嘉山は呆然とし、思わず問い返した。
「え……違うのか?時雨が無理やり真夏を追い出したんじゃ……」
相澤夫人も我慢できずに口を挟む。
「だってお義父さんが無理やり二人を結婚させようとしたからよ?あの子はいい子だったのに……どうして婚約を破棄させなきゃいけなかったの?」
「いい子?」
相澤当主は冷たい笑みを浮かべ、書類の束を取り出した。
「お前の言ういい子はな、うちが倒産寸前になった時、必死になって嘉山というお荷物を切り捨てようとしたんだぞ!
当時、家の経営が傾いて、俺は長年付き合いのあった榎本家に助けを求めた。だが……やつらは助けるどころか、婚約破棄を申し出て、ついでにうちを食い物にしようとした!
俺も仕方なく婚約解消に同意したんだ。嘉山が傷つくと思って、真実はお前たちに黙っていた」
相澤当主は悔しげな表情を浮かべ、申し訳なさそうに私を見る。
「だが、そのせいでお前たちは狼をウサギと思い込んで、時雨をここまで苦しめることになってしまった!
嘉山、お前も考えてみろ。この何年、一番辛い時に、ずっとそばにいてくれたのは誰だった?」
嘉山の瞳に戸惑いがよぎる。床に落ちた書類を拾い上げ、読み進めるほどに顔色がどんどん青ざめていく。
相澤夫人もその変化に気づき、ついに書類を手に取って読み始めた。
二人が読み終えた後、硬直したように呆然としている。
真夏の顔には一瞬、後ろめたさがよぎる。無意識に嘉山の腕を取ろうと、いつもの甘えた仕草を見せる。
だが、彼女の手が嘉山の袖に触れるより早く、彼の手がその手をはね除けた。
嘉山の視線は、深い失望に満ちていた。
「真夏……これ、本当なのか?」
真夏の声は小さくなり、つい口を滑らせる。
「だって……あなたの家があの時どんな状況だったか、知ってるでしょ?私がそんな貧乏人の嫁になるわけないでしょ?
でも、今はもう立て直したんだし、また元通りになれるじゃない?」
真夏が認めるのを聞いて、嘉山は口を開いたが、何を言えばいいのかわからなかった。
「お前……そんな人間だったのか?」
相澤当主は呆れたように吐き捨てる。
「最初からこういう人間だったんだ。お前たちが見抜けなかっただけだ!」
そう言ってから、彼は嘉山をじっと見据え、重々しく言った。
「さっきお前の母さんが、時雨は体外受精の手術に行かなかったっ