『凛との結婚は絶対にない。彼女と関わるのは止めてほしい』
その言葉を聞いた途端、母の顔色がサッと変わった。驚きと信じられないという感情が入り混じった表情だ。
「 なに言ってるの、啓介。凛ちゃんは、あなたのことをあんなにも思ってくれているのに…」
母の声は明らかに動揺していた。母は凜にすっかり心を奪われているのだろう。
「凜は母さんが思っているような人じゃない…。」
強い口調で母に釘を刺した。佳奈に対する挑発や計算された行動、人前での猫を被った姿など凛の本性を知った上での警告だった。彼女が母に近づき、ありもしないことを吹き込んでいることを感じ取ったからこそ、これ以上母が凛に惑わされることを避けたかった。
しかし、その想いは母には届かなかった。母は凛を信じ切っているようだった。母には、凛は明るく健気で俺へのひたむきな愛情を持っている女性に映っているのだろう。そのため、俺の言葉を素直に受け止められなかった。
「啓介、あなたは佳奈さんに影響されすぎているわ。凛ちゃんを否定するなんて…」
俺の真意を誤解したようで、母は怒りというよりも深い悲しみと絶望に満ちた声で言った。俺が佳奈によって本来の自分を見失い、操られているのだとより悪い印象を持ったようだった。母の顔には、佳奈への嫌悪感と不信感と俺への失望が露わに刻まれていた。