委員会活動――残業――を終えて、いつもより一時間ちょっと遅く帰ってきた私は、ふと傘越しにマンションの自宅窓を見上げて、家の中が暗いことでまだ孝夫さんが帰宅していないのを知った。
(あんなに文句言ってたから今日はいつもより早か帰る予定でもあったのかと思ったけど……違うのね)
もともと孝夫《たかお》さんは、帰りがいつも20時とか21時の人。だから本当は私が少々遅く帰ったところで彼に影響はないのだ。
それでもそんな勝手な判断でいつも通りの時間(16時頃)には帰れないことを言わないでいると、「穂乃《ほの》の癖に俺に隠し事とかすんなよ!」と機嫌の悪くなる人だから、私はいつも逐一自分の予定を彼に話すようにしている。
(孝夫さんは遅くなる日も早くなる日も、私にはなんにも言ってくれないのに……)
彼の帰宅時間が読めなくて、料理の温め直しのタイミングを推し量りづらいのは、結婚した当初からの私の悩みのひとつなの。
自分は良くても私はダメ。孝夫さんはお付き合いしていた頃から、そういうところのある人だった。
朝は篠突く雨だったけれど、今は細く静かな雨がしっとりと地面を濡らす地雨《じう》に変わっている。
犬のパウがあしらわれた愛らしい傘の布地を細かな雨粒が淡く叩く。薄い水の膜を張ったような街の喧騒も、いつもよりいくぶん和らいで感じられた。
耳を澄ませても雨音はほとんど聞こえないのに、傘越しに見る街の輪郭は静かな雨のせいで滲んだ絵のようにぼやけていて、何だか物悲しい気持ちにさせられてしまう。
朝からずっと降り続いている雨は、土と草の匂いを水の中に溶かし込んで、いつもなら感じられない香りを立ち上らせては私の鼻先をくすぐった。きっと犬のうなちゃんなら、もっともっとたくさんのにおいを嗅ぎ分けられるだろう。
息をするたびに蒸した空気が傘の内側に忍び込んできて、身体を気怠くさせる。しっとりとまとわりつく湿気は、雨に触れていないはずの襟元や髪の毛を、じわりと重くした。
足元ではあちこちに大小様々な水たまりが広がり、それを避けるようにして歩いたはずなのに、靴の縁から染み込んできた水が靴下を濡らしている。
空はどこまでもどんよりとした曇天で、「明日も雨かなぁ」と呟いたら、口の端から自然と吐息がこぼれ落ちた。
天気が悪いからいつもより少し薄暗いけれど、先月に比べればだいぶ陽が長くなっ