエントランスホールから、一度地下駐車場に降りて、専用のエレベーターで一気に上階まで駆け上がる。つまりこのエレベーターに、他に社員が乗り込んで来ることはない。案内した秘書の女性が、頭を下げた。この女性は、私がいた三ヶ月前にはいなかった。「しばらく、こちらでお待ち下さい。」応接室。彼のオフィスではない。……いまの私はそこへ「迷いなく入る
Last Updated: 2026-01-29
Chapter: 第8話:約束芳美さんは、心配そうに私の顔を覗き込む。 彼女の視線は穏やかで、どこまでも節度がある。「俺は深瀬新といいます。こちらは、家の家政婦で、芳美さんです。」 新たちから、それぞれ軽い自己紹介を受ける。でも、彼と同様、彼女もまた“私”には気づかない。 当然よね……彼女にとって私は、たまたま倒れ、御曹司に連れられてきただけの、素性不明の女にすぎない。 こんなにも近くにいるのに、完全に「他人」として扱われている。 またそれが、寂しくもあり、時々胸を締め付けた。「私は月島光咲と言います。」わずかな隙を見計らい、私は名刺を取り出し、新に自分の身分を明かした。「これは……?」彼は一瞬視線を落とし、名刺に目を通すと、わずかに眉を上げた。 「美術品のプライベートアドバイザー、ですか?」 聞き慣れないのか、新が物珍しそうな顔をした。 「はい。と言っても、つい最近始めたばかりですが…… 主に資産家の方に、美術品の専門知識などをアドバイスする仕事です。」 「なるほど。全く聞かないわけではないですが、珍しいお仕事をされているんですね。」名刺を見つめながら、新が感慨深そうに頷く。「美術品が好きな友達が身近にいるので、興味はあります……もしかしたら、改めてご紹介できる機会があるかもしれません。」 考えるまでもない。それが誰を指しているのかは、はっきりしていた。その時ふと、芳美さんは思い出したように「お茶を淹れますね。」と、奥に備え付けられているカウンターキッチンに向かった。 急に二人きりになり、しばらく静まり返る。が、先に口を開いたのは私の方。 「その、何から何まで、ありがとうございました。」私はそっとまつ毛を伏せ、やわらかく、けれど感情を押し殺すように声を整えた。「ここ最
Last Updated: 2026-01-29
Chapter: 第7話:変わらない御曹司懐かしい匂いが、胸の奥を強く刺激した。温もりを残した木の香り。乾いていて、どこか安心させる空気。——ここは。かつて私と新、朔夜の三人で、何度も休日を過ごした場所だった。深瀬リゾート株式会社のCEOでもある新は、あちらこちらに旅館や別荘、リゾートホテルなどを持つ、れっきとした御曹司である。名門校のほど近く、山々に抱かれるように建つモダンな邸宅。外観は控えめで静か。けれど一歩足を踏み入れれば、そこは別世界だった。内部は豪華なラグジュアリー・ログハウスである。冬の山景色をそのまま取り込む開放的なリビング。北欧のビンテージ家具と、無垢材のテーブルが置かれ、中央の壁際には大きな暖炉もある。暖炉には、まだかすかな余熱が残っている。昔はよくここで、三人で笑い合い、様々なことを語り合った。何も疑わずに未来を信じていた頃の——居場所。……それなのに。今の私は、その「思い出の場所」に、素性不明の女として連れて来られた。かつての名前も、立場も、居場所も失ったまま。まるで、ここに足を踏み入れる資格すらないかのように。(……皮肉ね)変わったのは、人生だけじゃない。私はもう、ここにいた“私”ではなかった。あの時――新は、「倒れた」私を一切の躊躇もなく抱き上げた。まるで私の身体が、重さなど持たないかのようにごく自然と。その瞬間、はっきりと感じてしまった。彼の胸の温度や、規則正しい呼吸のリズムを。その後、新は、意識のはっきりしない私を車で近くの病院へと連れて行った。診察した医者は、私に『軽い貧血』だと告げる。あまりにも都合のいい診断だった。結果的に疑わ
Last Updated: 2026-01-27
Chapter: 第6話:幼馴染 昨日のオークションから一夜明けた。とにかく、やるべきことはやった。 後は朔夜からの連絡を待つのみ。時間が空いた私は、事前に調べておいた自身の墓へと足を運んでいた。墓前に立ったその瞬間――私は、確かに自分が死んだことを実感してしまう。墓石に刻まれている名は「高遠凛音」。人目につかない、山の中腹――冷たい風が木々を揺らすだけで、墓地には静けさが広がっていた。 ここは高遠家の墓所ではない。ましてや、朔夜の家とも無関係の場所。最初からここは、人々に記憶されないために選ばれた場所なのだと気づいた。「そう――。さすがに両親も、私の存在を隠したかったのね。」遺骨を引き取ったのは私の両親だと聞いた。 事故直後の遺体は、かなり損傷していたと……死んでまでこんな扱いなのかと、思わず自嘲する。けれど分かっている。実の両親も、わざとこの場所に納骨したわけではないだろう。恐らく彼らは、そうせざるを得なかったのだ。 凛音は横領を働いた挙句、事故死したとされている。「婚約者を裏切った女」。「最低な犯罪者」。世間からそう批判されている娘の遺骨を、先祖代々の墓に納めるのには抵抗があったのだろう。 周囲から、もしくは親戚からの反対があったに違いない。不思議と涙も出なかった。 まるで感情が死んでしまったかのように。 唯一あるとすれば、静かな怒りだけ。なぜ罪を犯してもいない私が、こんな目に遭わなければならないの?私を地獄に突き落とした犯人たちは、今なお、何食わぬ顔で生きているというのに。 ――しかし、よく見ると、墓には比較的真新しい花が生けられていた。 全く手入れがされていない、というわけでもなさそうだった。「これも、両親かしら……。」そっと息を吸い込む。 高遠物産の社長である父は今、一体どんな思いをしているだろう。体が弱い母も……。私と朔夜の婚約は、鷹司ホールディングスと、長年付き合いのある高遠物産との間で決められた、いわゆる政略だった。半ば、まだ若くて力が及ばない朔夜のために、婚約を通して両親が快く手を貸してくれたのだ。 二人は、私が高校時代から朔夜のことが好きなのを知っていた。 そんな私たちを、彼らは温かく、心から応援してくれていたのに。朔夜。そんな両親の善意さえ踏み躙り―― あなたも、事件に関与した一人だというのなら、絶対に容
Last Updated: 2026-01-25
Chapter: 第5話:ビジネスパートナー オークションが小休憩に入ると、私は朔夜にゆっくりとした口調で声をかける。「あなたは、鷹司ホールディングスの、鷹司朔夜さんですよね。よければ私と――」言い終える前に、彼の冷淡な声がそれを遮った。「悪いが、個人的に女性と付き合うのは控えている。」距離を感じさせる口調で、容赦はなかった。 私が名刺を出しても彼は受け取らず、ただ前方へ視線を移した。 まるで、私など最初から存在していないかのように。――やはり、そういうこと。 さっきは興味を示していたのに、燈が現れた途端、彼は即座に高い壁を敷いた。彼にとっては――燈の存在が何よりも最優先なのだ。昔も今も。でも、いいわ、あなたがその気なら。 あくまで、私は余裕のある姿を見せる。焦りは悪手だ。この間も、朔夜と燈は、次々と訪れる有名な資産家や著名人たちとの雑談に追われていた。 挨拶、持ち上げ、探り合い――こうした場ではお決まりの光景。一方の私は、身動き一つせず、静かに席に座っていた。 まもなく、中央ステージの大スクリーンが一気に明るくなった。 最初の作品情報が映された瞬間、私は微笑む。出来すぎるほどの偶然だ。 続く二点目も、まさに彼が好む作風だったから。予想通り、朔夜がすかさず手元のパドルを掴んだ。「その作品は、やめておいた方がいいですよ。」声は低かったが、彼には十分聞こえたはずだ。 朔夜の動きが、ぴたりと止まる。「――理由は?」彼がようやく私の方に顔を傾けた。 だがその視線は冷たく、じっと計るように私を見ている。 それらを冷静に受け止めつつ、私は淡々と、だが決して怯むことなく告げた。「これは――鷹司ホールディングスを狙った罠です。」空気が一瞬で凍りついた。「……何を言ってる。」彼の声は低く、威圧感を伴っていた。 しかし私はすぐに答えず、視線をスクリーンに戻し、映し出された作品を指し示す。「よく見てください。あの作品の制作年代と、サインの様式が一致しません。 彼のカタログ・レゾネを参照にすると、この時期の作品には技法の変換が見られますが、あの作品のマチエールは、その後の様式を模倣しようとして、失敗しています。 サインはその決定的な証拠です。」かつて私は、朔夜が懇意にしている美術商の先生と、二人が円滑な関係を築けるよう努力していた過去がある。朔夜のために彼に気
Last Updated: 2026-01-24
Chapter: 番外編・レェーヴの隠れた恋心 第一印象は、すげえ変わった王妃だなと思った。 わざわざ俺達のいる危険なアジトに潜入して、呆気なく自分の身分を明かすし。 しかも略奪や破壊行為をやめたら、俺達の故郷を返してやると提案までしてきた。 自分が損しかしてないのに? 馬鹿な女だ。そう思っていたのに。 案の定フィシが裏切り、夜中に部屋に暗殺者を送り込んでまで俺を殺そうとして。 だけど王妃が身を挺し、俺を助けて…… 「こんな昨日、今日会った相手を守ろうと捨て身で飛び込むなんて、あんたは馬鹿なのか!」 そう言って怒鳴ればヘラヘラと笑う。 こんな変な女、見たことない。 それにめちゃくちゃ鈍い。 俺が男装した妹だと本気で思ってる。 命を助けられた。けど大恩を恩着せがましく言わない。 性悪妻とかいう噂は全部嘘だった。 相当変わった王妃。 ……何て面白いんだ! 一緒にベッドに寝転び、俺が男だと分かった瞬間の、あの時の引き攣った顔もそう。 勝手に王宮に住み着いた俺の世話をなんだかんだ焼いてくれるし。 時にたくましく、強かで、鈍くて、常にローランド王のことを考えてる。 しかもローランド王もまた…… こりゃ、付け入る隙もねえな。 そう思って諦めていたのに。 あの性悪看護師リジーの一件で、アデリンと一緒に俺達は南の町に移り住んだ。 出産に育児、共同生活。 アデリン達と過ごす時間は本当に楽しくて。 いっそこのままローランド王と本当に離婚してくれたらなあって考えたりもしたけど…… やっぱり来るんだよな。ローランド王は。 だってこの男がアデリン以外を愛するわけないだろう? 分かってたけどさ。 レェーヴン一味を率いてこの王に楯突いてみようか? なんてな。 そんな事を考えながら、
Last Updated: 2025-10-05
Chapter: 番外編・ホイットニーの願い 私はホイットニー。 このクブルク国の王妃陛下、アデリナ様の侍女だ。 アデリナ様は性悪妻で、実家の加護を盾にローランド様を財布代わりにしてるだとか、税金を無駄遣いしてるとか言われてるけど、それは絶対に違う。 「キャアアアアアッ!ホイットニー! 今日、ローランド様と目が合ったの…! あのツンとした表情、あの見下したような冷たい瞳! 堪らないわ…!カッコ良すぎて心臓が止まってしまうかと思ったわ!」 ご覧の通り。 アデリナ様はすごくローランド様を愛されていらっしゃるのです。 お顔を真っ赤にして好きな人のことを話す、とても可愛らしいお方。 私はそんなアデリナ様が大好きです。 だけどある日を境に、アデリナ様はお変わりになられた。 「ホイットニー! 私はあの男と離婚したい……!」 ……作戦を変えられたのかしら? だってあんなに好きだった方と別れたいだなんて。まるで別の人のよう。 それにアデリナ様は自分がアデリナ様じゃないと私に言ってくるのです。それも真剣な顔して。 アデリナ様。 アデリナ様……いいえ、あなたはアデリナ様です。 だって……じゃなきゃ。あのアデリナ様はどこへ行ったというのですか? 幸せになって欲しかったのです。 ローランド様は寂しい幼少期を過ごされ、愛を知らないお方だからこそ、アデリナ様に愛を教えて貰いたかったのです。 でも今は……あの方はきっと本当のアデリナ様では無いのだろうけれど、生前アデリナ様が懸命に取り組んできた事を生かし、結果的にクブルクのために動かれていらっしゃる。 悪くはありません。アデリナ様と同じくらい愛くるしいお方です。 それにローランド様は今のアデリナ様をおそらく……… こうな
Last Updated: 2025-10-04
Chapter: 番外編・ランドルフの女神 私はクブルク国内の有力な侯爵家の次男。 自分で言うのも何だが、頭がいい。 この国の王でいらっしゃるローランド・フォン・クブルク王。 ローランド王に仕えてからは、誰よりも彼を優先し、誠心誠意尽くしてきた。 早くに前王を亡くし、二十代前半で王となられたローランド王。 彼がいつも人にも自分にも厳しいのは、国の危機的情勢を考えての事である。 威厳を保ち、クブルク侵略に目を光らせているぞという周辺国へのアピールでもある。 そんなローランド王が半ば強引に娶らされたのが、マレハユガ大帝国の第一皇女、アデリナ王妃だ。 はっきり言って私も当初は、アデリナ王妃が大嫌いだった。 ローランド王を自身のプライドの為にあちこち引っ張り回し、高いものを買わせ、貶して嘲笑う。 完全なる性悪妻。お可哀想なローランド王。 癒しが欲しいであろうに。 だが……ある日を境にあの王妃は変わった。 しかも180度。というよりもう別人だ。 私が一番初めに驚いたのはまずこれだ。 アデリナ王妃はルナール一派の問題解決の際に、荒れた鉱山から金を見つけ、それを最適なタイミングで届けて欲しいと私に直接依頼をしてきた。 そんな馬鹿なと思いながらも、急いで調査を進めると…… 何と。あの鉱山には通常の倍近い金が含まれている事が判明したのだ! 何ということだ……! 無価値だと思われていた鉱山を購入したのは、この為だったのか……! 私はこれまで自分が間違っていたことを悔い改めた。 アデリナ王妃は……性悪妻と見せかけてこのクブルク国を救う、女神様だったのだと!! それ以降、私は女神様をひっそりと敬うようになった。 時々—————— 「めが…‥じゃない、王妃陛下。」
Last Updated: 2025-10-03
Chapter: epilogue.愛のために我が子を失った悲劇の王妃に憑依しましたが、何やら幸せです リジーの件以降、王宮で私の悪口を言い、責め立てていた官僚や兵、侍女達はすっかり勢いを失い、大人しくなっていた。 皆あの時は、まるで魔法にかかっていたみたいだと口を揃えて言ったそうだ。 彼らには降格や謹慎処分、減給など、罪の重さに応じて処罰が下された。 あれからリジーはサディーク国の修道院で真面目に働いているという。 東部地方の守護神となったルナール一派は、時々レェーヴと連絡を取り合い、外敵からクブルクを守ってくれている。 軍事協定を結んだアルバ達もまた、諸外国の動きを把握し、軍備やクブルク国の防衛に協力してくれている。 サディーク国では「聖女祭」という祭ができたそうで、建てられた巨大な聖女像は明らかに私だった。放っておこう。 ちなみにローランドが私を探す時に使ったという聖遺物、あの十字架は、私が触るとまたすぐ使えるようになったみたいだ。 [癒しの力を使いました 聖遺物の力が全回復しました] ………って感じで。 皆の親密度は大体安定している。 だが皆かなり数字が高い(…何で?)。 そしていつも賑やかな現場には、今日もあの人がやって来る。 爽やかな銀の髪を上品に靡かせ「氷の王」と呼ばれ、皆から恐れられていた男。 愛を知らず、誰よりも愛を求めていた人。 だがそれは最早過去の話。 「アデリナ。やっと会えたな。 今日も綺麗だ。 愛してるよ。」 周囲の男達には目もくれず、ローランドは片膝を落とし、今日も欠かさず私の手の甲にキスをした。 そして私だけに最高の笑顔と、最高の愛の囁きを送る。 今や彼の異名は「溺愛王」。 アデリナ王妃と息子のヴァレンティン王子をどこまでも愛する王と言われ、多くの国民達に親しまれている。 私が初めてアデリナに憑依したあの日。 離婚してと迫ったあの時。 誰があの最悪な出会いから、こうなることを予測できただろうか?
Last Updated: 2025-10-02
Chapter: epilogue.愛のために我が子を失った悲劇の王妃に憑依しましたが、何やら幸せです ◇ 「か、体が持たない………」 散々ローランドに求められるのは幸せなんだけれど、とにかく容赦がない。 というより回数と時間が半端ない。何であんなに元気なの?あれが王の資質!? いや、関係ないか。 「ええ?うふふ。アデリナ様ってば。 愛されていて本当にお幸せそうですね。」 今日もホイットニーは可愛くうふふ〜と笑ってティータイムの為のお茶菓子セットを用意してくれている。 「だから言っただろ。 今ベタベタしたら逆効果だって! ローランド王はお前にベタ惚れなんだ。 煽ってどーする」 ブツブツと文句を言いながら、今日もレェーヴは私の向かいの席で焼きたてのクッキーをつまみ食いしている。 「アデリナ様。いくらあの時子供が産まれたら消えると約束したからって、まさか本当に消えるだなんて。 ……全く。陛下には貴方しかいないんですから。 今後は勝手に消えたりしないで下さいね。 分かりましたか?」 その隣でイグナイトが説教を垂れ、チョコレートケーキを上品に味わっている。 明らかに方向性が違う気がする。 もうローランドの事は諦めたのかな? そう言えばイグナイトの持っていたローランドのあの写真集、今度こっそり見せて貰おうかな。 特にNo.6の、ローランドの肉体美のやつ… 「いや、アデリナ様。 もしローランド王と離婚したくなったら、その時はぜひ我がサディーク国へ! 貴方ならば聖女として、皆から大歓迎されるでしょう。」 さらにその隣にはオディロン王太子。 なぜいる? そして—————— 「アデリナ様……ヴァレンティン様、すっごく可愛いです! もし彼が少し大きくなったら、僕が剣術を教えても良いでしょうか?」
Last Updated: 2025-10-01
Chapter: そして始まるイチャイチャ!馬鹿夫婦と言われて…… 「アオイ。好きだ……」 から始まったローランドとの甘いスキンシップ。 ソファの奥に私を押し倒し、片膝を乗せて体重をかけてくる。 「ん……ローラ……ン、」 体温の高い掌が頬を撫で、やがてローランドはソファを軋ませ、私の唇にキスをした。 キスってこんなに気持ちいいものだっけ? 「はあっ……アオイ。 産後の調子はどうなんだ? どこも悪くはないのか?」 「っ、はあ……っ、大、丈夫ですよ。 癒しの力があるからかな?」 「そうか。……なら思う存分、愛し合えるな。」 「え?」 熱い吐息と伴に唇にまたキスされ、掌で頬を優しく撫でられ、そのうちキスは頬、首筋、鎖骨へと移っていった。 首筋に至ってはキスマークが付くほど強く吸われた。 熱い……どうしよう? だんだん目が覚めてきた。 「っ、はあっ……アオイ。」 「ローランド……っ。」 狭いソファの上で見つめ合い、これでもかと言わんばかりに体を密着させる。 獰猛な獣のように鋭い目をしたローランドが、心地よさそうに甘い息を吐いた。 「お前に好きだとか、愛してるだとか言われたらもう、我慢ができない。 覚悟するんだな、アオイ。」 ローランドはさっと立ち上がると、そのまま私を軽々と抱えてベッドへ下ろした。 「え?あの……?ローランド?」 「アオイ。これまでずっとお前を抱きたくて我慢していたんだ。 今夜はもう……離してやらないからな。」 ローランドの目はやはり獣のようにギラギラと鋭く光っていた。 私も顔を赤くして、ローランドの激情を
Last Updated: 2025-09-30
Chapter: ※人気俳優に溺愛されています〜after story〜二人の未来について けれど、私と昴生はまさに今、遅い夏休みを取って、余暇を楽しんでいた。 忙しいプロダクションの業務は、優秀な副社長の佐久間さんに任せているから、何の心配もない。彼には悪いけど。 私達は相変わらず仲良しで、あの家のオープンテラスから芝生の広い庭を眺めていた。 「ママー、パパー。」 私と昴生を呼ぶ小さな愛娘。 テラスにいる私達を見つけて、テクテクと歩き、段をよじ登ってきた。 庭には小さなプールが張ってあり、大きなシベリアンハスキーがいて、庭を駆け回っていた。 洗濯物が風にはためき、娘の遊具があちらこちらに散乱している。 慣れた手つきで昴生が娘を抱えて微笑する。 「歩夢《あゆむ》〜は元気だなー。」 「ふふ。誰に似たのかな。」 昴生は愛娘と頬擦りしながら私の方を見た。 「誰だろうね。そうだ、分かった。 …俺の可愛い奥さんだな。」 「も、もう!」 「ははは。侑さん、赤くなる癖は抜けないんだね。 また、そこが幾つになっても可愛いんだけどね。」 相変わらず昴生は、今日も昔と変わらないイケメンぶりで、私を揶揄ってくる。 「昴生だって…相変わらずカッコいいよ。」 「え〜本当?それ嬉しいな。本気で。じゃあ侑さん、今すぐ俺にキスしなきゃね。」 「ええ〜、娘が見てるのに?」 「大丈夫、歩夢の目は一瞬俺が塞いでおくから。ね?早く。」 「もー…しょうがないなあ。」 相変わらず私は昴生の手の上で転がされ、愛おしく、幸せな日々を送っている。 愛する夫と、愛する娘。大きな犬がいる家。 ここに幸せがいっぱい詰まっている。 今私は、昔は知らなかった、幸せな人生というものを謳歌している真っ最中だ——————。※本編・after story完結です。
Last Updated: 2025-09-06
Chapter: ※人気俳優に溺愛されています〜after story〜二人の未来について 結婚式は盛大に行われた。 本当に天気も良くて、何もかもが私達の結婚を祝福してくれているみたいだった。 憧れのチャペルで私と昴生は愛を誓いあった。 神父を呼んでやるあたり、かなり本格的に。 私達の誓いには「健やかなる時も」ではなく、「病める時も」の方がしっくりとくる。 これまで本当に色々あったけれど———— 「誓います。」 「誓います。」 その時ふと、これから先の、二人の明るい未来のイメージが見えた気がした。 私達ならどんな困難があろうと、きっと乗り越えていける。そんな予感がした。 それでも、もし万が一。 この先昴生に、万が一、何か耐え難いほどの困難が訪れたとしたら————その時私は、そっと彼の隣にいよう。 昴生が何かに傷つけられて、心が壊れそうな時。 それ以上壊れないように、側で傷を癒そう。 寄り添って、対話しよう。 どんなに拒まれても諦めずに、力になれるよう努力しよう。 あの時、昴生が私を無性の愛で支えてくれたように。 私もまた、昴生を愛してるから、そうでありたいと願う。 「おめでとう〜!」「おめでとう、侑さん!綿貫さん!」 「おめでとう、侑ちゃん、昴生!」 鳥飼さんに、佐久間さん。 事務所の先輩後輩達。俳優仲間。米本さん。 我妻監督に、その家族。お世話になった映画のスタッフ。結局、両親は呼ばなかった。 それに変装したキャスリンも祝福で手を叩いてくれていた。 「侑、コーセー、おめでとう!悔しいけどお似合いよー!」 誰よりも熱く、誰よりもユーモラスな祝福に、私も昴生も顔を見合わせて、笑い合った。 ねえ…渉。見てるかな。 ありがとう。貴方が私にこの縁を繋いでくれたんだよ。 貴方を救えなかった私を、今だけは許してね。 その分
Last Updated: 2025-09-06
Chapter: ※人気俳優に溺愛されています〜after story〜二人の未来について 「あ……はあ。だ、だめ。」 「何が駄目なんです?侑さん。……っ、俺的にはいい眺めですけど。」 その夜、さっそく私は昴生にお仕置きされていた。 今夜はやっと二人きり。早めにご飯を済ませて、お風呂に入って…。 嬉しかったけれど、やっぱり・・・これが待っていた。 二人の寝室は広く、大きな窓、ドレッサーやクローゼット、軽く腰掛ける椅子もある。 薄く暗くついた照明が、私のほぼ裸の姿を映し出していた。 「俺、本気で嫉妬したんで」 「でも、あれ、私のせいではなくない?」 「いえ、侑さんのせいです。侑さんがあまりに魅力的だから悪いんです。…っ、はあっ。」 言っている事は荒々しいのに、昴生は顔を熱らせ、甘い息を吐いていた。 「う、ん……っ、い、これ、深い……」 今夜はお仕置きなので———私が昴生の上に乗り、さっきから腰を沈めたりして律動を繰り返している。下着がずり落ち、下から昴生にそれをじっくり見られて変な気分だ。 「これがお仕置き?…んんっ、はあっ、」 確かに格好は恥ずかしいけど…私だって気持ちいい。 だからこそ、昴生のいうお仕置きってやっぱりよく分からない。 淫らな姿の二人。淫靡な音が室内に響く。 私の下に、胸板が厚く、腹筋が割れた立派な昴生がいる。 甘い声で…私が動くたびに、気持ちよさそうに顔を歪める。 だがしかし、あまりにも私がゆっくり動きすぎたらしく、昴生に我慢の限界が。 眉間や首筋に青筋を立て、私の腰を掴んで、上下に激しく揺さぶり始めた。 「侑さん、っ、すごく気持ちいいです。」 「あ、それ!だめっ昴生…は、激しっ…」 「はあ。侑さん、侑さん、侑———愛してる。」
Last Updated: 2025-09-05
Chapter: 人気俳優に溺愛されています〜after story〜愛するということ 成田国際空港。———私達は目張りのあるレンタカーを借り、俳優組は怪しい変装をして、キャスリンを見送りに来ていた。 運転席に佐久間さん、助手席に昴生。 後部座席に私、キャスリン、キャスリンのマネージャーという変な組み合わせ。 ちなみに鳥飼さんはマネージャーの仕事で、お留守番だ。 「キャスリンさ〜ん!楽しかった〜! またいつかお会いしたいです〜」 と、キャスリンとの別れを心底惜しんでいた。 さすがに空港の中まで行くと大騒ぎになるので、空港内の駐車場の中で別れの挨拶をする事にした。 「あー楽しかった!本当に帰りたくなくなっちゃう! 侑、今度はアメリカにも遊びに来てよ、ね?」 「はい。分かりました、キャスリンさん。」 「もー、堅苦しいわね!でも、そんな侑も好き!」 キャスリンがバイである事は別に気にしないけど、狙われてる感があるのはちょっと警戒している。 「行く時は俺も一緒ですけどね。」 「ちょっと!コーセー!二人できたら、どちらともイチャイチャできないでしょ!?」 相変わらずキャスリンはキャスリンだった。 最後は握手を求められて——— 「侑、私達はもう友達よ! コーエーに思いなさい。この天下のハリウッドスター、キャサリン・カヴァデイルが貴方の友達になったんだから。」 「ふふ。ありがとう、キャスリンさ… キャスリン。」 そう言った途端、後部座席にいた私は隣にいたキャスリンに腕を引かれて、「チュ」っとキスをされてしまった。軽めだったけど。 「うふふ!侑の唇、貰っちゃった〜!」 「キャスリン・カヴァデイル! それはルール違反では!?」 助手席にいた昴生が本気っぽく怒り、キャスリンはきゃあ!と言いながら楽しそうに車を降りた。 「キスくらいは許してよ!コーセー! それじゃ、ま
Last Updated: 2025-09-04
Chapter: 人気俳優に溺愛されています〜after story〜愛するということ 昴生と二人、ベランダに出た。 この辺りは閑静な住宅街だ。夜の静寂に混じって、微かな風が吹いてくる。 少し火照った顔で、昴生は不満を口にした。 「何で皆、我が家に集まるんですかね。」 「ふふ。皆昴生を慕っているからだよ。」 「理由は、俺だけじゃないと思いますけど。」 私は改めて昴生に頭を下げる。何だか申し訳なくて。 「…昴生。ありがとう。母にお金を貸してくれて。相当な金額だったのに。」 私がそう言うと、突然、昴生がこちらを真剣に見つめ返した。 「侑さん。さっきは、侑さんのお母さんなのに、冷たくしてしまい、ごめんなさい。 そして…もしも侑さんが望むなら、結婚式に招待してもいいんですよ?」 「母を?」 「ええ。お父さんでも構いません。侑さんが望むなら、今ならまだ間に合いますから。」 昴生の黒髪が風に揺れる。 私のお母さんもお父さんも、招待リストには載せてなかったのに。 とっくに二人とは縁が切れたとばかり。 普通の娘なら許せていただろうか。 普通の娘なら、結婚式に来てと… その瞬間、昴生の逞しい手が私の長い髪に触れた。 「侑さん。無理にいい娘をやらなくてもいいんですよ。」 「え?でも、自分の親を招かないなんて。」 「さっきキャスリンも言っていたじゃないですか。家族って言うのは、血のつながりだけじゃないって。 辛い時にそばに寄り添ってくれる人を、本当の家族と言うのだと。 侑さん、俺があなたの家族になります。」 髪に触れる昴生の眼差しが熱い。 こんな風にいつも昴生は私を、情熱的に、躊躇いもなく見つめてくれる。そんなところも… 「侑さんが辛い時は、俺が支えます。 苦しみは一緒に背負います。 楽しいことは二人で分け合いましょう。 二人で幸せになりましょう? 恋人から夫に。家族に。 俺が侑
Last Updated: 2025-09-04
Chapter: 人気俳優に溺愛されています〜after story〜愛するということ 「侑!あなたもっと、ビシッと言ってやれば良かったのに!私を甘く見ないでって! しかも何なの〜!お金の話を終えたとたん、帰るとかありえな〜い!」 どうしてキャスリンが酔い潰れてるんだろう。 しかも私と昴生の新居で。 この惨状は一体…… 「侑さん〜、そうですよー!ずっと侑さんが苦しんでいた時は知らんぷりで、自分が苦しい時だけ頼ってくるなんて…ブツブツ」 鳥飼さんも私が作った料理を勢いよく食べ、お酒をたくさん飲み、いつもの事ながら酔っ払っている。 「も〜!まさかキャスリン・カヴァデイルとこうして食事する事になるなんて! 私ってやっぱりついてるわ〜!この仕事していて本当に良かった!」 「うーん!和食サイコウ!」 米本さんに、キャスリンのマネージャーもすっかり酔って、上機嫌だ。 あの後、おかずが足りず、急遽私と米本さんの二人で増えた人数分の食事を用意する事になった。 私はリクエストにあった通り、昼と同じ照り焼きチキン、和風つくしの食事を用意。 米本さんは色々アレンジを効かせ、家事代行サービスならではの、まさにプロのご飯を作ってくれた。 皆それを食べているうちに酔っ払ってしまった…というわけなのだが。 「キャスリンさんって、侑さんのお母さんの事、何か知ってるんですか?」 お酒に強い昴生が、向かい側に座るキャスリンを怖い顔して問い詰める。 「そう言えばそだね。キャスリンさん、あなた、私の事を何か知ってるの?」 キャスリンが、ああやって母をバッサリ切り捨てる理由は何だったんだろう? 何だか母に怒っているようにも見えたし。 「…調べたのよ。ロサンゼルスで初めて二人に会った夜に。 どうしても悔しくて! 私の大好きなコーセーのハートを奪った侑は、一体どんな人なんだろううって!」 キャスリンは顔を真っ赤にし、半ばキレ気味に私の過去などを調べたと、暴露した。 その事に対し、なぜか昴
Last Updated: 2025-09-03
Chapter: エピローグ:流星の約束【完結】二人で星を見上げた。確かキャンプの日だ。 いつか一緒に。 いつか結婚して、夫婦になろう。 そう誓った時、空には流星が———。 --- あれから二度目の流星祭りが開催されている。 主催者はマルツィオで、ビアンカとはあんな形になってしまったが、彼は今でも数多くの国民に愛されている。 あれからエルミニオは一般人として、立派に働いているそうだ。 モンテルチの神官は処刑、ビアンカは幽閉。 リーアは監獄で、地獄のような日々を送っているらしい。 一方、私とルイスは補佐役で、去年の比ではないくらい目まぐるしく動いていた。「ルイス様!ロジータ様!」向こう側から、手を振って歩いてくるアメリアとマルコたち。「アメリア、マルコ。」爽やかな笑顔を浮かべる、ダンテもいる。 そういえばダンテは目標金額を貯めて、お母様の離婚を勝ち取ったと。 良かったわね、ダンテ。 これで少しは、お母様と気兼ねなく過ごせるかしら。「それではまた後で!」三人はこの後出店に行くという。 楽しんでいるみたいで良かった。 多くの国民。家族が笑顔で私たちの横を通り過ぎて行く。 この後私たちも仕事をひと段落させて、二人きりであの赤い屋根の塔に登った。「わあ、見て!ルイス!」塔の最上階から見た星空。 手を伸ばせば届きそうに感じる。「ロジータ、手を。」今夜のルイスと私のドレスコードは煌びやかな群青色。 星の刺繍が裾を彩る。 輝く空の下で、私とルイスはダンスを踊った。「実はあなたのことを理佐貴じゃないかと感じたのは、ずっと前だったのよ。」「俺もそうだ。何度も何度も。 お前に懐かしさを覚えていた。」ルイスとの幸福なダンス。 嬉しくて回転していたらまた———滑った。 こんないい雰囲気で、例のドジが発動しなくてもいいでしょ!「きゃ!」「ロ
Last Updated: 2026-01-31
Chapter: エピローグ:流星の約束全てを丸く収めたマルツィオが、ルイスの前で誠心誠意、頭を下げた。「これまでお前に冷たくして、済まなかった。 キアーラの死をどうしても受け入れることができなかったんだ。 幼いお前のせいじゃなかったのに、私は残されたお前にどう接すればいいか、分からなかったんだ。」彼の前妻、キアーラ王妃への愛は深く。 私たちもまさか、マルツィオがリーアの真実を暴くとは夢にも思わずに。 ルイスは少し寂しげに微笑し、マルツィオに優しく応えた。「大丈夫です、父上。お気持ちはよく分かりましたから。 俺にも大切なロジータがいます。だから分かるんです。」「ルイス……!」良かった。二人の間の長い蟠りが解けたようで。 これからは親子仲良く、ヴィスコンティを導いていくことだろう。「ロジータの刻印が変化したのも、治癒力が使えるようになったのも、この世界の本物の神がお前たちを認めたからだろう。」マルツィオの言葉には感慨深いものがある。 確かに、私たちは本来の物語になかった道を歩んできたし…… それに、終盤では原作者も消えた。 リーア(ルクレツィア)の思い通りになることもなかった。 つまりこの世界の本物の神が、世界に干渉した、ということだろう。 あの禁書庫で聞いた女性の声。 あれが、ヴィスコンティの神話に登場する、星の女神だったのかもしれない。 --- これまで、本当に長かった。 私とルイスは宮殿のテラスから、二人で眩しい夜空を見上げた。 ヴィスコンティは星にまつわる伝説の多い国。 その瞬間も、宝石みたいに散らばる星が、空一面に輝いている。「『俺は大丈夫だよ、心配しないで。』と言いたかったのに、声が出なかった。 あの時、病室で…… 涙を流す君に触れて、安心させてやりたいのに、できなかった。 自分は何て無力なんだろうと。 泣いてる君に申し訳なさを感じながら、少しずつ目の前が真っ暗になっていった。 “約束守れなくて、ごめん”な。 あの言葉を、ずっと言いたかっ
Last Updated: 2026-01-30
Chapter: 第三章:運命の大逆転ルイスは確かに七央と呼んだのだ。琥珀色の瞳で、しっかりと私を見つめて。「理……佐……貴?」喉がごくりと鳴る。また都合のいい夢でも見ているのかと。彼は傷の塞がった胸を見ながら、全ての状況を飲み込んだかのように頷く。私の手に支えられて、ゆっくりと上体を起こした。ダンテもエルミニオたちも、時が止まったように私たちを見ている。「黒い髪に、黒い瞳。名前は白石七央。俺たちは同じ大学だった……初めて会った時、すごく明るくて、可愛い子だと思ったんだ。だから告白した。趣味が似ていたよな。星が好きで……よく二人で望遠鏡を持って、キャンプに出かけた。暑い浜辺で、デートもした。あの時の七央、可愛かったな。結婚しようと、約束したよな……なのに。ごめんな。俺があんなことにさえならなければ……」「……私がおかしいのかな。なんだかルイスが、理佐貴に見えてくるわ。」目の前にいるのはルイスなのに、そのはずなのに。ルイスの姿と、かつて大好きだった恋人・理佐貴の姿が重なって見える。涙がまた溢れてくる。「おかしくないよ、七央。俺は、俺だったんだ。ずっと———お前のそばにいたのに、気づかなくてごめん。」彼が優しく囁いて、私の涙をそっと拭き取ってくれる。それから私の肩を抱きしめ、引き寄せる。どくん、どくんと心臓が音を奏でる。温かくて、どこか懐かしくて。私の知ってるルイスであり、理佐貴だ。夢なんかじゃない。これは現実だ。だって今目の前にいるルイスの中に、確かに理佐貴の存在を感じるのだから。「やっぱり、あなただったの……?理佐貴。会いたかった!」
Last Updated: 2026-01-29
Chapter: 第三章:運命の大逆転原作者がロジータの脳内に直接語りかける。《ロジータ・スカルラッティ、お前は、物語の悪役令嬢だ!エルミニオとリーアの愛の物語を完成させるため、死ななければならない!》彼の怒鳴り声と、リーアの荒々しい声とが重なる。「あなたのせいよ!死んで!」リーアに狙われた私は逃げる暇もなく、反射的に目を閉じる。どこかで聞いたことのあるような、重く鈍い音が響く。あれ……?私、死んでない………。次の瞬間、エルミニオとダンテたちが叫んだ。「ルイス!?」「ルイス殿下!」「ルイス様!」ルイス……?瞑っていた目を開けると———。私の目の前で、ルイスがリーアにあの剣で胸を突き刺され、口から血を流していて……「そんな……ルイス、私はただ……」リーアは困惑した姿を見せ、剣を手放した。そうして、血のついた手を振り払う。あの時と同じだ。私がエルミニオに心臓を突き刺されたあの時と。息もできないほど、痛くて苦しいはずなのに。「ロジータ……無事か?お前が無事でよか……」「だめ、ルイス……」なぜ、私たちはまた、一緒になれないの?また?私は膝をつき、血で体が染まっていくルイスを抱き止める。「ロジータ様、無理に剣を抜いてはいけません!」あの時———エルミニオは、私から容赦無く剣を引き抜いた。そうして、虫の息だった私をルイスが救ってくれた。まずは剣を抜かなければ、何も始まらない。血が出続けるルイスの心臓を抑えながら、私は驚くほど冷静だった。アメリアはルイ
Last Updated: 2026-01-27
Chapter: 第三章:運命の大逆転あの後、エルミニオに無理やりベッドに押し倒され、「ルイスと離婚しろ」とまで脅される。確かにエルミニオは私が14年間も愛した人。しかし今は、全くときめかない。嫌悪感だけが募っていく。本当の愛というのは、こんな自分勝手なものじゃない。「ロジータ。お前はもう逃げられない。」「私に何かしたら、後悔しますよ。」———と言ったら、今度は泣くし。一体何なのだろう。エルミニオの情緒が壊れてるのだろうか?リーアに操られたせい?彼もまた物語に抗っているのかもしれない。「俺が間違っていたんだ。ずっと、リーアを愛していると思い込んでいた。だが、リーアはどこかおかしい。その違和感に気づいてから、俺はもうリーアを信じれなくなった。だが、ロジータ、お前は違う。お前はかつて、温もりと優しさ、そして純粋な愛を向けてくれていた。その優しさに胡座をかいていたのは俺だったんだ。失ってはじめて、お前の大事さに気づいた。」そう号泣されても困る。私にはもう、エルミニオの大事さはルイスの爪の垢ほどもない。冷たい女かもしれないけれど、先に裏切りを働いたのはあなただ。だからこそ、いつまでも、物語に。リーアに踊らされていればよかったのに。「だが、それとこれとは話が別だ。俺から逃げようとした罰だ。ルイスが貪ったこの体を味わうのは、俺のはずだった。だから今からお前を奪う!お前に俺を刻み、ルイスのことなど忘れさせてやる!」「やめて……っ、私がルイスをどれだけ愛しているか……っ、私がルイスじゃなきゃ駄目な理由がたくさんある。あなたではルイスの代わりにはなれない!一生ね!大事だと思う誰かを裏切る時点で、あなたには愛を語る資格なんてないのよ!エルミニオ・ヴィスコンティ!」———人は、大切な誰かを想うことで変わる。私はルイスを。ルイスは私を。最初から私たちが結ばれない運命だったのだとしても。『星の刻印』が変化したように———私は何度だってルイスのために奇跡を起こす。「愛してる。ロジータ。もう離さない。」エルミニオが私の首筋に勝手に顔を埋める。勝手に指を絡ませてくる。私、ルイスを愛してる!こんなことされるくらいなら死を選んだ方がましよ!「ルイス———!」力の限り彼の名を呼ぶと。バタンと扉が開いた。「兄さん……いや、エルミニオ・ヴィスコンティ!血迷った
Last Updated: 2026-01-25
Chapter: 第三章:リーアの暴走ルイスを弄んであげようとしたところへ、見張りの兵が慌てた様子で戻ってくる。「何ですって?エルミニオ様が来ない?」あのモンテルチの神官と同様、私を崇拝する兵たち。その一人が、気まずそうに目線をさげる。彼が言うには、確かに途中までは、エルミニオ様はこちらに向かっていたのだという。しかし、後になって、来た道を引き返すのが見えたと。「エルミニオ・ヴィスコンティ……!私があなたのヒロインで、あなたは私のヒーローなのに!私たちは絶対に結ばれるべき運命なのに!ばかにして!」ああああ!!っと叫び、また私はそこら中にあったティーカップや皿を床に投げつける。怒りが収まらない。原作者も私の手のなか。原作の知識も教えてもらって、完結間近まで知っている。急遽、原作の改変までしたのに……なんでこう、うまくいかないの!?一体、何が私の物語を邪魔しているの!「引き続き、エルミニオ様を追いかけて!早く……!」私が怒鳴り声をあげると、兵たちは慌てた様子でその場から立ち去って行った。ガリガリと爪を噛みながら、気を取り直してもう一度ルイスのいるベッドへと足を運ぶ。しかし、またしても———バタンと、荒々しく部屋の扉が開く。「今度は何……!」振り向いた瞬間、体が金縛りにあったように動けなくなった。え……?何これ!塔の扉を無理やり開いたのは、彼ら———。「やっぱり、あなただったんですね!リーア・カリヴァリオス様!」何でこの者たちがここへ……?「ルイス様を返してください!」ただのモブ———であるはずの彼らが一体なぜ、この場所
Last Updated: 2026-01-24