丈は契約書の終了日を見て、あの頃から私の態度が変わったことを思い出した。
彼は信じられなかった。
私がこの八年間、彼に尽くしてきたこと、細やかに世話を焼いてきたこと。
それがすべて、この契約のせいだったなんて。
「俺の許可なしに、逃げられると思うな」
丈はすぐにスマホを取り、アシスタントに電話をかけた。
私の行方を探すように命じた。
丈が私を探しているということなど、遠くM国にいる私はまったく知らなかった。
その頃の私は、和真と新商品のデータについて話し合っていた。
長い間社会から離れていたせいで、最初は少し戸惑った。
でも、仕事の忙しさに助けられて、その違和感もすぐに気にならなくなった。
数日前、スタジオでスキンケア商品の開発案件を受けたばかりだった。
私は和真とともに、チームを引き連れて毎日残業していた。
ちょうど一つの結論が出たところで、私のスマホが鳴った。
発信者は野上家の使用人だった。
私が家を出たことを知っている人は少ない。
彼はそのうちの一人だった。
彼は言った。
丈は毎日仏頂面で帰宅し、家の使用人たちはいつ彼が爆発するかと恐れていると。
料理も何を作っても口に合わず、挙句の果てに二日ほど私の行方を捜させて、見つからなければすぐに諦めた、と。
そして今では、萌々を家に呼び寄せ、住まわせているらしい。
彼の言葉に、私は少しも驚かなかった。
丈が人を使って私を探したのは、ただ私が突然姿を消したことで、彼の顔が潰れたと感じたからだろう。
数日も経てば、私の存在など彼の中ではもう大したことではなくなっていたのだ。
私は彼の話を聞き流した。
けれど知らなかったのは、彼が電話を切ったあと、少し離れたところで丈が彼を見ていたということだった。
「野上さん……」
言いかけた言葉を、丈が低い声で遮る。
「時雨と連絡が取れるのか?」
丈の鋭い視線に怯えながら、使用人はゆっくりと頷いた。
「もう一度、彼女に電話しろ」
再びその番号からの着信があって、私は少し訝しんだが、結局出た。
「はい、矢口時雨です」
だが、まさか聞こえてきた声が丈のものだとは思わなかった。
「今どこにいる?」
私は数秒沈黙した後、淡々と問い返した。
「用件は?」
丈は執拗に、さっきと同じ質問を繰り返した。
私の残り少ない忍耐が、